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対談

明くる日 3月8日火曜日。

朝の7時に起床した米満は早めに朝御飯を食べ終えると、フェニックス・マテリアルに訪れるための挨拶用の名刺と着ていくスーツの準備をしていた。

「10時50分頃に饗庭兄弟とフェニックス・マテリアルの本社工場の駐車場で落ち合うことになったから、それまでの間に昨日いただいた唐津市厳木町広瀬地区のダム底に沈むまでの古い地図と、そして今現在のダム湖の地図と重ね合わせてみよう。これでかつて茉莉子が隠居していた鮎川邸に辿り着くことが出来る。」

そう思った米満はGoogleマップで今の厳木ダムの地図を拡大印刷したものを上に、昨日に頂いた厳木町広瀬地区の地図を下に重ね合わせてみた。

色々と計画を練っているうちに、時間はあっという間に10時を迎えた。

「しまった!ゆっくりしすぎた!これじゃ約束の時間に間に合わない!」

急いで家を出てV60を走らせると、何とか約束の時間内にはぎりぎりで到着した。だが米満が来た頃には既に饗庭兄弟が待っていた。

饗庭は米満に「俺、10時50分頃って言ったよね?5分も遅刻してるじゃねぇか!」と言われ、米満は「待たせてしまって申し訳なかった。中に入ろう。」と話すし玄関のドアへと向かおうとした際に、侑斗は笑いながら「米満さん、まさか寝坊じゃないですよね?」と聞かれたので、米満は「寝坊じゃなさい、とっ、途中で時空の旅に出掛けていただけなのさ。」と苦しい言い訳をするしかなかった。

それを聞いた饗庭が冷ややかな目で米満を見て話しかけた。

「タイムマシンに乗って時間旅行の旅をしていたから遅刻をしたというのか?」

饗庭の言葉に米満はただ苦笑いをするしかなかった。

そしてドアを開けて、受付で11時からの小鳥遊社長との面談であることを伝え、社長室まで案内される3人。

「さすが佐賀を代表する企業!エスカレーターがある会社なんて珍しすぎる!」

侑斗が興味津々になって話すと、米満は話し始めた。

「フェニックス・マテリアルはエコを大事にしている会社でもあるんだよ。屋上や窓のいたるところにはソーラーパネルが設置されている。余った電力は近隣の方に無償で提供するなどをしている会社でもあるんだよ。会社のテラスには水車と風車があってそこでも水力発電並びに風力発電を行っている。ここで使う電気の大方は、この会社の敷地内で作り出したもので賄われている。」

米満の話に侑斗は「へぇ、そんな会社なんだ!」と答えた。

そんな弟の様子を見た饗庭は、にこやかに微笑んだ。

そして受付嬢の案内の元、社長室へと通されると、扉を開けてすぐのところに小鳥遊社長が待っていた。

「ようこそ。フェニックス・マテリアルへ。わたしは2代目代表取締役を務める小鳥遊譲です。」

小鳥遊がそう語ると名刺ケースから名刺を取り出し、饗庭と米満に渡し始めた。米満は「わざわざ、ご丁寧に下さりありがとうございます。」といって持ってきた名刺ケースから1枚を取り出すと、饗庭も続けて名刺ケースから名刺を取り出し、小鳥遊に渡した。

「ヴィクトリー出版の記者の米満君、そして唐津署の地域課に勤める警察官の饗庭君だね。」

小鳥遊がそう話すと、饗庭は「隣にいるのは国立伊万里大学に通う僕の弟の侑斗です。今年で2年生になります。大学では山岳部に所属していまして、各地の山々を登山したりするのが、侑斗の趣味の一つでもあります。」と語ると、侑斗は照れ臭そうに会釈をした。

小鳥遊は笑いながら、「国立伊万里大学ならちょうど僕の息子の啓太が通っているよ。ところで侑斗君は何学部なのかな?」と聞かれ、侑斗は「僕は社会学部に在学しています。」と答えると、小鳥遊は「実は啓太も君と同じ今年で大学2年生でしかも社会学部なんだけど、名前は聞いたことがあるか?」と話し始めた。

侑斗は「俺の社会学部の同級生に小鳥遊っていたかなあ、うーん。あっ!待って!そういえば、入っている部活は違うけど、確かボート部に珍しい名前で小鳥遊って凄い才能を持つ子がいるって話は俺も聞いた。」と話すと、小鳥遊は自慢げに「うちの息子に違いない。僕は啓太に3代目社長としてフェニックス・マテリアルへの入社はさせない。息子は息子なりに、プロのボートレーサーとして競艇選手の道を選ぶか、あるいはオリンピックに出られる競技の選手として成長を遂げてもらうか、僕は息子に対しては好きなことをさせてあげたいと思っている。それは啓太にも言っているんだ。”会社を継ぐ心配などするな”ってね。親子代々でやっていたらわかる、本当に自分の行っている行為が正しいのか否か、ひょっとすると心の中ではワンマンになっているのかもしれないなんて思うことはいくらでもあるんだ。啓太には僕と同じ道を歩んでほしくない、それだけだ。」

