魔獣のお肉を仕入れよう その2
とりあえず各支店に
『仕入れを兼ねた魔獣討伐に出向ける人募集』
との連絡を回しました。
各支店に急ぎの連絡を回す際には、朝であれば各支店に商品を配達にいくハニワ馬のヴィヴィランテスに頼みます。
これが夕方だったりすると、学校から帰ってきているパラナミオにお願いすることが多いです。
支店に回覧を回すと言いましても、コンビニおもてなしの場合、本店の店舗と厨房をつないでいる廊下にずらっと並んでいる転移ドアを順番に開けて行くだけですので安心安全なお使いなんですよね。
ちなみに、今日は夕方でしたのでパラナミオにお願いしました。
パラナミオは
「わかりました! パパ任せてください!」
いつものように元気な笑顔とともに回覧の紙を持って転移ドアをくぐっていきました。
で、戻って来ては次の扉をくぐり、また戻って来ては次へ……それを繰り返していくわけです。
で、すべての支店を回り終え、紙に各支店の店長印をもらってきたパラナミオは、
「パパ! 全部回ってきました」
僕の側に駆け寄ってきて元気な笑顔と一緒に報告してくれました。
そんなパラナミオに、
「いつもありがとう。助かったよ」
そう言いながら頭を撫でるのがいつものパターンです。
で、パラナミオが嬉しそうに微笑むまでがワンセットなわけです、はい。
◇◇
実施は週末のお休みです。
参加希望者は、それまでに僕に連絡をくれるように書いておいたのですが、これに応じてくれたのが
本店のイエロとセーテン
3号店のチカラン
5号店のグリアーナ
以上の4名でした。
これに、ルア工房のオデン6世さんも辺境都市ガタコンベの商店街組合委託職員として参加してくれることになっています。
このメンバーに、僕もコンビニおもてなしの責任者としてついていくことにしていたのですが、
「……旦那様が行くのなら、私もいく、わ」
そう言ってスアが加わりました。
すると
「パパとママがいくのならパラナミオも行きます!」
「じゃあ僕も行くよ!」
「私も参りますわ」
「ムツキも行くにゃしぃ」
と、子供達4人まで挙手してきました。
まぁ、スアがいますので子供達が一緒でも大丈夫でしょう。
僕はそう判断して、家族みんなで参加することを決めました。
◇◇
週末の朝一。
集合場所であるガタコンベの商店街組合前で待っていると、ゴルアとメルアを中心にした辺境駐屯地部隊が到着しました。
ゴルア達は全員コンビニおもてなしで販売していますアカソナエの鎧に身を包んでいます。
このアカソナエですが、以前ファラさんがティーケー海岸で仕留めたエビランという希少な魔獣の殻で作られていまして、結構高価な代物なんですよね。
で、それを辺境駐屯地の皆さんは相当無理をしてみんな買い揃えているんです。
全員真っ赤な鎧で統一している部隊は非常に壮観です。
……ですが
その部隊を肩越しに振り返っているゴルアは、
「……これで実力が伴ってくれていれば……」
そう言うと、大きなため息をついていました。
……なんといいますか、出発前から非常に不安になることこの上ありません。
「とにかくみんな、怪我だけはしないように気をつけていこう」
「「「はい!」」」
ゴルアの言葉に、皆気合いの入った声をあげていきました。
ゴルアの辺境駐屯地部隊は全員女性ですので、ちょっと甲高い感じの返事になっていた次第です。
僕達はそのまま出発していきました。
僕達一家は、スアの魔法の絨毯に乗り込んで先頭を進んでいきます。
イエロはグリアーナに、
「いいでござるか? 剣を振るう際はこうして……」
歩きながら剣の指導を行っていました。
自分の剣を抜いて、実際に振るっているイエロ。
それをグリアーナは、
「なるほど、こうでござるな」
そう言いながら反復しています。
なんか気が付けばすっかり師弟コンビな感じですね、この2人。
すると、
そんなイエロとグリアーナを、ゴルアとメルアを中心にした辺境駐屯地のみんなが眼光鋭く睨み続けていたんですよね。
そういえば、隊長になる前にのゴルア達って、イエロのことを「お姉様」と言いながら師事して剣を教えてもらっていたんですよね。
……つまり、この眼光って、いわゆるジェラシーなわけです、はい。
