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降臨

饗庭なりの解釈を聞いて、釈然としない米満がいた。

そして今までの記者人生として培ってきたことを饗庭に説明をし始めた。

「俺だって、オカルト雑誌の記者として今まで色んな心霊スポットに行ってきたよ。今回の観音の滝や厳木ダムに虹の松原や、七ツ釜だけじゃないんだよ。心霊スポットと言える場所はどこにでも行ったよ。俺はその都度、御祓い用の塩を持ってきて必ず清めてきた。俺にとっては準備万端ともいえるぐらいの状況で、観音の滝や厳木ダム、虹の松原や七ツ釜に行き、そこで俺が見た悪い霊が俺に憑いてくることが出来ないとしても、あちこちにいる浮遊霊が俺の中に眠る負のパワーにおびき寄せられて現すというのが饗庭なりの持論なら、俺は饗庭の意見に対して論破してやる!」

米満の意見を聞いた饗庭が「へえ。そうか。」と小馬鹿にするような冷たい口調で返事をした。

米満は饗庭の態度に不服を感じて思わず声を荒げた。

「何だよ!文句があるならはっきりと言ってくれよ!馬鹿にされているような気がしてならない!!」

米満が思わず怒りを露わにすると、支倉が米満を宥めに来た。

「まあ、まあ。そこは冷静になって考え直してほしい。饗庭だって、米満に対してしっかりと説明をしなければいけないことはしなければいけないと俺は思うよ。」

支倉の言葉を受け、饗庭が淡々とした口調で語りだした。

「人間、人は死ねばどうなると思う?」

その言葉を聞いた米満は「饗庭、何言っているんだよ。そりゃあ、俺はまだ生きているし元気そのものだから、死後の世界なんてどうなっているか分からないけど、よく言われているのが臨死体験をしたときに、三途の川を見るとは言うよね。それを渡るか渡らないかで、死ぬか生き残るのかという話だよね?それぐらいなら俺だってわかっているよ。」と話すと、饗庭は「俺が言いたいのはそれじゃない。」と話すと、なぜ自殺の名所と呼ばれる場所に踏み入ってはいけない理由を説明した。

「自殺の名所ってどうして名所って言われるか、わかるか。人は死ぬと、魂だけが肉体から離れる。仏教の御経やキリスト教の聖書の言葉なんてのは、死んだらその言葉の有難みに分かってくるというように、その方が昇天される前に必ず有難いお言葉を唱えて、亡くなられた方が天国に昇天できるお手伝いをしてあげるのが葬式なんだ。ところが、自殺の名所で自殺を遂げた人ってのは、一時的に人生や仕事に対して嫌気がさしたり、中には”どうしようもない”と追い詰められた末の衝動的なものもあるがいずれにしろ、死んでから”あのときああしておけばよかった”と思うのが殆どだ。自殺の名所では、大量の自殺者の霊の集合体が出来やすいのは、その地で死んだことに縛られたい霊の集合体であると同時に、自分と同じような目に遇わせて自分と同じ思いを味わせることを目論見にしている悪霊だっているんだ。そういう霊ほど、邪悪化しやすい。たまたまその地に足を訪れただけでそうでもない人を引きずり込み、死に追いやるのだから、生者から相当のエネルギーを吸い込んでいる霊ほど、負のパワーは強大だ。それこそ、観音の滝で望月裕、厳木ダムで望月茉莉子、虹の松原で福冨克哉、七ツ釜で望月樹を見てしまったのなら尚更だ。望月茉莉子は死後凶悪化しているかどうかは俺には分からない、ただ望月裕や望月樹、福冨克哉といった自殺者の自殺をした理由が”悪魔サタンへの忠誠を誓うために身を投じた”んだよ。他の心霊スポットとは違う、そりゃあ悪魔だって目に見えぬ存在だしキリスト教だけの考えでは?と思う学者だっている。だが、現実世界に目を向けると1973年に上映されたアメリカの映画のエクソシスト(ウィリアム・フリードキン監督作品)のようにメリーランド悪魔憑依事件をもとに作られたことがあるように、宗教だけの話ではないということが分かっているし、その他は2005年に上映されたアメリカの映画のエミリー・ローズ(スコット・デリクソン監督作品)のような複数の悪魔に憑かれてしまったエミリー・ローズだって、アンネリーゼ・ミシェルという悪魔払いの末に亡くなってしまった女性をモデルにしている。日本だから、”悪魔”というといまいちイメージがわかないだけであって、元を手繰っていけば、キリストの教えに背いた人間こそが悪魔に陥ることから、仏教での定義で考えれば”悪霊”に近い。つまり言い方が違うだけで、考え方や定義は同じなんだ。」