小鳥遊の話を聞いて、米満は「僕は小鳥遊社長の考えは立派だと思います。エコの活動にも熱心になって取り組んでいる姿を見ても、非常に社会に対して貢献的ともとれる御社の会社としての在り方は、僕は尊敬に値すると考えています。」と話すと、小鳥遊は「そう言ってくれるだけでも嬉しい。さあソファに腰を掛けて、温かい緑茶を用意したから飲んでほしい。」と言われ3人はソファにゆっくりと腰を掛けると、茶柱が3本立っている緑茶を見て米満が思わず「うわ!茶柱が3本立っている!超ラッキー!!」と言いながら、フーフーと熱を冷ましながらちびちびと飲み進める。

饗庭と侑斗も与えられた緑茶をすすり始めると、話は本題に切り替わった。

米満が「今目の前にいる饗庭兄弟は、あなたが幼きときに接したことがあるだろう望月樹さんのお孫さんに当たります。樹さんと茉莉子さんの間に授かった息子の大光さんは残念ながらこの世を去りましたが、大光さんの息子でもある長男の星弥と次男の侑斗は逞しく成長し、星弥に至っては佐賀県で唯一”警察官男子”という写真集で”サイキック警察官”として華々しく写真集デビューを飾りました。本来ならここに連れてきたかったのですが、仕事のため参加できなかったのが僕と星弥の親友で、陸上自衛隊の自衛官として勤務する支倉宙弥です。彼の祖母はかつてソメザワ・マテリアルの当時としては非常に珍しい女性の技術職として勤務していて、どういった形で親しくなったのかは分かりませんが、彼の祖母の工藤阿紗子とそして染澤潤一郎は愛人の契りでした。そして潤一郎の死後に、阿紗子は潤一郎の子供を身籠っていると分借り、1975年4月7日に長女となる佳織を出産、女手一つで娘を育て上げたんです。その佳織の息子が宙弥なのです。」

米満が淡々に説明をして行くうちに連れて、小鳥遊の表情が段々と何を話せばいいのか戸惑いを隠せない表情になってきた。

そんな様子を見て、饗庭は質問をした。

「僕たちは望月兄弟の子孫です。染澤潤一郎、そして望月兄弟、さらにソメザワ・マテリアルの副社長を務めた福冨克哉、そして小鳥遊社長のお父様でもある小鳥遊悟さんは、悪魔崇拝に傾倒し始めるようになっていく潤一郎についていくような形で、潤一郎が主催するサタンを呼び出すための降臨会に、小鳥遊悟さんは足げなく通っていました。戦前の小鳥遊悟さんの行いから推測しても、当然ながら絶縁と言われてもしょうがないことをしたにも関わらず、悪魔降臨会に呼ばれたのには恐らく理由があったと思います。それはソメザワ・マテリアル、モチヅキ・ドリーム・ファクトリー、そしてフェニックス・マテリアルの3社を経営統合しようと潤一郎は企んでいたんだと思います。盗み出したことに苛立ちはあったが、競合他社とのこの業界で生き抜くためには、悪魔の力でも借りないとやっていけなかったということでしょう。しかし、悪魔というのは、決して味方にはならなかった。藁にも縋る思いで、潤一郎は必死になって降臨会を行ったと思いますが、その甲斐もあってやっと地獄の門扉が我が家でもそして社長室に隠された秘密の小部屋でも開くことが出来た。だが呼んでしまったのは、サタンでも何者でもない、それは決して呼び出してはいけない者だったのだろう。潤一郎が亡くなった後に、小鳥遊悟さんがどうしてこのソメザワ・マテリアルのあった土地を買ってまで会社を移転する必要性があったのか、甚だ疑問に思えてなりません。小鳥遊社長、来るまでに仰って頂きましたよね?僕たちに見せたい宝箱があるということを、今お持ちならその宝箱を見せて頂けませんか?きっと小鳥遊悟さんしか知りえない秘密が眠っているのだろうと思います。」

