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呪いの輪廻

入院してから一夜が明けた。

女里谷はいつのも習慣で朝7時には起きてしまった。

入院中だというのに、それでもなお自分の中では休んでいる感覚が芽生えてこなかった。再度目を瞑り眠ろうとしたが、なかなか眠れなかった。

一先ず昨日の出来事についてどう報道されているのかがやはり気になり、テレビのスイッチをつけることにした。

「昨日9月4日の朝9時過ぎの出来事です。解体工事中だった6名の作業員のうちの一人が廃材を使い、1名の重症者と4名の尊い命を奪い、警察に身柄を拘束されましたが昨夜20時過ぎに拘留室にてぐったりしているところを発見し、脈を確認した結果死亡していることがわかりました。解体工事を請け負っていた株式会社大嶌組では事件を受けて対応に追われています。では昨晩21時過ぎに緊急で行われた代表取締役社長の大嶌氏による記者会見の様子をお伝えしましょう。」

すると会議室で大嶌社長並びに左には木藤春彦副社長、右には山嵜昌課長の姿があった。

「皆さん、お忙しい中、弊社にお集まりをして頂きありがとうございます。社長の大嶌です。この度は弊社の社員が世間にご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありませんでした。たった今、拘留中の警察署内で自殺を図ったとも情報が入り、我々も皆様に正確な情報をお伝えする上においてはまだまだ不足していますが、知っている範囲内での情報を出来る限りお話をさせて頂きます。」

大嶌が話すと左隣にいた木藤が話し始める。

「今回事件を起こした、役職は課長ではあります。性格は大人しく真面目で温厚な社員でした。後輩への思いやりは誰よりも溢れていたと伺っています。我々も彼がこんな事件を起こすような人物ではないと思っていますが、起きてしまっている以上事実を受け入れ、出来る限りの追悼をしなければならないと考えています。」

木藤が話し終えると、大嶌の右隣にいた山嵜が話し始める。

「今回事件を起こした社員と僕は同期で入社しました。いたって真面目で冗談の一つすら言わない真面目な男でした。彼が悪口や愚痴などを言うこともありませんでした。今こうして思えば彼が仕事において我慢をしていたこともあったのだろうと思われます。共に作業をしていたことも多々ありましたが、彼の精神的な悩みに対してもっと寄り添っていけたら変わっていたと思います。」

3人が話し終えると、大嶌が「質問の時間を設けます。疑問に思ったことがあれば挙手をお願いします。」というと、何名もの記者が手を上げ始めた。

「解体工事の真っ最中での事件だと伺っていますが、まだ現場での解体作業は終わっていないということですよね?残っている部屋があるということですよね?作業は今後どうなされるおつもりですか?」

記者の質問に大嶌が答え始める。

「現場での解体作業は、弊社では金輪際もう関わらない方針で依頼人にも連絡をするつもりです。当日は残っていた地下室の解体を行う予定でしたが、これ以上の犠牲を出さないためにも他の会社に依頼するように連絡をするつもりです。」と語ると、質問の答えに対してある記者が鋭い質問をした。

「大嶌社長。犠牲を出さないというのはどういうことですか?かつてあの家には無理心中事件が起きたのを機に住む人間の大黒柱があの家に住む”魔物”に取り憑かれ同じように無理心中事件が立て続けに起きたあの忌まわしき建物において、その”魔物”を目覚めさせてしまったということでしょうか?祈祷などはされていたんですか?」と訊ねられ、山嵜が答え始める。

「工事が入る前に西之原大明神にて祈祷を行った後、建物の解体工事に入りました。工事は順調に行われていたと思われますが、昨晩に今回の事件で亡くなった社員の河村から事務所に連絡があり、”地下室はおかしいから正式に調査を行ってから解体をしたほうがいい”という内容でした。我々も解体工事を依頼した依頼人に地下室の説明を受けてから行う予定ではありました。事件が起きた朝は廃材の片づけを行っていた最中の出来事であります。」