饗庭の話はさらに続く。

「悪霊になればなるほど、御経の言葉や聖書の言葉なんてのは通用しない。死んでいくにつれ邪心を募らせていくうちに強大な負のパワーを身に付けていくと、付随するように浮遊霊を引き寄せてしまうものなんだ。どうして心霊スポットや自殺の名所に行けば御祓いが必要なのはわかっただろ。塩や聖水を撒いて攻撃をするだけでは、何の解決もならない。自己防衛をするための策を施さなければ、米満。お前には先祖の霊がいくら守ってくれているとしても、その先祖の霊すら余りにも負のエネルギーが強すぎるがゆえに弾き飛ばして守り切れなくなるぐらいのものになってしまう。俺が見た限りでは、もう望月裕や福冨克哉、そして望月樹は完全なる悪霊になってしまっている以上、俺のような霊能力者であっても、憑かれてしまうリスクが高い。俺がこんな仕事を選ぶのをやめて、警官になる道を選んだのは饗庭家代々で警察官を続けているというのもあるけど、俺は大学生2年生の時に犬鳴ダムの除霊の話を持ち掛けて来てくれた人の依頼を受けて実際に行ったことがあるんだ。その時に自分の力の弱さを痛感させられた。ダムで投身自殺を図るとね、水面に白い人が浮き上がってくるんだよ。俺が見たときは何百もの御霊が浮いているのが見えた。集団になって誘い込み、ボスと言える霊の中でも力を持つ人は中心にいて、一番強いエネルギーを持ち引きずり込むことも出来る。俺はあの時絶対に退散させてやるんだと強く意気込み除霊をしようと無茶をして、防護柵を乗り越えてダムに落ちかけた時があったんだ。負けてたまるか、って力一杯抵抗をしたから生きている。下手したらきっと俺もあのダムに落ちて地縛霊になり、新幹線が通るたびに車窓を眺める人々を恨めしく見ているだろう。そう思うと、俺にはこの仕事は向いていないって実感させられた。除霊というのは、死闘でもあるから、殉職するリスクも高い。こういった場所は日本全国各地に点在していて、霊能力者や霊媒師でも除霊ができない場所というのは、そこに居座る霊達がこの世に生きる者に対する怨みの念が強い場所でもあるんだ。だから関わらないほうがいい。米満には俺の気持ちを分かってほしい。」

饗庭は米満に話すと、来ていた上着を脱ぎ出し、鍛え上げた上半身が露わになったと同時に、饗庭の右腕の上腕二頭筋には、犬鳴ダムの霊達と闘った勲章だろうか、青痣に近いものが全体的に広がっていて、色濃く残っていた。

それを見てしまった米満と支倉は何も言い返せなかった。

「あれは俺が20歳になりたての時だった。3年以上経ってもこの痣は消えない。もう一度犬鳴ダムに向かい闘おうとしたが、楠木先生に怒鳴られた。”今度行けば、命の保証はない。だから絶対に行くな。”と言われてね、あれから俺は犬鳴トンネルすら怖くて車で通る際には避けるようになった。あそこは都市伝説で語られる内容以上に怖い場所なんだ。事故死した幽霊や自殺した幽霊などが多数現われ、それこそ何百ものいや何千もの霊の集合体があの地には眠っている。人間社会という複雑な世の中だからこそ霊になってもなおこの世への思いを募らせることは多いんだ。それは何年経っても人間は感情を持つ生き物だからこそ、考えは決して覆すことなんてできないことだ。だからそっとしておくのが一番望ましい。神経を逆撫でするような、人気を集めたいだけの馬鹿騒ぎをする行為はかえって霊を怒らせてしまう結果に繋がる。」

