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茉莉子(まりこ)

ロケの収録が17時過ぎに終わり、一行は打ち上げのために七ツ釜園地を出た先にある定食屋へと足を運んだ。

「せっかくここまで来たんだから、名物の呼子の活きイカを堪能することが出来る定食を食べたいな!」

吉田の一声に、一同が声を合わせて「決まりだ!」と話し、定食屋へ足を運んだ。

料理が来るまでに、まずは注文したビールが並び始めたのと同時に、宅間がロケメンバーの全員に話をし始めた。「時間は17時30分をまわったところではありますが、暗くなるにつれて七ツ釜の検証を行うのは懐中電灯でなければ難しいのと、合わせて土地が傾斜しているところもあるので、足元が明るいうちに散策をしなければ下手したら我々のうちの誰かひとりが、あの七ツ釜の数多いる亡霊になりうる可能性もあり得ます。安全上のことも考え、一先ずこれ以上の撮影を行うことは続行不可能と判断し、あとは番組内で使えるシーンを編集することだけにしましょう。いつもより少し早めのビールですが乾杯をしましょう。」と語りだすと力強くビールジョッキを持ち上げて「ロケ撮影終了、お疲れ!!そして頑張ってくれた幽鬼に、吉田、渡邊、山口の皆、ありがとう!!そして乾杯!!」と歓声を上げると、一同で「乾杯!!」といってビールを飲み始めた。

「はあ~!上手い!!」

一同がビールを気持ちよく飲み始める中でただ一人、飲み始めて顔が真っ赤になる幽鬼の姿があった。その姿を見た渡邊は「幽鬼ってあれ、九州男児の割にはお酒に弱いんですか?」と聞かれ、「佐賀に戻ってくるまではずっと、お酒を飲む機会にはずっと恵まれていなかった。何せ、心霊スポット行った帰りに飲食店などないところが殆どだからね、東京へ戻ってきて飲むにしても明日が早いから、ロケが終わってから飲むなんてことは今まで一度もしてこなかった。」と答えた。

渡邊は幽鬼の答えを聞くと、「その顔の真っ赤な有様は久しぶりに飲んだというよりも体質的にアルコールが受け入れられないって感じに見えますよ。」と言われ、幽鬼は「まあ、先祖代々、特に山口県出身のうちの母方の親戚がお酒は弱かったので、その遺伝を受け継いだのかもしれません。」と語りだした。

宅間が幽鬼の生い立ちを聞き、「佐賀と山口のハーフじゃしょうがないなあ。」と言われ、さらにビールを飲み始める。

幽鬼が思わず、「あの山口県民も佐賀県民も皆日本人ですからね!国籍は皆さんと同じ日本国ですからね!」と不貞腐れるように話すと、吉田は「幽鬼さん、ムキになって話す内容でもないでしょう。決して悪口を言っているわけじゃないんですから。」といって宥め始めた。

皆でワイワイと賑やかに話していくと、頼んでいた海戦定食が並び始め、早速呼子の活きイカの造りを食べ始めた。

「うーん!コリコリの触感がたまらないですね!!」

山口が美味しそうに食べている姿を見て、周りも食べ始めていく。
吉田は美味しさのあまりに「こんなにおいしいイカの造りを食べてしまったらもうスーパーのイカの造りなんて食べられなくなりますね!」というと、山口は「そりゃそうだろ。本場のほうが鮮度も抜群だし美味しいに決まっているじゃないか!」とつかさず突っ込んだ。

