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魔法使い達の… その1

 ドゴログマで希少な薬草を大量に採取出来たスアは、ほくほく顔で日々魔法薬の精製に取り組んでいます。
 スアは、巨木の実の部屋を2つくっつけて研究室として使用しています。
 その中には、絵本に出てくる魔女が使うような鍋の中で紫色の液体がポコポコいっていたり、天井からいろんな薬草がぶらさがっていたり、様々なガラス製の精製道具が所狭しと並んでいたりと、これぞ研究室!といった様相を呈しています。
 子供達にも
「……ここには危ないお薬もあるから、みんなは入っちゃ駄目、ね」
 そう言っているスアなんですけど……これって、薬が危ないからっていうよりも、僕とスアがこの部屋でいたしているものですから、その最中に入ってこないようにっていう予防線的な意味合いが高かったりするんですけどね。
 そもそも、スアが子供達が触ったら危険な薬を子供達が手に取れるような場所に放置したりなんかするはずがありませんから。
 ちなみに、そんな危険を伴う薬品の精製作業は、スアが異世界に作り出している「スア研究室の世界」ってところで行っているそうです。
 この世界は、スアが魔法で擬似的に作り出した世界なのだそうですが、スアの研究室しかない世界なんだそうです。
「それってすごいことなんじゃないの?」
 僕がそう言うと、スアは、
「……そうでもない、よ……多分」
 そう言ったのですが、そこに駆けつけてきたブリリアンが
「な、な、な、何をおっしゃいますか、スア様! 異世界構築魔法を使用出来る者など、いままでに片手くらいしか存在しておりませんよ!」
 目を丸くしながらそう言ったのですが、それに対してスアは、
「……ね? 5人も使えてる」 
 そう言って、にっこり笑いました。
 ……なんといいますか、スアの思考が相当豪快といいますか、やっぱり伝説的ってことなんでしょうかね、これは。

 伝説の魔法使いとして、この世界の魔法使役者の間では知らないものがいないほどの超有名人なスア。
 この世界最大の魔導書発売会社である魔女魔法出版のエース作家で、本を出せば即ベストセラーなスア、とまぁ、様々な一面を持っているスアですが、それだけ有名になると、やはりその名前を騙る輩も少なくないそうです。
 以前にも、スアの名前を騙っていたデラスコッタって上級魔法使いもいました。
 こいつは、スアがまだ弟子をとっていた頃のそのの1人だったそうなんですけど、金儲けになる魔法以外には一切興味を示さなかったせいでスアに破門されたんですよね。
 で、そんな変な弟子候補が続出したせいで、スアはそれ以降弟子をとらなくなったそうです。
 その煽りで、いくら頑張っても弟子にしてもらえない魔法使いの1人がブリリアンなわけです。
「……ううん……ブリリアンはね……そもそも魔法使いの資質が、ちょっと……」
 スアは、僕の耳元にそっとそう言いました、
 ……どうやら、ブリリアンがスアの弟子になるのは、別な意味で不可能ってことのようですね。

 ただ、スアの話ですと、結構素質のある魔法使いと出会ったことも多々あったそうで、そういった魔法使い達とは今でも連絡を取り合っているらしく、数年に一回お茶会という名の情報交換会を行っているそうです。
 重度の対人恐怖症を患っているスアですが、もともと魔法使い相手にはあまり症状を発症していませんでしたし、最近は特に接客にも積極的に関わってくれているもんですから、ずいぶん症状が軽減されている感じです。
 テトテ集落の皆さん相手だと、もう自己暗示魔法を使用する必要がないくらいですからね。

