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魔獣のお肉を仕入れよう その1

 ちょっと大騒ぎになってしまった勇者マックスさんの一件ですが、
「コンビニおもてなしの店長が子供を悪者から守った」
 っていう部分だけが広まったままになっています。
「いや、あれはですねそもそも相手が悪者じゃなくて……」
 と、僕は会う人ごとに釈明し続けているのですが、そのたびに
「まぁまぁ、謙遜しちゃってぇ」
「すごいわねぇ、人助けをなさったのに自慢なさらないなんて」
 と……まったく信じてもらえない上に、さらに僕の評判がうなぎ登りになっているという、よくわからない状態になってしまっています。
 挙げ句の果てには、辺境駐屯地のゴルアがやってきてですね、
「店長殿、王都に打診して表彰してもらおうと思うのでぜひ詳しいお話を聞かせてほしいのだが」
 などと言い出す始末です。
 ……もう、ここ数日の僕は、強ばった愛想笑いをひたすら浮かべ続けている次第です、はい。
 あ、もちろんゴルアにの話は丁重に、かつきっぱりとお断りしましたからね。

◇◇

 コンビニおもてなしがナカンコンベに進出してしばらく経ちますが、今のところ想像以上の成果を得ることが出来ています。
 何しろナカンコンベは1都市でガタコンベ・ブラコンベ・ララコンベの総人口を足した数よりも多い人々が暮らしていますので、一日の来客数が桁違いなわけです、はい。
 これは、立地も大きく影響しています。
 商店街の中心にかなり近い位置にお店を出すことが出来たもんですから、出勤途中の方々がこぞって寄ってくださっていますからね。
 これに関しては、この建物を僕達が購入するのに尽力してくれたドンタコスゥコに感謝しきりです。
 
 ナカンコンベで営業している5号店の人気商品は、やはり

 1・弁当類
 2・パン類
 3・ヤルメキススイーツ

 この3種類がベストスリーになります。

 未だに在庫が枯渇する気配すら見えないデラマウントボアの弁当は
「これを食ったら道中安全で魔獣に襲われにくくなるらしいぞ」
 との噂がたっていまして、王都方面へ荷馬車で向かう方々がこぞって購入して行かれています。
 僕的には「そんな効果はないと思うんだけど……」
 と、思っていたのですが、イエロによりますと
「デラマウントボアの肉の匂いが残っていれば、それよりも弱い魔獣を寄せ付けない効果はあると思うでござるよ」
 どうもそうらしいんですよね。
 具体的には、肉を一切れ残して布袋に入れて荷馬車のどこかに吊しておくと効果がある可能性が高いかもってことでした。
 早速僕は、このことをチラシにしてデラマウントボア弁当の脇に置いてみることにしました。
 ちゃっかりと、デラマウントボアの肉を一切れ詰めて吊すのに適した大きさの布袋を、僕が個人的に作成して、そのチラシの横に置いておいてですね1袋10円/僕が元いた世界のお金換算で販売してみたのですが……
「このデラマウントボア弁当と、布袋を3つもらうよ」
「こっちはデラマウントボア弁当と、布袋を5つだ」
「チラシはただでいいのかい?」
 と、まぁ、これらを置いた途端に大盛況になった次第です。
 布袋もあっという間に売り切れてしまいまして、急遽テトテ集落の皆さんに本格的な布袋の作成を依頼しなければならない事態になってしまいました。
 ただ、イエロによるとデラマウントボアの皮でも同等の効果が見込めるとのことだったので、皮を使用したキーホルダーをルアのルア工房で作成してもらいました。
 ミニチュアの盾みたいなのを作ってもらって、その盾部分にデラマウントボアの皮を使用してもらったのですが、これも飛ぶように売れていきました。
 このデラマウントボアの皮はですね、それを使用した実際に使用出来る盾も販売しているのですが、中にはこちらを購入して行かれる方も結構おられました。
 このデラマウントボアの皮製の武具は、ドンタコスゥコがバトコンベに持って行きたがっていたもんですから、かなり売れたと聞いたら残念がるだろうな、と、思いまして、ルアに多めに作成してもらえるようにお願いしておいた次第です。

