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やってきたある男 VS コンビニおもてなしオールスターズ その2

 ヴィヴィランテスにのって疾走している僕ですが、先ほどの外套を被った男がすごい勢いで追いかけてきています。
「どういうおつもりかわかりませんけど、この子はウチの従業員の大切な子供なんです!絶対渡しませんから諦めてくださぁい!」
 僕は、ミクナスちゃんをしっかり抱きしめたまま後方へ声を張り上げました。
「だから、さらうとかそういうんじゃないんだ、ちょっとだけその子を調べさせてくれればいいんだって」
 その男はそう返答を返してきました。
「ヴィヴィランテス……ああ言っているけどどう思う?」
「そうねぇ……悪人ってよく言うわよね、さらう気はないとか、殺す気はないとかさ」
「……うん、同感だ!」
 僕の声を合図に、ヴィヴィランテスはさらに加速していきます。
 ……ですが、ハニワ馬の状態のためそんなにスピードが出ていません。
 気がつけば、男がすぐ真後ろに迫っているではないですか。
「ヴィヴィランテス! お前なんで水晶一角獣(クリスタルユニコーン)の姿で走らないんだよ、あっちの方が断然早いだろ?」
「……」
「おい、だから早く変化してくれって」
「……」

 解説しますと……ヴィヴィランテスの本当の姿は水晶一角獣(クリスタルユニコーン)なんです。
 わけあってスアに、ハニワ馬姿にされちゃっているんですけど、この姿が気に入ったヴィヴィランテスはずっとこの姿で過ごしているんです……そう、ずっと……

 この時、僕ははっとなりました。
「……ヴィヴィランテス……まさかお前……元に戻る方法を忘れたんじゃないだろうね?」
 僕はおそるおそるそう言いました。
 そんな僕の視線の先で、ヴィヴィランテスは真っ青になって嫌な汗をかいています。

……間違いない……こいつ、ハニワ馬姿で長くいすぎたせいで、元に戻る方法を忘れてるんだ……

 図星だったらしく、真っ青になっているヴィヴィランテスなのですが、
「だ、大丈夫よ、まだ策はあるわ」
 そう言うと小さく口笛を拭きました。
 すると、前方からすさまじい冷気が襲いかかってきました。
 ですが、その冷気は僕やヴィヴィランテスを巧みに避けて、その後方に迫っている外套の男へ向かってピンポイントで襲いかかっていったのです。
「うわっ!?」
 僕とヴィヴィランテスがちょうど壁になっていたらしく、反応が遅れてしまったその男は大慌てしながら後方に飛んでこの冷気を避けていきました。
 僕が前方へ視線を向けると、そこにはシオンガンタとユキメノームの姿がありました。
 2人ともスアの使い魔で、本店の地下にある冷蔵室を交代で冷やしてくれている冷温度系の使い魔達です。
 どうやらヴィヴィランテスの合図を受けて地下室から駆けつけて来てくれたようですね。
「2人ともナイスよぉ」
 ヴィヴィランテスはそう言うと、2人の間をする抜けていきました。
「さぁ、あの2人が食い止めてくれている間に、スア様の元まで……」
 ヴィヴィランテスはそう言いながらパカラっているのですが、
「だから待てってば」
 なんと、外套の男がもうすぐ後ろにまで迫っているではないですか。
 よく見ると、その後方に外套の男を必死に追いかけているシオンガンタとユキメノームの姿がありました。
 ……どうやら、一瞬で抜き去られてしまったようですね。
「ったく、役に立たないわねぇ」
 忌々しそうにそう言いながら、ヴィヴィランテスは街道をジグザグに走り始めました。
 しかし、男もぴったり背走しています。
「だから、ちょっとでいいから止まってくれって」
 その男はまだそう言っていますが、その言葉を信用しないと決めた僕とヴィヴィランテスはとにかく進んでいきます。
 しかし、外套の男はその真後ろに張り付いています。
「やばい……追いつかれてるこれ」
「もう、乙女のお尻に張り付くなんてスケベねぇ」
「って、お前、男だろう、一応!」
 僕とヴィヴィランテスがそんな会話を交わしていると、
「うわ!?」
 そんな声をあげながら外套の男が思いっきり飛び退いていきました。
 すると、ヴィヴィランテスの前方から、
「さぁ、ノカザム! いきますわよ!」
「はい、母さん!」
 そんな声と同時に……どう見てもミッツ●ングローブにしか見えない女装姿の大男と、その母親らしい女性が疾走しながら外套の男へ襲いかかっていきました。
 忘れもしません! その姿! 忘れようと思っても夢に出て来ましたから!
 いつもドンタコスゥコ商会のボディガードを務めている冒険者のノカザムと、そのお母さんの冒険者テリアさんです。
 で、その2人を見た外套の男は
「ちょ!? まだ勇者がいたのかい!? しかもそっちの女性は元魔王だし」
 そんな声を上げながらノカザムの攻撃を受けています。