山嵜がそう話し終えると、ある記者は「地下室はおかしいと思われた根拠は何ですか?解体工事が行われるまでに予め家屋調査は行われていなかったのですか?ではどうして地下室はほかの部屋とは何か違うと考えに至ったのには理由があるんですか?」と聞かれ、木藤が「その点はまだ我々も依頼人に聞かなければならないのですが、聞けば地下室に前の住人の忘れ物でしょうか、お位牌や遺影があったと伺っています。壁には”悪霊退散”や”南無阿弥陀仏”と書かれた御札が張り巡らされていたとも聞いていますから恐らくですが何かしら故人を弔うための部屋だったのだろうと推測されます。この部屋だけが、収納庫の奥の壁がベニヤ板で覆われそう簡単には入れないように作られていたとも聞いています。」と話した。

木藤の答えを聞き、さらに記者がこう質問をした。

「一連の事件の要因は霊障によるものとでも言いたいのでしょうか?」

その答えに山嵜は「霊障なのかどうかは、我々も霊媒師ではないのでお答えは出来ません。しかし普通の一軒家ではあってはおかしいものがあったのは事実です。」と答えるしかなかった。

するとある記者が、そんな3人を見かねてある指摘をした。

「あの家にはかつて染澤潤一郎という人物が畑だった土地を買い取り豪邸にしたのは1971年の事です。染澤潤一郎が経営をしていた事業は順調だったようでしたが、ライバル企業の頭角を機に徐々に染澤潤一郎が経営をする企業は赤字に陥りました。プライドが強く、借金を背負ってまで赤字の補填を行いたくない染澤潤一郎はリストラに踏み切りましたが、それでも経営危機を脱することが出来ず、1974年の7月21日にはとうとう倒産危機にまで陥ってしまうと、成す術がないと判断したのだろうか、倒産危機になった2日後には我が家で妻や息子たちを殺害した後、明くる日の1974年7月24日に自ら切腹自殺を図り命を絶った場所です。切腹自殺の際には、一度包丁で切っただけでは死にきれなかったため、さらに包丁で腹部の更に奥までえぐるように刺し続けたともされています。彼の事件後、あの土地は忌み嫌われるようになり、また同時に都市伝説が生まれたのも御社では御存知だったのでしょうか?地元企業の割には、あの土地に対する情報が不足だったのではと思いますよ。」

その話を聞いた大嶌は「かつて事件があったことはわかっています。だけど都市伝説までは我々も認知はしていませんでした。」と語ると、ある記者が語りだした。

「多久市内では知らない人はいないあの”潤一郎さん”の都市伝説を知らないなんて恥ずかしいですね。”潤一郎さん”の都市伝説では、生前の潤一郎が非常に頭が良くまたアインシュタインの相対性理論を正確に伝えられることが出来る程の秀才だった彼は子供には非情に優しかったという話です。あの地に訪れた子供が分からないことがあれば自分の知っている知識を教えたそうです。そんな潤一郎は自分が教えてほしいことがあってもなくても遭遇した際にこう叫べば逃げられるという逸話があります。それは”潤一郎さん、潤一郎さん、教えてください”と3回唱えることです。それが学校の勉強でわからないことがあれば教え、事件のことや経営をしていた会社の倒産について触れる内容であれば怒り狂い祟られるという話です。」

