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セブの月といえば その3

 今日もナカンコンベのコンビニおもてなし5号店は開店直後から大盛況です。
 朝の7時に開店して夜の7時まで営業しているコンビニおもてなし5号店ですが、朝の開店前には出勤途中のお客様が列をなして開店を待ってくださっています。

 ここコンビニおもてなし5号店は、辺境都市ナカンコンベの中央に近い位置にあります。
 中央にある役場の西方少し行った場所ですので、都市の中央に集中している役場や商店街組合、冒険者組合をはじめとしたいわゆる公共機関や、中央付近にお店を構えている大手の商会や商店へ出勤する方々で、街道は朝早くからごった返していまして、そのお客様の多くが最近はコンビニおもてなし5号店を利用してくださっている感じです。

 これは、僕が元いた世界で営業していた頃のコンビニでよく言われていたことなのですが、コンビニは、通勤経路にあるないでその売り上げが大幅に違います。
 毎日出勤で通る道、その途中にあるあのお店。
 そこで毎朝朝飯用のパンと飲み物、お昼の弁当を購入するのがいつものパターン。
 皆さんの出勤経路のいつもの行動の中にそんな感じで入る混むことが出来れば毎日安定した売り上げが期待出来ますからね。
 僕が元の世界で経営していたコンビニおもてなしは、僕が店を継いですぐの頃は近所にあった高校の通学路の途中だったこともありましてそれなりに売り上げがありました。
 ただ、それに目を付けた他の王手コンビニチェーンさんが、ウチの店の周囲に短期間に4店も出店なさったものですから、弱小コンビニだったおもてなしはその余波のせいで一気にお客さんが離れまして窮地に立たされたんですよね……あの時はホントにきつかったです。

 今のコンビニおもてなしは、いい感じでこの通勤途上のお客様達を取り込むことが出来ています。
 
 この世界でも朝ご飯やお昼用のお弁当を販売しているお店は他にもありました。
 ですが、その大半は食堂を経営していてそのついでに販売したり、商会や商店が他の商品のついでにおいていたり、と、そんなに大々的には販売していなかったんですよね。
 食堂は、どちらかというと「ウチの店で食べてって、それで食べ足りなかったら買ってってよ」的な意味合いで販売していた感じですし、商会や商店は立ち寄った冒険者がそのまま遠出するのなら非常食として一緒にどう?的に売っている物が多いので、味よりも保存性の高い物が優先されてたわけです。
 本来、店で食べる的な文化が浸透していた中に、買って帰って家で食べる文化を持ち込んだのが、このコンビニおもてなし……と、いえなくもないわけですが、今のところ皆さんにこれがいい感じで受け入れられている感じでして、連日朝一番から多くのお客様にお越し頂けているわけです。

◇◇

 そんな中始まったウルムナギ弁当フェアですが……はっきり言いますと、5号店では期待したほどの成果があがりませんでした。

 やはりウルムナギという食べ物が浸透していないというのが一番のネックでした。
 その点で言いますと、タテガミライオンやデラマウントボアの肉と一緒にして販売した作戦は成功だったわけでして、これらのコラボ弁当はすべて早々に売り切れた次第です。
 皆さん、
「お、あのタテガミライオン弁当の新作か」
「へぇ、デラマウントボア弁当の新作ねぇ」
 そんな感じで、あくまでも購入の動機は「タテガミライオン」であり「デラマウントボア」なわけですけど、少なくともこのコラボ弁当を作成した理由である
『まず口にしてもらうこと』
 という目的は果たせたかな、と思っています。

 肝心な、ウルムナギの蒲焼き弁当ですが……朝一で準備した分はどうにか全部販売出来ました。
 ですが、最後の1個が売れたのが閉店間際でして、営業中に一度も追加を作成する必要がなかったことも併せて考えますと、やはり成功した、大人気だったとは言い難いです。
「こ、このルービアスのアピールがたりなかったのですわね……」
 閉店後に、ルービアスがずーんと沈み込んでいましたけど、
「いやいや、むしろルービアスが頑張ってくれたからこそここまで売れたと言えるんだし、ホントによく頑張ってくれたよ」
 僕はそう言ってルービアスを賢明に励ました次第です。