饗庭がそう話すと、小鳥遊がぼそぼそとした口調で喋り始めた。
聞かれては困ることを聞かれたのだろうか、夏場でもないのに汗が止まらない状態だった。小鳥遊はズボンのポケットに入れていたハンカチで必死になって汗を拭い始めると、「わかりました。宝箱をお見せしましょう。」と立ち上がると、本棚の裏に隠された、あの例の小部屋へと通された。

「どうぞ中へお入りください。」

そう言われた3人は「わかりました。」と答えて、隠された小部屋の中へと入っていく。そこは非常に空気が重く、また吐いた息が白くなるほどの寒さだった。

侑斗が饗庭に語りだす。

「兄貴、何かいる。俺達が今まで出くわしてきたことがない、強大なエネルギーを持つ何かがここにいる。ここはやばい、引き上げたほうが良いんじゃないのか?」

侑斗が怯え始めると、饗庭は侑斗の手をガッと掴み始めた。

「そんなことで怯えていたら、悪はその弱さに付け込み、魂を奪いに攻撃を仕掛けてくる可能性が高い。そんなことは決して口に出すな。」

饗庭の説得に侑斗は「わかった。考えないようにする。」といって、小鳥遊の後に続いていく。そして入っていった小部屋の更にその奥には壁だと思っていたところが回転扉になっていて、中へと入れるようになっていた。

そこには、大きな円があり、地響きでもあったのだろうか、口がぱっかりと開いていた。小鳥遊が奥の書棚へと足を運び、そこからアンティークの木箱を取り出すと、米満に渡した。

「ここは、君たちが話してくれた、サタンを呼び出すための降臨会が行われた場所だ。ここで潤一郎おじさんは一心不乱になって、サタンを呼び出すためにありとあらゆる方法で悪に染め始めた。生前父から聞いた話だとここに生贄として工藤阿紗子さんを呼び出すと、不貞行為を示すためにこの場で行為に及び、そして潤一郎おじさんが意図的に注射器で自らの血を抜くと、その血で円が真っ赤に染まった瞬間にこの床は動いたとも、一部では潤一郎おじさんはサタンを呼び出すための人柱としてリストラになる予定の従業員をここへ連れて来て暴行にも及んだともされている。それは円を描くようにして、5人の元従業員を吊るし始めると、殺さない程度でそれぞれナイフで切り付けて、流した血をサタンに捧げたともいわれている。僕はこのことを知ったのは父が遺してくれたこの木彫りの木箱に収められた、この古いノートに全貌が書かれている。とりわけ潤一郎についてはおぞましすぎる。仮に殺人行為でなくとも、暴力を行ったのは事実だ。彼は企業秘密を盗みだしても警察に通報することをしなかった父に対して心優しい一面を見せたと同時に、サタンに傾倒するがあまりに残虐な一面を見せた。潤一郎おじさんは悪なのか、正義なのかそれすら僕にはわからない。ただ言えるのは、それが潤一郎おじさんなりの苦境を脱する答えだったのだろう。暴力こそは行ったが、ただ一つ言えることがあるとしたら、本当にサタンを呼び出したいのなら、何人もの魂をサタンに捧げなければいけなかったが潤一郎おじさんには人殺しなど出来なかった。ヒトスジシマカやゴキブリでも殺さず外へ逃したからね。そういう性格の人だったから、潤一郎おじさんなりのサタンを呼び出すための策だったのだろう。」

小鳥遊が説明に米満はゆっくりと木彫りのの木箱を開け始めた。

「この古びた茶色の分厚いノートに真実が隠されているんですね。ありがとうございます。このノートは一読してからまたお返ししたいと思います。」

米満がそう話すと、小鳥遊は意外な返事をした。

「それは君たちで保管をしたほうがいい。小鳥遊家で預かる代物ではない。君たちは君たちで潤一郎おじさんのことも、望月兄弟のことも、知らなければいけないことが僕以上にあるはずだ。君たちは君たちでわかることを、どうか僕の代わりになって真実を突き止めてほしい。それだけが願いだ。ここに居れば居るほど、悪は近づき弱みを探し始めると、ターゲットと搾った人間の魂を奪うために執拗な攻撃に出るだろう。僕は父に懇願されてこの会社の社長を継いできたが、行く行くはこの武雄市内にある本社工場も移転し、3代目となる社長は今いる社員の中から選別をしたいと思っている。それが善良な企業のあるべき姿だと思っている。」

小鳥遊の答えを聞いた饗庭は「ありがとうございます。」と深々と頭を下げると、続けて小鳥遊は話し始めた。

「今日来れなかった、陸上自衛隊の支倉君にも会ってみたい。支倉君に伝えてほしい。」

小鳥遊のお願いに米満は「わかりました。また支倉の都合が分れば、小鳥遊社長にも連絡をしますね。」と語った。

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