(なんというか……いきなりめんどくさいことになってるなぁ)
僕は、その光景を横目で見つめながら苦笑していました。
そんな感じで進んでいると……魔法の絨毯がいきなり制止しました。
その先頭部分に座っているスアは、前方の森の中を見つめながら、
「……いる、わ」
そう言いました。
すると、スアのその声を合図とばかりに
「いよっしゃあ! 一番刀はいただきでござる」
「いくらイエロでも、それは譲れないキ」
イエロとセーテンがすごい勢いで森に駆け込んでいきました。
その後方から、
「師匠! 待って欲しいでござる!」
そう言いながらグリアーナが続き、次いでオデン6世さんが騎馬ごと突っ込んでいきます。
さらにその後方から
「さぁ、いくですわん!」
木人形のチカランが両腕をぶるんぶるん振り回しながら駆け足で続いていきました。
そんな一同から一呼吸おいて
「我ら辺境駐屯地部隊も突っ込むぞ! 魔獣を駆逐せよ! さぁ我に続け!」
そう言いながら剣を掲げたゴルアを筆頭に辺境駐屯地部隊の皆さんも突っ込んでいきました。
そんな中、スアは魔法の絨毯を前進させようとしていません。
「ママ、いかないのですか?」
スアに、気合い満々な様子で両手の拳を握りしめていたパラナミオが尋ねていきました。
その後方ではリョータ達も、いつでも魔法を使用出来るように準備をしています。
そんなパラナミオ達に、スアはにっこり微笑むと、
「……この魔獣は、イエロ達で十分、よ」
そう言いました。
ほどなくすると、森の中からすさまじい悲鳴があがりました。
「いや~~~~」
「助けて~~~」
「怖い~~~~」
「大きい~~~」
そんな女性の声が森のあちこちから聞こえてきたかと思うと、アカソナエに身を包んでいる辺境駐屯地部隊の皆さんが相当数引き返してきました。
皆さん、揃って涙目になっています。
そんな皆さんに向かって、森の中から
「こらお前達逃げるでない! 戦わないか!」
叱咤するゴルアの声も聞こえてきました。
ですが、
「無理です~~~」
「あんなのに勝てるわけありません~」
そう言いながら、さらに辺境駐屯地部隊の皆さんが逃げてこられました。
……思うにですけど……この辺境駐屯地部隊の皆さんって、大きめの魔獣に遭遇して、びびって逃げてきてるんじゃ……
僕がそんな想像をしていると、スアが僕の手をくいくいと引っ張りまして、
「……うん、正解……よ」
そう言いながら、こくりと頷きました。
出発の際にルアが
『「……これで実力が伴ってくれていれば……」』
そう言っていましたけど……その言葉の意味を、僕はこれ以上ないほど実感していた次第です、はい。
ちなみに、この時イエロ達が遭遇したのは半月熊(ハーフムーンベア)の群れでした。
半月熊(ハーフムーンベア)
体長2m程度
鋭い爪と牙を持つが動きは鈍重なため囲まれさえしなければ倒すのは容易
危険度 D
スア著『ガタコンベ周辺に生息している害獣指定魔獣図鑑』魔女魔法出版刊
の該当ページを確認した僕は、思わず苦笑していました。
危険度は最高に危険なのがSSSで、Dというのは最低ランクなんですよ。
つまり、辺境駐屯地部隊の皆さんは、この一帯に生息している害獣の中でも最低ランクの魔獣相手に恐れおののいて逃げ出しちゃったわけです。
その事実に気が付いて苦笑している僕の前方から、イエロ・セーテン・グリアーナ・オデン6世さん・チカランが意気揚々と帰って来ました。
「いやぁ、大したことなかったでござるな」
「わ、私も倒せたでござる……やったでゴザル」
「グリアーナも頑張ったキ」
和気藹々とした会話を交わしながら戻って来た一同。
その最後尾から戻って来たチカランは、文字通りその怪力を利してみんなが仕留めた半月熊を抱え上げています。
全部で12頭いました。
その後方から辺境駐屯地部隊の残党部隊の皆さんが戻ってきたのですが、ゴルアを中心に浮かない表情をしています。
(……おそらく、逃げ出しまくったみんなの対処で、魔獣どころじゃなかったんだろうな……)
ゴルアを見つめながら、僕は今回の魔獣退治が別な意味で大変なことになりそうだな、と思った次第です、はい。
ちなみに……半月熊は、熊鍋が美味しいそうです。