 これだけデラマウントボア製品が売れるということは、それだけ王都へ向かう道中に、魔獣の危険がいっぱいってことの裏返しでもあるんですよね。
 ドンタコスゥコだって、バトコンベに向かう際には傭兵を雇っていますしね。
 ガタコンベにしても、イエロとセーテン、それにオデン6世さんもかなり頑張って害獣指定されている、人を襲いかねない魔獣達を退治し続けてくれているのですが、その総数的には大きくは減少していないらしいです。
 イエロとセーテンが狩り場を調節して仕入れるための魔獣が枯渇しないようにしているのも原因ではありますが。魔獣の成長が異常に早いのも原因の1つみたいです。
 何しろ、誕生から人を襲えるくらいにまで成長するのに一月もかからないうえに、一度に数十匹も子供を産みますからね、こういった魔獣達は。
 こういう話を聞くと、やっぱりこの世界は異世界なんだなぁ、と改めて実感する次第です。 
 ……もっとも、僕がどこかに行く際には常にスアが防壁魔法を過保護なまでに僕の周囲に展開してくれていますから、僕自身が危険に出くわすことはまずありません。
 ホント、ありがたいことこの上ないわけです、はい。

 定期魔道船が運行されたおかげでブラコンベからナカンコンベ間を荷馬車で往来する人が激減したらしく、この区間での魔獣襲撃事故の件数が大幅に減少しているそうです。

 ……なんですが

 それは、あくまでも往来が少なくなったおかげで件数が減っているだけであって、魔獣の数はむしろ増加傾向にあるそうです。
 そんな噂が、ナカンコンベの5号店にも聞こえてくるようになっていたある日、辺境駐屯地のゴルアが僕の元を尋ねてきました。
「店長殿、お忙しい中恐縮なのだが、少しお話をさせてもらってもいいだろうか?」
 そう言ったゴルアですが、ちゃんと閉店時間を少し過ぎたあたりでやって来てくれています。
 そこら辺はしっかり配慮してくれているんですよね。
 副隊長のメルアと一緒にやってきたゴルアと、僕は応接室で面会しました。
「……実はですね、最近害獣指定されている魔獣の数が増加傾向にありまして、ちょっと頭を悩ませているのです」

 そう切り出したゴルアの話によりますと……

 ブラコンベーナカンコンベ間の街道近辺に害獣指定されている魔獣が多数出没しているとの連絡を受けて、ゴルア達辺境駐屯地の面々が討伐に乗り出したんだそうです。
 ところが、その数があまりにも多すぎたために、途中で撤退を余儀なくされてしまったんだとか。
「なんといいますか……まるで何かに操られてでもいるかのように見事な波状攻撃をくらい続けていまいまして……本当にお恥ずかしい……」
「でもまぁ、大怪我をした人がいなかったのは不幸中の幸いだったね」
「えぇ、まったくです」
 僕の言葉に、ゴルアとメルアは大きなため息をつきました。
 で、ここで2人は改めて僕へ視線を向けまして、
「そこでですね、イエロお姉様をはじめとした、コンビニおもてなしの武闘派の皆様にご協力をいただけないかと思いまして……」
 そう言うと、2人は同時に頭をさげました。
「「どうか、力を貸してください」」

 ゴルアとメルアが、僕のところに助けを求めてくるのもわからないでもありません。
 と言いますのも、辺境駐屯地へ派遣されてくる騎士って、ペーペーの新人か、使い物にならない問題児、あるいは中央で問題を起こして左遷された人と相場が決まっていたりします。
 幸い、ペーペーで派遣されていたゴルアとメルアは、素質があった上に自分達も頑張って修行し、しかもイエロといういい師匠に巡りあえるという幸運まで重なったおかげで隊長にまで上り詰めることが出来ルまでに腕を上げることが出来たわけですけど、他の面々は、相変わらず装備だけは一人前って噂しか聞きませんからね……

「わかった。とりあえずみんなに声をかけてみるよ。返事は明日でもいいかな?」
 僕がそう言うと、ゴルアとメルアは飛び上がって喜びました。
「あ、ありがとうございます!」
「助かります、本当にありがとうございます!」
 2人はその顔に笑顔を浮かべながら何度も頭を下げました。

 コンビニおもてなしとしましてもいい仕入れになるかもしれませんしね。
 そんな事を考えながら、僕は2人のてを握り返していました。

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