◇◇

 そんなスアが精製した魔法薬の数々は、コンビニおもてなしの超売れ筋商品です。

 簡易な消毒薬1つ精製するのにも一切手を抜くことなく、すべてを手作りしているスアの魔法薬は効果抜群なもんですから少々高価な薬でも飛ぶように売れていきます。
 コンビニおもてなしでは、3号店のある魔法使い集落の皆さんが作成した魔法薬を買い取って、スアがその出来に対して太鼓判を押した商品のみ「スア認定」の刻印をつけて販売しているのですが、やはりスア本人作成の魔法薬に比べて売り上げは落ちますね。
 ちなみに、スアの刻印って、自分の顔をディフォルメした画像に右手の親指をグッと立てているデザインになっています。
 
 ちなみに、スア精製の薬品の中でも特に高価な製品は、主にドンタコスゥコ商会に卸売りされています。
 ドンタコスゥコ商会が取引をしている辺境都市バトコンベという都市とかでは、スア精製の魔法薬というだけで、どんなに高額な薬でも飛ぶように売れるらしく
「いつでも、どこでも、いくらでも購入させていただきますからねぇ」
 と、ドンタコスゥコが常日頃から僕にアピールしているほどなんです。

◇◇

 そんなある日のことです。
 コンビニおもてなし5号店に3号店がある魔法使い集落の方々がお見えになりました。
「……あの、店長様に折り入ってご相談がございまして……」
 てっきりスアに相談があるので取り次いでほしいってことかと思ったら、どうやら僕個人に相談だそうでして……なんだろうと思った僕は、そう切り出されてちょっとびっくりしたのですが、とりあえず僕は尋ねて来た3人を応接室に通しました。

「で、僕にどのようなご用でしょうか?」
 僕は3人にそう話しかけました。
 すると、3人は妙にもじもじしながらお互いがお互いをつつきあっています。
 その光景に、僕は首をひねりながらも、3人からの返事を待っていました。
 すると、数分間のつつきあいの後、その真ん中に座っていた魔法使いがようやく顔をあげ、そして言いました。
「……あ、あの……ど、どうやったら店長さんみたいな旦那様を娶ることが出来るのでしょうか?」
「……はい?」
 その言葉を前にして、僕は自分の目が点になるのを感じていました。

 ……で、その話の内容をよ~っく聞いて見ましたところ……

 魔法使い集落の皆さんは、スアのことを敬愛してくれています。
 伝説の魔法使いとして尊敬し、敬ってくれています。
 スアも、時間のあるときには魔法使い集落へ出向いて魔法屋魔法薬の講義を積極的に行っていまして、魔法使い集落の皆さんはそのことをとても感謝してくださっています。
 魔法使い集落の皆さんの収益になるようにと、魔法薬の買い取りも行っていますしね。

 ……で

 スアのことを敬愛する魔法使い達がとても多いのはこれでわかって頂けたかと思います。
 僕の目の前にいる3人も、そんなスアを敬愛してくれている魔法使い達です。
 そんな魔法使い達の中でですね、最近妙な声があがっているんだそうです。

「スア様といつも一緒にいる旦那様って、素敵よねぇ」
「あんな旦那様がいてくださったら、私達もスア様のようになれるのかしら」
「スア様云々を抜きにしても素敵じゃない? あの旦那様」
「料理も出来るし、お店も繁盛させてるし、みんなに優しいし……」

 ……で

 その結果……
 現在の魔法使い集落では、空前の
『スア様の旦那様のようなお婿さんを娶りたい』ブームが巻き起こっているんだそうです。

 ……と、いうわけで

 その代表として、目の前の3人が派遣されてきた、と……まぁ、こういう経緯だったらしく……

 僕は目の前でもじもじし、時折チラチラと僕の方を見ては顔を赤らめている3人を見つめながら腕組みしていました。
 ……まぁ、確かに、あの魔法使い集落は、住人の9割が女性です。
 残りの1割が、使い魔の男性だったりしますが……男性の使い魔は使役主の言うことしか聞きませんので、まず恋愛の対象にはなり得ませんしねぇ……

 ……って、いうか……正直何にも思い浮かばないんだけど……

 僕は、腕組みしながら首をひねるしかありませんでした。

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