食事を食べ終えた後にロケバスに帰ってきた一行は、佐賀レインボーTV局に次のロケの打ち合わせのために戻ることにした。

ロケバスの道中での出来事だった。

幽鬼がかつて、東京での心霊スポットの噂話を検証するために行った先での出来事を振り返り始めた。

「僕が八王子市にある旧小峰トンネルでの初仕事を終え、次の仕事は青梅市にある旧旧吹上トンネルだったんです。あくまでも噂ですが、トンネルを出た先に居酒屋らしき建物がかつてあってそこで殺人事件が起きたとされている。その際に殺された親子や従業員の報われない御霊が未だなお彷徨っている、とされているが1955年に起こったとされるこの事件については、調べてみたが事件があったことすら報道をされていないことから、殺人事件があったことはデマだったんじゃないかというのが結論に至った。心霊スポットサイトの書き込みでも、一部の情報によるとトンネル工事に携わった親子が住んでいた家ともされている。場所柄居酒屋というより茶屋で考えたほうがありえなくもない話ではあるが、事件が報道されていないあたりから、信憑性は薄いとみて判断したんだ。因みに旧旧吹上トンネルは老朽化に伴い、今にも崩落の危険性があるから現在は完全に塞がれ立入禁止になっている。」

幽鬼がゆっくりと話す内容に、宅間が自分なりの解釈を答え始める。

「それで言うとね、都市伝説だけの話だけど犬鳴村だってそうじゃないか。かつてあそこに凄惨な事件があってね、1988年の12月6日に、田川市内で帰宅途中の工員の軽乗用車を見つけて、車を盗む目的で『車を貸してくれ』と頼むも断られたため、それに腹を立てた犯人グループは工員の車を奪い、また工員も一緒に連れ去って仲間の家に監禁した。その後に、少年グループら全員で、犬鳴隧道へ連れ去って工員の手足を縛り、ガソリンをかけて焼殺したという話がある。またその事件以外にも2000年には犬鳴ダムで死体遺棄事件が発生している。犬鳴谷村というのはかつてあったそうだが、あくまでも噂されている”この先日本国憲法通用せず”といった内容はデマにしか過ぎない。事件が報道されていくにつれ、あの不気味な外観から奇妙な噂話をする人たちが増えたことにより、デマが広がったんだ。」

宅間の話をゆっくりと聞いた幽鬼が「まあよくありがちな話ですね。事件で報道されて、その事件があまりにも痛ましい内容程、この地域を知らない人たちによる噂話が拡散されてしまいやすいんです。ちなみにあのあたり周辺は不良のたまり場でもあり、また常に交通量の多い場所でもあるから交通事故の多発スポットでもありますからね。犬鳴村よりもそっちのほうが怖いような気がしますけどね。個人的には人柱伝説が色濃く残っている岐阜県の加茂郡八百津町にある二股トンネルが気になりますね。写真だけで実際に現地には行ったことはないのですが、あそこは何かあるような気がします。」といって語り始めた。

宅間が幽鬼の話を聞いて「そんなに気になるんだったら、自慢のYouTubeのライブ配信で撮ってきたらどうだ?」と言われ、幽鬼は思わず「いやいや、僕のこれまでの心霊スポットにいろいろ行ってきた経験上から言わせてもらうと、あそこは東海地方で一番危険な場所だと思いますよ。北海道の常紋トンネルを彷彿させられますよ。」と語ると、宅間はそんな幽鬼を見て笑いながら「そんなに人柱の噂を信じるなら、二股トンネルの壁を壊してきたらいいじゃないか!」と話すと、幽鬼は「ゆくゆくはダム底に沈むって話がありますからね。そのうちトンネルが壊されると同時に、仮に人骨があの壁に埋め込まれていたとしたら、出てくると思いますよ。」と話し始めた。

宅間は「まあ、そうなるだろうな。」と頷きながら話した。

ロケバスは佐賀レインボーTV局に着いたと同時に一行はミーティング室へと向かった。

「幽鬼、次のロケ地には岸岳城跡にて行う。日程については既にマネージャーの露木さんとも話し合い、2月19日に岸岳城跡でのロケの収録が行われる予定だ。あっそうそう因みに明日2月17日は”禁断の地へようこそ”の番組収録があるしね。」と話した後は岸岳城跡について説明をし始めた。