記者会見の様子はここで途切れ、被害者の情報へと入っていく。

改めて染澤潤一郎の都市伝説の話を知った女里谷は持っていたタブレットのGoogleのアプリを開くと、さっそく「多久市内 都市伝説」と入力をして検索をし始めた。

すると昨晩に見た”心霊探索図鑑”の中にリンクされてある都市伝説の記事に辿り着いた。

『潤一郎さんは非常に頭が良く、自分よりも頭が悪いと見た人に対しては見下したり侮辱をしていたそうですが、子供が学校の勉学で純粋にわからないことがあって教えてほしいことに対しては、”しょうがないなあ”と話し、その子がわかるまでとことん付き合ってあげたという逸話があるそうです。そのことから、あの地で潤一郎さんに出会った場合に”潤一郎さん、潤一郎さん、勉強で分からないことがあります。教えてください”と3回唱えれば、”しょうがないなあ”といって勉学を教えた後に命だけは逃してくれるとのことだそうだが、事件や会社の倒産危機について追及するような質問であれば、般若のお面のような表情で激しく怒り狂い、その場で呪いをかけるそうです。呪いをかけられたら自分と同じような手法で家族の命を殺めるように導いた後に、自ら命を絶つように誘導するとのことです。また、学校の勉学でわからないことでもないのに”潤一郎さん、潤一郎さん、勉強しても分からないことがあったので教えてください”と嘘をつき3回唱えても、潤一郎さんは人の嘘はすぐ見抜いてしまいます。嘘だとわかった場合は、前述した呪いにかけられるそうです。』

その記述を見て女里谷は怖い思いになった。

「俺の地元は唐津だったから、知らなかっただけかもしれない。」

そして、事件が起きて3日後となる9月7日に、株式会社大嶌組に反町の姿があった。

反町は入ってくると対応に出た櫻井に「お忙しい中、お邪魔をして連絡もかけずお邪魔して申し訳ありません。大嶌社長はいらっしゃいますか?」と訊ねられ、櫻井は「社長ならいますよ。マスコミの対応に追われて忙しいんですよ。」と話すと、会議室にいた大嶌を呼ぶと、反町に「どうぞこちらへ来てください。」といって接待の間に案内をする。

案内された革張りのソファに腰を掛けた反町は、早速大嶌に話しかける。

「来て早々ですが、あの例の旧染澤邸の解体工事の件ですが、僕としては引き続き御社で地下室の解体工事もお願いしたいんです。何とかしていただけませんか?」

反町にお願いをされた大嶌は「来てもらって申し訳ないが、悪いけどあの部屋の解体作業は他を当たってほしいただけませんか。これ以上あの地に関わって呪われては戦力がなくなっていくだけです。うちのような中小零細企業に依頼をして頂いたのは我々も非常に嬉しかった話です。しかしもうこれ以上関わってはいけないと思います。もう、社員の犠牲者を出したくないんです。」と語りだした。

大嶌の答えを聞き、反町は粘り強く交渉する。

「社長、冷静に考えましょうよ。このビジネスが成功すれば、御社がより良い方向へとなるように、我々もこの解体工事以外の仕事を提供しましょう。約束します。ですから、お金はいくらでも払いますから、こんなビッグなビジネスチャンスはないと思います。今先程ですが、我々で地下にあった故染澤潤一郎さんの位牌や遺影、生前のアルバムや書き綴ったノートや、”悪魔と取引したい”と綴った設計図も取り除き、祈祷師を呼び、地下室で眠る潤一郎さんの御霊を御祓いしてきたばかりです。ですので地下室のことについて触れなかった我々にも落ち度はありますが、そこを何とか、呪い対策は行いましたのでして頂けませんか?」と言われるが、大嶌は頑なに断る。

「反町さん、そうやって前回この仕事の依頼を受けた際に”御祓いは済ませましたので安心してください”といって我々を安心させたじゃないですか。しかし現実は違っていたじゃないですか。呪いはまだ続いていた。死んでもなお社会を怨み呪いの輪廻を繰り返してきた潤一郎の御霊はそう簡単に昇天はしないと思いますよ。」と言い放つと、反町は諦めず交渉をしてきた。

「大嶌社長、御社が大企業になる後押しをすると言っているんですよ。こんなチャンスはないと思いますよ。今こうして話してある内容についてボイスレコーダーで録音をさせています。内容的にまずいことがあれば、我々だって弁護士事務所ですから訴訟を起こせられますよ?そうなってくると御社は勝ち目がないと思いますよ。」

反町に訴訟を起こされては困る大嶌は悩み考えた。

そして考え抜いた末答えを出した。

「わかりました。今度ばかりは犠牲者を出さないためにもわたしが現場責任者として引き続き作業を行います。」

その答えを聞くと反町は安堵して「ありがとうございます。考えられるリスクのためにも1000万円と話しましたが1200万円に金額を上げましょう。お金の支払い方法は工事が終わってからの後払いにしましょう。完了次第又僕の携帯電話に連絡をして頂けませんか。」と話した。

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