 っていうか……え?
 
「ノカザムって、元勇者だったの!? ただの女装好きなマザコンなのかと思ってたけど……」
 僕がそんなことを呟いていると、
「えぇ、元勇者とマザコンは正解です。ですが女装好きではありませんよ」
 僕の前方から現れたもう1人の男がそう言いながら外套の男へ向かって駆け寄っていきます。
 その男は、巨大な剣を構えると、
「どこの誰かは知らないけど、悪く思わないでくれ」
 そう言って剣を一振りしました。
「だからさぁ、話を……」
 外套の男は、そう言いながら剣を両腕をクロスさせて受け止めました。

 その時です。

 その剣がいきなり光ったかと思うと、外套の男を一瞬で弾き飛ばしてしまったのです。
 僕とヴィヴィランテスが唖然としている中、その男は剣を腰の鞘に戻していきました。
「さすがスローアップの宝剣だな、威力抜群だ」
「スローアップの宝剣?」
「えぇ、この宝剣の一撃を受け止めた者をすべて弾き飛ばしてしまう宝剣ですよ」
 僕にそう答えたその男は、にっこり微笑むと、
「ミクナスを守ってくれてありがとうございます。ビナスの内縁の夫のウインダです」
 そう言いながら僕の側へと歩み寄ってきました。
 すると、僕に抱っこされていたミクナスも
「ぱぁぱぁ!」
 と言いながら、その男へ手を伸ばしています。
 どうやら、間違いなくミクナスのパパのようですね。
 僕が安堵のため息をもらすのと同時に、僕達の周囲に次々と人々が集結してきました。

 魔王ビナスさん
 ファラさん
 イエロ
 セーテン
 グリアーナ
 オデン6世さんとルア
 ロミネスカスさんとミラッパ
 ノカザムとテリアさん

 そして、スア

 ……僕は、改めてヴィヴィランテスの周囲に集まったみなさんを見つめていきました。

 え~……
 ウインダさんとノカザムは別世界の元勇者です。
 魔王ビナスさん、テリアさん、ミラッパが別世界の魔王系の方々です。
 ファラさんは龍
 さらにデュラハン、鬼人の剣士に元山賊長だった猿人、猫人の猛者。

 そして、結構強力な魔法使いのロミネスカスさんと、伝説の魔法使いのスアです。

 その後方で、シオンガンタとユキメノームが必死になって挙手してますね。
 はいはい忘れていませんってば。

 と、まぁ、よくぞここまでとんでもない人達が集まったもんだと思っていると、
「まいったって、もう降参するからさ、頼むから話を聞いてくれ」
 そう言いながら、先ほどウインダさんに弾き飛ばされたはずの外套の男が両手を万歳した姿で出現したのです。
 どうやら、転移魔法で戻ってきたようですね。

 で、その男を見た瞬間に、スアが眉をしかめました。
「……マックス?」
「へ? マックス?」
 スアが口にしたその言葉……なんか、どこかで聞いた覚えがあります。

 ……僕の記憶が間違っていなければ……確か、この世界の勇者がマックスって名前じゃなかったっけ?
 

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