静かに語り終えた饗庭はそっと米満と支倉を見ると素早く着ていた服を着始めた。

饗庭の言葉に米満は自分があまりにも無知だったことに気付かされた。

そして塩さえ持っていけば大丈夫だと考えていた自分の浅はかな考えまでも、饗庭の犬鳴ダムでの話を聞いて、改めて関わってはいけないことに気付かされた。

饗庭の着替えが終わったところで、饗庭が話しかけた。

「今日は大学1年生の弟の侑斗が来ているんだ。俺と違い、侑斗は写真を見ただけでも過去に何が起こった場所なのかが透視できる凄い霊能力を持っている。」

饗庭がそう語ると、廊下に一度出て「侑斗!侑斗!」と呼びかけた。

何分か経って、弟の侑斗君だろうか、かなり眠たそうな顔の表情で現れるた。

米満が思わず支倉の耳元にそっと話しかけた。

「兄貴に負けんばかりの美男子だな。その上、がっしりした体型もまたすごい。弟も脱いだら凄いだろうな。しかし、饗庭兄弟はどうして芸能界に行かなかった?」

支倉がププッと笑いながらそっと答えた。

「饗庭家は明治時代からずっと続く警察官の家系だよ。そりゃあ、捨て子で養子とて受け入れた大光の代から大光の息子の星弥も侑斗も、望月家であって饗庭家の血筋を引いているわけではないしね。だから饗庭家にとっては、血の繋がりはなくとも代々続けてきた警察官という職務を続けてほしいということは息子達に継続してやってほしいとかがあったんじゃないのか?」と答えた。

2人でそわそわと話をしていると眠たそうな侑斗が喋り出した。

「何?兄貴の友達?」と欠伸をしながら語ると、饗庭が「俺の友達だ、左から雑誌記者の米満朔弥、隣は陸上自衛官の支倉宙弥。侑斗にも見せたいものがあるんだ。俺が虹の松原で見つけてきたあの金庫の中にある8mmフィルムだよ。侑斗にも俺と共に確認を行ってほしいんだ。お願い。」と話し懇願した。

すると侑斗から意外な答えが返ってきた。

「兄貴が家にいないときに俺勝手に見ちゃってね。なかなか壮絶な映像だったよ。悪魔降臨会とかは尚更見ないほうが良いんじゃないかと思う。サタンだろうか、それらしき黒い物体が映し出されていた。これは俺も色々な除霊や御祓いを行ってきたけどこれほど強大で邪悪なものはない。俺は見た瞬間に寒気と同時に汗が止まらなくなってしまった。これは関わってはいけない代物だろう。」

侑斗がそう語ると、饗庭がすかさず質問した。

「悪魔降臨会には何が映し出されていた?」

饗庭がそう聞くと、侑斗は答えた。

「五芒星を円で描いたのを5人で囲んでいた。恐らくだが、都市伝説で有名になったあの染澤潤一郎、左右に俺や兄貴の先祖でもある望月兄弟、左下に恐らく福冨克哉、右下にフェニックス・マテリアルの小鳥遊悟がいた。5人で悪魔を呼び出すための呪文を唱えると、ひたすらずっと蝋燭の火が揺れ動くのをじっと待ちながら、精神統一をした状態でサタンを呼び出す様子が映し出されていた。当時としてはカルト崇拝なんて、日本国内においてはそんな行われていたものでもなかったから、かなり先進的なものだったに違いないだろう。彼らの思いが伝わったのか、降臨会を行ってから13回目でようやくサタンが姿を現したんだ。床の地割れと共にね、映画でよく見る悪魔が地獄から這い上がってくるシーンをまさかこの目で見てしまうとは思ってもいなかった。それを見た5人は歓喜の声を上げるとともに、今迄人質として使ってきた、俺達の今も行方が分からないお婆ちゃん、茉莉子は口にテープを張られ動かぬようにロープで拘束された状態でじっと部屋の片隅で見ていたんだ。茉莉子はサタンを呼び出すための道具として使われたんだ。」

侑斗の話し出す内容に、周りは口がポカンとなって、出てくる言葉もなかった。

そして茉莉子についても侑斗は言及をし始めた。

「茉莉子は俺が透視をした限りでは、恐らく夫である樹の死後、この悪魔降臨会の参加メンバーでもあった小鳥遊悟の家に身を寄せようとしていた時期があったのだろう、しかし嫉妬深い小鳥遊の奥様に猛反対を暗い茉莉子は致し方なく、あのダムで沈められた実家に帰ろうとしたが、実家は望月裕による殺人放火事件が大々的に取り上げられたと同時に親族である茉莉子が実名報道で名前があげられる、住んでいた両親は家を離れ、廃墟となっていた。そこに茉莉子は身を寄せたが、出産が間近に迫り一人で産気づいたときに、恐らく呼び出したのだろう。夫の戦友でもあった小鳥遊をね。茉莉子は出産に至るまでの寝不足やきちんとした食事が摂れなかったということも影響し、我が子を出産と同時に彼女は力尽いて旅立ってしまったんだ。小鳥遊は茉莉子の死を見守ると、小鳥遊なりに出来るある程度の、生まれてきたへその緒がついた状態の胎児に対する体温が下がらないための処置等を行ってから交番に届けたに違いない。」

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