「岸岳山頂に建てられた岸岳城は波多一族の居城ではあったが、朝鮮出兵の際に豊臣秀吉の命令には従わずに独自で行動をしてしまったことにより、豊臣秀吉の逆鱗に触れてしまった。波多氏は島流しにされ、残された武士は自害を強要され、さらには逃げだした者も全て残党狩りによって皆殺しにされた。そんな悲しい歴史を持つ岸岳城の跡地にて、出てくるとされる鎧を身にまとった骸骨の霊に襲われるのが果たして真実なのかどうか、体を張ってでも実際に体感してほしい。」

宅間の提案に「また同じ唐津市内で行われるんですか?七ツ釜から少ししか移動していないじゃないですか。」と話すと、渡邊が切り出した。

「幽鬼さん、唐津市内は佐賀県内でも佐賀市に次ぐ心霊スポットの多さでは有名ですよ。先ほど説明をした岸岳城跡に、風の見える丘公園に旗本百人腹切り場所といった心霊スポットのほかにも、自殺の名所とされる場所が七ツ釜、厳木ダム、虹の松原、そして水難事故が多発している観音の滝があります。観音の滝には事故死したとされて報道されている情報の中には自殺した?とされる話もあるので、観音の滝を自殺の名所としてカウントをするべきだという説もあるほどです。オカルト研究家として検証のし甲斐はあるかと思いますよ。」

渡邊の話を聞いて、幽鬼は「まあそうだな。」と話しながら、七ツ釜で帰る際に聞いたあの声の話を宅間と渡邊に語りだした。

「帰る際に、聞こえたんです。”どうか、助けて”と悶え苦しむような声が海のほうから聞こえてきたんです。あれはきっと、あの地で自殺を図った人が僕に何かを訴えかけたようにも聞こえたんです。」

幽鬼がそう話すと、宅間が自分なりの見解を話し始めた。

「そもそも自殺者には、自殺をしたいと思って訪れ、最終的には自殺者の幽霊に導かれるように同じ道を歩み死を選ぶことが多い。いざ死んで、あの世に旅立ってから、この世でこうするべきだった、ああするべきだったなんて思うことが、死んでから非常に勝手なことだと思うけど、失敗したと懺悔をするんだよ。後悔の念を抱いてから、この世への未練を募らせるようになっていくと、”助けてくれ”という気持ちにもなってくるんじゃないのだろうか。少なくとも、俺達が追い求めたあの望月樹に関しては、死んでしまってからの未練というよりも、死んでからしか出来ない復讐を果たすためにもあの地で死を選んだという見方のほうが強いから、どちらかというと、あの地で自殺を図ろうとする人々に対して誘導して引きずり込もうとする幽霊のリーダー格なのだろう。あの世で自分の仲間を増やすことだけが、樹の果たしたい目標なのさ。」

宅間の話をじっくりと聞いていた幽鬼が思わず質問をした。

「僕がロケ撮影時の際に望月樹さんのことを説明しながら話したときに、あの僕がたまたま見ていたWEBサイトで奥様の茉莉子夫人の話にも触れられていたと思いますが、そのことについても知っていることってあるんですか?」

幽鬼の何気ない質問に渡邊が答え始めた。

「情報があまりにもなくて、正直わたしも宅間プロデューサーも、茉莉子夫人のその後はどうなったかはわかっていないんです。一説では、産婦人科の病院に通えるほどお金に余裕がない茉莉子は、公衆トイレで自力で出産した後、生まれたばかりの我が子を生前の樹が購入したゆりかごの中に入れた状態で交番の前に放置して、茉莉子は厳木ダムで自らの命を絶ったとされている。飛び込んだとされる場所には茉莉子のパンプスが置かれており、茉莉子の直筆の文章で”樹さん、ごめんなさい。一人で育てていく自信がありません。”と書いてあったそうです。それから生まれた子供についてはどうなったかは、誰も分かりません。」

その話を聞いた幽鬼は「まさか厳木ダムにも行けと言いませんよね?」と宅間と渡邊の顔を見ながら話すと、「そのうち行ってもらって検証してほしい。」と話し始めた。

幽鬼はその答えを聞くと渋々「わかりましたよ。」といって答えるしかなかった。

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