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七ツ釜へ

明くる日の2月16日。
朝8時30分に佐賀レインボーTV局に到着した幽鬼は、早速用意された控室の中へと入っていく。そこで予め用意されてあった衣装に着替えた後にメイク道具を使ってメイクをし始め、準備が整ったところでロケバスへと向かった。

幽鬼がADの吉田に「お待たせ!待った?」と聞くと、バスの中から番組プロデューサーの宅間裕一郎が出てきた。「幽鬼、待ったよ。オカルト研究家の幽鬼にはもってこいの場所だと思うぞ!視聴率がガッツリ稼げるような、いいお宝が映れるようにこちらからもお願いをしたいね。」と話すと、後ろからディレクターの渡邊幸姫が出てきて「幽鬼さん、今日の放送はYouTubeの”禁断の地へようこそ”の公式番組チャンネルのみならず、ニコニコ動画やTikTokの公式番組チャンネル、ニコニコ動画の公式チャンネルでもライブで生配信する予定です。ですので、幽鬼さんが現地に行って本当に怖いと思ったことは大袈裟にでも”ぎゃあああ”と叫んでいただいたほうがこちらも番組の知名度の上昇にも繋がりますので、幽鬼さんがみせてくれるリアクションを我々は楽しみにしていますよ。」と言われると、幽鬼は「わかりましたよ。」と話し、ロケバスが動き始めると持参していたタブレットをいじり始めた。

インストールされてあるニコニコ動画のアプリを開いて、”七ツ釜”とワード検索をしてみることにした。

”七ツ釜”って調べてみるだけでもこんなに多くの人が動画をアップロードをしているんだな。そう思いながら動画の一覧を見ていく中である動画が目に留まった。

『心霊ガチ過ぎるんですけど!これって樹なのか!?』

タイトルを見ただけで思わず食いついた幽鬼がオカルト研究家として動画を再生して心霊現象なのかどうかを検証してみることにした。

「どうも~!人気ニコニコ動画ユーザーを目指すオカルト研究家兼超常現象研究家でもあります来夢です!今日も生配信でお届けしていますよ~!!だから皆僕の頑張りに是非とも応援ボタンがあればポチっとクリックしてほしいです!それでは、話変わりまして本題にうつりましょう。今回は、佐賀県の唐津市内にある七ツ釜にやってきました!イェ~イ!!!!因みにこの地では、佐賀県で昔から知られている都市伝説の一つで”樹君の都市伝説”というのがあり、今回この樹の都市伝説が果たして真実なのかデマなのかを確かめるために、唐津市内にある七ツ釜へとやってきました!七ツ釜は福岡・佐賀・長崎の3県にまたがる玄海国定公園のうちの一つとされています。七ツ釜の名前の由来は、海の浸食により生まれた洞窟が7つあるためです!コバルトブルーの海を見ただけでも飛び込んでしまいたくなる心情に陥るのだろうか、七ツ釜は投身自殺の名所としても非常に有名な観光地の一つです。さてまずは七ツ釜遊覧船のイカ丸に乗って、洞窟内を散策しましょう!」

そう話した来夢はマリンパル呼子へとやってくると、停船されてあったイカ丸に乗り込み、船が動き始めるのをじっと待った。そして動いたと同時に、最初の見どころのスポットに到着したと同時に、来夢が話しかける。

「他の景色を楽しむお客さんのお邪魔にならないように小声でお伝えします。玄界灘の土器岬とされるのが今目の前に見えてきました。絶景です。」

来夢を乗せた船はさらに洞窟の近くへと近付く。

「見えてきましたね。この崖の上にある公園には自殺者の御霊を供養するための地蔵が安置されています。これを知ってしまえば益々樹の都市伝説の一つでもある、”七ツ釜に身を投じた樹の遺体は沖に流されたために40年以上経った今でも引き上げることが出来ない”という理由も、何だか頷けるような気がします。さて、イカ丸から降りたら、地蔵が設置されてあるという七ツ釜園地まで足を運んでみましょう。」

来夢が話すと、イカ丸は洞窟内を色々と散策した後に、フェリー乗り場へと戻ってきた。来夢は下船と同時に「さてと、再び陸地へ戻ってきましたので、地蔵が設置されてある場所へと歩いて向かいましょう。」というと徒歩で移動し始めた。

そして地蔵が置かれてあるとされる場所に到着した来夢は、地蔵の近くまで来て振り返った。「乙姫大明神・・・?地蔵が設置されてあると聞いたので、てっきりまさかこの地蔵、いや誰がどう見ても乙姫様ですね。竜宮城でもあるのでしょうか。遊歩道を歩いていけばある土器崎神社とは関連性はないと思われますので、恐らくですが今僕が来ているこの地こそが多くの方々が身を投じて命を落とした地であろうと思われます。早速ですが、この乙姫大明神の近くへと行って見ましょう。」

