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32章 心の癒し屋

 アカネは二日ほど寝ていた。睡眠をとらなくてもいい身体ではあるものの、たまには思いっきり休みたかった。身体にメリットはなくとも、心の栄養になりうる。睡眠は体を休めるだけでなく、心の疲れを癒す効果がある。

「心の癒し屋」を発見。「セカンドライフの街」には、こういうタイプの店もあるのか。

 超能力、疲れない身体を入手したものの、心に関するスキルは一つもない。それゆえ、普通の人と同じように疲れていく。メンタルを癒してくれる人と一緒になりたい。

「心の癒し屋」の内装は、「スリースクール」よりも派手だった。赤、緑、青、黄色、オレンジ、金色、紫のライトの照明が、室内を照らしている。七色であることから、虹をモチーフにし
ていると思われる。

 派手な内装は心を活気づけることはできても、癒しにならないような気がする。「心の癒し屋」というより、「心の元気屋」の方がピンとくる。

 利用せずに帰ろうかなと思っていると、店員から声をかけられることとなった。   

「レベル95のアカネ様ですね」

 ネジの外れたような場所にも、名前を知られてしまっているようだ。有名人というのは、いろいろと不都合なことが多い。

 アカネはダメもとで利用することにした。奇跡的に心の癒しになれば、次回も尋ねてみようと思う。

「料金はどれくらいですか」

「最初の1時間までが5万ゴールドです。1時間を超過した場合、10分ごとに5000ゴールドが加算されます」

 心を癒す代金は高めに設定されているものの、5万ゴールドで癒せるならいいかな。どんなに大金を払ったとしても、人間の心は癒せない。

「男女合わせて500人の従業員がいます。全員が独身で、交際している人はいません」

 独身、交際していないことが、従業員としての条件なのかな。アイドルグループと同じく、夢を与えるのを仕事としているようだ。 

 500人ともなると探すのも一苦労。いろいろなタイプを用意したのだろうけど、もっと厳選してほしいところ。

 高校時代の彼氏に近い雰囲気の男性を見つけたので、指名しようと思った。できることなら、中身も同一人物であれば最高だ。

「この男性をお願いします」

 アカネの心の中は期待が10、その他が90だった。90の内訳については、うまく表現できないけど、マイナスの感情であることだけは確かだった。

「ヒロシさん、指名が入りました」

 ヒロシは茶髪でロン毛だった。他人の心をいやすというより、ホステスに近いイメージだった。

 茶髪だけでなく、派手なピアスをいくつもしていた。アカネは予想と違ったからか、くちをあんぐりとあけていた。

「アカネ様、いつもおつかれさまです」

「癒し屋」とついているだけあって、女性の扱いにはなれているようだ。アカネは嬉しくもあり、寂しい気分にもなってしまった。不器用な男性の方が、感情移入をしやすい。

 高校時代に好きだった男性とは、似て非なるものだった。一ミリたりとも、ときめきを感じることはなかった。

「アカネさん、どうかしましたか」

「いいえ、だいじょうぶですよ」

 冷たい空気を醸し出していたのか、男性は心配そうに見つめていた。

「心は大丈夫ですか」

 癒しはテクニックではなく、誰に癒されているのかが非常に重要だ。本気で癒してほしいときは、好きな男性、心から信頼している人以外では効果は薄い。

 アカネはたわいのない話をしたあと、切り上げることにした。一刻も早く開放されたいという思いが強かった。

「いろいろと疲れているので、今日は切り上げさせてもらいます」

「アカネさん、またのご来店をお待ちしています」

「癒し屋」はお金をどぶに捨てるだけでなく、ストレスのたまる場所のようだ。メリット0、デ
メリット100だった。

 誰が利用するのかと思っていると、50くらいの男女の集団が入っていった。現実世界における、息子活、娘活をしたいおじさん、おばさんのたまり場なのかもしれない。癒しという本来の目的は果たせなくとも、若い異性と接したいのであれば利用価値はありそうだ。

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