11章 宿屋
アカネには解決すべき問題がある。自分の住まいをどうするかということだ。おんぼろの家は、指一本で破壊されてしまった。
家を建ててもらうにしても、一日や二日では無理だ。野宿が嫌なら、どこかに宿泊する必要がある。
幸いなことに、3億8000万ゴールドを所持している。しばらくはお金が底をつく心配はない。心をゆっくりと休められる場所を探すことにした。
宿を歩いているさなか、セカンドライフの人から多くの視線を浴びてしまった。注目されたい性格ではないため、おおいに戸惑ってしまうこととなった。
街をうろついていると、民に◎をついているのを発見する。今日はここに宿泊しようかなと思った。
アカネが店の中に入ると、二五前後の女性が姿を現した。
「レベル95といわれる、アカネさんですね。当宿をご利用いただき、誠にありがとうございます」
フリースクールにとどまらず、こちらにも情報が広がってしまっている。有名人になったことで、肩身の狭い生活を送ることになりそうだ。
「グラウンドの魔法はすさまじいレベルでした。こちらまで音が鳴り響いていました」
宿からはかなりの距離がある。ここまで音が届いていたのだとすれば、とんでもない威力である。
宿屋を営業している女性は、小さな声でつぶやいた。
「私も一度でいいから、魔法を使ってみたいです」
アカネは宿泊費に目をやった。こちらに泊まるためには、一日当たりで、5000ゴールドのお金を必要とする。30日換算にすると、15万ゴールドとなる。自分の家に住んだ方が、長期的に見ればお得である。
一泊5000ゴールドは、食事代込みの値段かなと思っていると、食事代が別に設定されていた。ランクは5つに分かれており、Sは100万、Aは10万、Bは3万、Cは1万、Dは3000ゴールドとなっていた。値段設定はあまりにも極端すぎやしないだろうか。
アカネはSランクにしようかなと思った。大金を所持しているので、一度くらいなら食べてもいいのではなかろうか。
「Sランクの食事をお願いします」
「ありがとうございます」
「お金を支払います」
女性はどういうわけか、お金を受け取らなかった。貸借をすると犯罪になるので、きっちりと払っておきたいところだ。
「お金を受け取ってください」
「お金を受け取る代わりに、アカネさんにお願いしたいことがあるんです。回復魔法で娘を治療していただけますか。二日前から、目を開けなくなってしまいました」
回復魔法を使えるものの、目を開けられなくなった女性に効果があるのかはわからない。アカネは一抹の不安に襲われることとなった。