来夢がそう話すと、乙姫大明神の像の近くまで辿り着くと、乙姫大明神の像をバックにして「イェーイ!」といってふざけて左手でピースをし始めた。


そのとき来夢は気付かなかったのだが、後々になって来夢のニコニコ動画の生配信を見ていたユーザーからこのような指摘があったと続いている。

「どうも来夢です。七ツ釜に行った際の出来事です。乙姫大明神の像の前に僕が立ってふざけてイェーイ!とお決まりのポーズをしていたところ、僕の左肩のところに人らしき顔が映っていると指摘を受けましたので、動画の生配信を終えた後に早速アップロードされた動画を見てみると、言葉では言い表せられない光景が広がっていました。早速その動画を映像で説明するのは難しいと思いますので、パソコンの画像ソフトを用いて人の顔らしき部分が映っているところがより分かりやすく写っているところの身を抜粋したものを今から皆さんにお見せしましょう。」

来夢がそう話すと、A4サイズの用紙に、来夢の左肩に人の顔が映っているというのを見せて説明をした。

「見てください。僕も今まで色々な心霊写真を見てきましたが、顔の表情が真っ赤です。その上口を大きく開けて、何かを叫んでいるようにも見えます。これは、見てはいけないような気がしてなりません。」

来夢がそう話すと動画はここで終わっていた。

それから来夢の動画配信は終わってしまった。

幽鬼がのんびりとニコニコ動画でこの動画を見ていたら、隣に座っていた宅間が幽鬼に声をかけた。「おっ!いったい何の動画を見ていた?」と聞かれ幽鬼は先程のニコニコ動画の七ツ釜の映像を見せ始めた。

動画を見た宅間は幽鬼にこう告げた。

「その来夢なら、その動画をアップロードしてから2日後に七ツ釜に自殺をしたらしいよ。俺も、ニコニコ動画史上呪われた動画だと聞くんで、見てみたんだけど明らかに浮遊霊や地縛霊とは違う、怖さがあったからね。俺も色々な心霊番組の収録を行うまでに検証を行うんだけどね、映っているその顔が真っ赤な幽霊は、霊能力者曰くは”この世に対して根深い恨みを持って七ツ釜に投身自殺をした人物による霊”とのことだそうだ。顔が赤いのはね、怒り心頭のあまりに顔が血走っているんだよ。俺の中では恐らくその霊こそが、俺達が探し求める樹の御霊そのものだと思うんだ。樹が死後、そのような姿で現れても不思議じゃない。」と語った。

宅間の話を聞いた幽鬼は「どうしてそれを知っておきながら、行くまでに僕に説明をしてくれなかったのですか?」と聞くと、宅間は「知らないことは知らないほうがいいと思ってね。いずれにしろ、行けば分かる話だろうからと思ってその際に説明をするつもりだったんだ。」と説明をし始めた。

宅間の話を聞いた幽鬼は「そうですね。それでこそ僕のもう一つの仕事である怪談家としての話ネタが増えるわけでもありますからね。」と言って切り返すと、幽鬼たちが乗るロケバスは七ツ釜へと到着をした。

真っ先に降りた幽鬼は七ツ釜へと向かって遊歩道をゆっくりと歩き始めると、オカルト研究家兼怪談家になるまでの歩みを後ろからついて歩いてくる宅間や吉田、渡邊、そしてカメラマンの山口浩介に語り始めた。

「佐賀市内に住んでいますけど、唐津なんてなかなか訪れてこなかったですね。学生だった時はよく大学生時代の同級生と共に三瀬峠へ行き、よく肝試しをして帰ったりしてきましたよ。あと小城市内にある清水の滝や国道444号線にある福所江橋など、よくよく考えれば佐賀は佐賀でも近場しか行ってこなかったですね。」

幽鬼は振り返ると、オカルト研究家兼怪談家になってからの初仕事を振り返った。

「この仕事に携わるようになってまず最初に行ったのは、東京都の八王子にある旧小峰トンネルでした。あの、連続幼女誘拐殺人事件でも世間を震え上がらせた宮崎勤がさらってきた女児をトンネル内で殺害したともされている場所です。実際に行ってみたら、あの旧小峰トンネルの中だけは空気が違いました。こんなにも重苦しくて、長居したいなんて思えるような場所はないと思いました。あそこは慰霊目的で行かないと悪いものを一緒に憑いてきそうな、そんなところでもありましたね。あのあと僕は怖くなって御祓いに行ってきました。」

幽鬼の話を聞いた山口は「旧小峰トンネルは関東圏の中でも非常に有名な化けトン(=お化けが出るトンネル)ですからね。」と語った。

ゆっくりと話しながら歩いているうちに一行は七ツ釜園地へと辿り着き、その先にある乙姫大明神の像の前までやってきた。

渡邊が思わず「ここから眺める海がきれいですね!」と言い始めると、宅間は「そうだな。ここから眺める景色は絶景だな。」といって静かに海を眺めた。

そして撮影に入る前に検証のため七ツ釜を一望することが出来るスポットへと移動し始めると、コバルトブルーの海を見て思わず見入った。幽鬼が興味津々になって思わずしゃがみ込み、下を眺めてみた。

「打ち寄せる荒波が凄い!」

そう思いながら顔を見上げ、立ち上がろうとしたその瞬間だった。

海のほうから白くて長い手が幽鬼の顔を掴むとそのまま海のほうへと引きずり落されそうになってしまった。前かがみになった姿勢でそのまま海へと突き落とされそうになった幽鬼はその手を必死になって振り払い、難を逃れることができた。後でそのことを黒瀬鼻で検証をしていた宅間に説明をし始めた。

「宅間さん、僕、樹の御霊を見てしまったんです!!」

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