 ……ちなみに

 本店から4号店の各店は、5号店とは裏腹にどのお店でも大盛況でした。 
 特に、このフェアを実施するのが2度目の本店と2号店では
「おぉ、またウルムナギ弁当の時期が来たのか」
 と、すでに季節イベント化した感じで皆さんに受け入れられている感じでして、ウルムナギ弁当が真っ先に売り切れたそうです。

 定期魔道船の中にあるコンビニおもてなし出張所では、もともと扱っている数が少ないのであれですが、それでもここでもウルムナギ弁当は早い時間帯で完売していたそうです。

 僕は、副店長のシャルンエッセンスを呼びました。
「シャルンエッセンス、今日のウルムナギ弁当の売り上げについてどう思う?」
 僕がそう聞くと、シャルンエッセンスは少し考えた後
「心配なさることはないと思いますわ」
 にっこり笑ってそう言いました。
「あくまでもお客様は、皆様ウルムナギに慣れておられないだけでございます。今売れていなくても、リョーイチお兄様がお作りになったこのお弁当が美味しいことにはかわりませんもの。きっとこのナカンコンベの皆様にもそう遠くないうちに浸透していくと思いますの」
 この言葉を聞いたとき……正直僕はちょっと面食らいました。
 確かに、今までに2号店の店長を務めたりして頑張ってくれていたシャルンエッセンスですけど、僕のことを実の兄のように慕ってくれているもんですから、どこか
「リョーイチお兄様の言うことに間違いはございません!」
「リョーイチお兄様のなさることに間違いはございません!」
 といった感じで盲目的に僕の意見を支持するところがあったんです。
 ですが、今、僕に意見を求められたシャルンエッセンスは結果的に僕の意見を肯定してくれましたけど、そこにいたるまでにきちんと状況を把握し、分析した上で回答を導きだしているわけです。
(……シャルンエッセンスも、いつのまにか成長してるなぁ……)
 頭ではわかっていたのですが、改めてそのことを実感した僕は、シャルンエッセンスの姿をどこか頼もしく感じていました。

◇◇

 そんなわけで、翌日も営業方針は変更しませんでした。
 ウルムナギ弁当の宣伝を行いつつ、お店事態は通常営業……そんな感じです。

 確かに、ウルムナギ弁当の売り上げは期待したほどではありませんでしたけど、他の弁当やパン類などはいつも並の売り上げをしっかりキープしていましたからね。
 その上に、ウルムナギ弁当の売り上げが加算されていってくれれば……そんな感じでしょうか。

 試食担当のルービアスは、衣装を少し派手にしていました。
 昨日はコンビニおもてなしの制服の上に、たすきとエプロンをしていたのですが、今日のルービアスは、ルービアス個人の私服の中でも結構派手といいますか……ヘソ出しルックでホットパンツ、顔にもメイクをバチっと極めていました。
「マクローコちゃんの美容室でばっちりセットまでやってもらいましたからね。これでお客様を悩殺なのですよ!」
 そう言うとルービアスは、笑顔で舌を出しながら顔の左右でダブルの横ピースをしていました。

 ……うん、服装やお化粧、髪の毛はともかく、舌出しダブル横ピースは覚えてきてほしくなかったな、と、心の底から思ってしまった僕でした。

 そんな感じで開店したこの日のコンビニおもてなし5号店ですが……ウルムナギ弁当の売り上げが気持ちいい感じな気がします。
 昨日はお昼までの間に準備していた全個数の半分売れたか売れないか程度の売り上げ状態だったのですが、今日は、同じお昼前だというのに、明らかに準備した数の半分以上売れています。
「……昨日の宣伝の成果がジワジワ出て来始めてるのかな?」
 僕は、在庫を見つめながらそんなことを考えていました。

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