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28章 サメと遭遇

 水質調査を開始してから、一週間が経過しようとしていた。三日くらいで終わるという考え方は、甘かったということを思い知らされた。 
 
 まるまる一週間、飲食をしていないにもかかわらず、お腹はまったくすいていなかった。何も食べなくてもいいスキルに守られている。

 睡眠についても、一秒もとっていない。生身の人間なら死んでしまうところだけど、アカネはぴんぴんとしていた。睡眠をとらなくてもいいスキルは、ものすごく便利である。

 現実世界で寝なくてもいい能力を持っていたら、会社の社長になれたのではなかろうか。社長になれなくとも、上司には確実になれた。直属の上司は体力、精神が疲弊しており、いつ倒れてもおかしくなかった。

 食事不足、睡眠不足になると肌色が悪くなるといわれるけど、どうなっているのだろうか。アカネは確認しようと思ったものの、手鏡を持っていないことに気づく。自分の顔色を見られるのは、仕事終了後になりそうだ。

 アカネは髪の毛を触ってみる。濡れ続けていたにもかかわらず、どこにも異常は見当たらなかった。身体だけではなく、髪の毛も劣化しないようになっているのかな。

 髪の毛=女性の生命力の証なので、これについてはありがたい。現実世界では二二、二三くらいから、髪の毛の細さ、薄さ、白さ、抜け落ちなどを経験した。髪は三〇くらいから劣化すると思っていたので、大きなショックを受けることとなった。

 死ぬ食前には、頭皮が明らかに薄くなっていた。髪の毛だけなら、六〇、七〇歳に見えたのではなかろうか。

 四〇歳まで生きていたら、髪の毛は完全に抜け落ちていたかもしれない。一日20時間労働は、莫大なデメリットをもたらすこととなった。

 髪の毛のことを考えていると、どういうわけか「セカンド牛+++++」が恋しくなった。仕事が終了したら、たんまり食べることにしよう。報酬は300億ゴールドと聞いているので、好きなだけ食べることができる。 

「セカンド牛+++++」のためにも、仕事を早く終わらせたい。アカネは水の中に潜る。昨日までは穏やかに魚が泳いでいたのに、本日はどういうわけか見当たらなかった。

 巨大サメがこちらに接近している。アカネは襲われると思ったものの、気にするそぶりを見せなかった。全ての攻撃を無効化できるので、身に危険は及ばない。

 サメが腕にかぶりつこうとしたので、生身で受け止める。「ぜったいぼうぎょ」のスキルが発動しているのか、痛みは一ミリも感じなかった。

 掌の感触が徐々になくなっていく。どうしたのかなと思っていると、サメの全ての歯が完全に壊れているではないか。アカネの身体にかみついたことで、全ての歯が折れたようだ。

 サメは負けを認めたくないのか、アカネにもう一度かみつこうとする。歯が欠けているからか、赤ちゃんのキスさながらだった。歯のないサメって、こんなにもかわいいのかと思った。

 サメの相手を続けていては、仕事に支障をきたすことになる。一刻も早く仕事に戻りたいと思ったものの、狂暴であるとこを見せつけると、他の魚に逃げられてしまう。アカネは難しい判断
を迫られている。

 現状をどのように打開しようかなと思っていると、別のサメが現れることとなった。噛みついてきたサメよりも、サイズは一回りほど小さかった。

 サメはどういうわけか、こちらに近づこうとしなかった。親分的存在のみじめな姿を見て、只者ではないことを感じたのかな。余計な手間暇をかけたくないと思っていたので、アカネにとっては非常にありがたかった。

 数秒後、親分的存在のサメもいなくなってしまった。アカネはその様子を確認したのち、水中探索を続行することにした。

 サメがいなくなったからか、いろいろな魚が姿を現すこととなった。食べられないように、身を隠していたと思われる。

 魚たちはどういうわけか、アカネに近づいてきた。サメを退治したことに対する、お礼を言おうとしているのかなと思った。

 水の中を泳いでいたネコが、チョコレートを差し出してきた。アカネはありがたく受け取ると、一口かじってみる。

 チョコレートの形をしているにもかかわらず、甘味は感じられなかった。チョコレートというより、カカオかなと思えた。

 アカネはチョコレートを完食。最後まで味に変化は見られなかった。

 犬からはニンジンを渡される。こちらについては、オレンジとレモンの中間のような味をしている。火を通していないからか、本来の甘みは感じなかった。

 おいしいわけではないものの、犬と親しくなるためには完食したほうがいい。アカネは二口目を食べることにした。

 二口目は甘味を感じる。外側は酸味が利いていて、内側は甘くなっているのかな。

 三口目はチョコレートみたいな甘さを感じる。内側に行けば行くほど、素材の甘みが引き出されている。

 水の中なので無農薬と思われる。良質な水で育てられたことで、何十倍、何百倍にもおいしくなったのだとすれば、素材の味を大切にするのはとってもいいのかなと思った。

 チョコレートを食べきると、仕事に対するモチベーションがわいてきた。人間がやる気になるような成分が含まれているのかもしれない。久しぶりにおいしいものを食べたことで、活力を生み出した可能性もある。

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