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第1章ー6 ”ルリタテハの踊る巨大爆薬庫”本領発揮

「ゴウ、テロリストの指揮官と妨害電波の発生場所を特定できるか?」
『史帆、分かるか?』
『妨害電波はフェアリーポートの周囲。ただターミナルⅡからの妨害電波が一番強い。それとモノノフとの間で暗号通信してる』
『史帆、ジンとの通信回路を開け』
「オレはターミナルⅡを強襲するぜ」
『うむ、ジンたちと協力してなら良いぞ』
「しないと言ったら?」
『ターミナルⅡを宝船の主砲で吹き飛ばす』
 アキトの安全を優先しているはずなのだが、ゴウの嗜好全開にしか思えない。
「人質はどうすんだよ」
『・・・ふむ、運に任せよう』
 ゴウが言うと、まーーーったく冗談に聞こえない。
 人質の生死が、ゴウの運次第で決まるという理不尽極まりない状況らしい。
『通信確立』
 強力な妨害電波の飛び交うフェアリーポート内で史帆はジンたちとの通信確立に成功した。
『流石だ、史帆。ジン、こちらゴウだ。宝船と七福神ロボでモノノフを一掃する。テロリストのいる確率の高いターミナルⅡをアキトと占拠しろ』
『我に命令するとは良い度胸だ』
『対案はあるのか?』
『拘束したテロリストから、ターミナルⅢにも仲間がいるとの情報を得た』
『うむ、なるほど・・・ターミナルⅢはモノノフの整備基地だから夜間に人はいない。今はテロリストのみ・・・いや、待てよ。モノノフを稼働させるため、人質を連れて行ってるかもしれないぞ』
『いいや、テロリストのみだ。フェアリーポートの職員は、ターミナルⅡとモノノフ駐機場で人質となっている』
「確実か、ジン」
『我に間違いはない。ルリタテハの唯一神に誓っても良い』
 自分に誓うってか。オレには、ゴウの運任せと何一つ異ならないようにしか思えない。
『ルリタテハの踊る巨大爆薬庫ならば、建物の破壊を躊躇しない。よし、ターミナルⅢは宝船の主砲で破壊するぞ。構わないな、ジン』
 ゴウは自分の仕業を”ルリタテハの踊る巨大爆薬庫”の所為にする気だった。
『赦す。ターミナルⅡとモノノフ駐機場は、我らに任せよ』
 ジンは全く気にしていないようだった。
『了解だ、ジン。翔太、モノノフを惹きつけろ。アキトたちに近づけさせるな』
 ゴウのバリトンボイスによって指示が、絶対遵守の命令に聞こえる。
 その説得力のある声に、敢えて反論できるのも兄妹だからだろうか?
 千沙と翔太が、まるで緊張感のない声で会話する。
『翔太ぁ~。下手な操縦したら、宝船の主砲で七福神ロボごとモノノフを吹き飛ばすからね~』
『いやいや、千沙。ボクの操縦が下手な訳ないだろう。だからさ、七福神ロボにレーザービームが命中しない。そうそう、千沙が狙って主砲を撃ったって、絶対に無理さ』
 風姫もゴウの指示に反論する。
『いいえ、ジン達がターミナルⅡに到着するまでは、私がモノノフの囮になるわ。それで問題ないわね』
 4機の七福神ロボでは16機のモノノフを惹きつけられはしない。翔太が簡単に撃破されるとかいうのではなく、囮としての魅力が足りないのだ。
 テロリストの狙いは風姫だからだ。
「問題だらけだぜ。囮なら、カミカゼを操縦しているオレの役目だろうが」
 カミカゼを1機追加しても冷やかしにしかならないだろうが、テロリストの眼前に風姫を晒すよりマシだ。
『アキトじゃ歯牙にもかけられないでしょうね。お嬢様がカミカゼの後ろに乗るのをお薦めします』
 オレの気遣いを彩香が無にする提案をしてきた。
『そうね。アキト、私の下に来なさい』
「オレは風姫の召使じゃねぇーぜ」
『アキトの想い人である私の下に来てくれないかしら』
 風姫が要望に願望を加えて依頼してくる。
「逆じゃねぇーのか?」
『お互い様で許してあげるわ』
 二人の会話に不機嫌な声色で物騒な台詞を千沙が吐く。
『あのね~。口より手を動かしてくれないかな? 宝船の主砲が、なぜかターミナルⅡを照準しちゃうんだよね~。それにね、人って小さいくって~、主砲でモノノフ撃破すると巻き込まれるかもしれないよ~。そうなったら仕方ないよねぇ~~~。不慮の事故だもん』
 これ以上の無駄口は命にかかわると、オレは理屈でなく心で理解し、風姫に一言だけ告げた。
「風姫を拾ってターミナルⅡに往くぜ」
『わかったわ』
 会話で全員が作戦を理解し、風姫の承諾で作戦が決定した。
『ゴウよ。宝船で全員との通信リンクを確保しろ!』
『うむ、任せろ』
 無駄口を叩かず全力で作戦遂行する・・・連中ではなかった。
『アタシがやってる・・・』
『いやいや、それはみんな知ってるさ。指揮命令系統の問題さ』
『うん、分かってる。ちょっと愚痴りたかっただけ・・・ありがと、翔太』
 宝船から砲撃できないようモノノフが風姫に絡みつく。
 七福神ロボが風姫からモノノフを排除する最短最速の機動をとる。無駄な動作がないにもかかわらず、かなりアクロバティックな軌道を描いた。
 ハンガー裏からカミカゼで飛び出したアキトが、その隙を衝いて風姫を後ろに乗せた。
「行くぜ、風姫」
「構わないわ」
 上下左右に孤の軌道で、ターミナルⅡへとカミカゼをスムーズに疾走させる。
「でも、お姫様らしい扱いを要求するわ」
 風姫は後ろから身を乗り出し、アキトが握っているハンドルから両手を外そうとする。所謂お姫様抱っこでカミカゼに乗りたいらしい。
 風姫たちの酔狂には、まったく付き合いきれない。
 オレは安全第一で危機を乗り越えたいのだ。
 風姫たちと行動を共にするのが一番の危機じゃないかと頭を過ったが、無視することにする。
「それなら護衛を増強してもらえないかなぁー」
「命は大事だわ」
「オレの命は大事じゃないってか?」
 いつもの口調に情熱的な言葉をのせ、風姫がアキトの耳元で囁く。
「私と一緒なら、アキトの命は保証されるわ。どうかしら?」
 刹那の間、アキトは風姫のセリフに魅了されてしまった。
「まあぁあぁああ、仕方ねぇーから信用してやるぜ」
 流石に操縦は乱れなかったが、アキトの返答は動揺を隠せていなかった。
 そして、適当な会話で作戦が決まってから15分後、戦闘が終結したのだった。

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