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19話

「わーー!」

ソフィアさんに教わった、店にたどり着いた。
店の外観は普通の…ホームセンターのようなものだった。
けれど中に入ってみれば、そこに広がっていたのは花畑だった。

「あ、ちゃんと建物の中だった…」

花畑に見えたのは、一面が花で埋め尽くされていたからだ。
高い棚などは一切おいてなく、視界が広い。その分、遠くまで見渡せるのもあるだろう。


入り口近くに案内図を見かけた。
大きく4つに分けられている。中央に交わるように大きな通路で区切られている。
それぞれ、春夏秋冬の花達が用意されているようだ。
その中も、小さな通路でそれぞれに分けられているようだ。

「へーこんなに沢山あるんだね」

入口から伸びている通路の左右は、右が春の花、左が冬の花が置かれているようだ。
どのコーナーもいろんな花が咲き乱れている。
どうやら、コーナーごとに空調をそれぞれの季節の気候に合わせて調整しているようだ。
けれどそれは花にしか作用せず、冬のコーナーが寒いということはない。

左右を見ながら、今の時期なら夏の花かと考えながらそのコーナーへ向かう。
スイレンやあやめ、ユリ、ラベンダー、バラなど、花の底まで詳しくないけど知ってる品種もあれば、そんな名前の花もあったなーと思う花、名前を見ても分からない花等色々あった。
恐らく、名前を見ても分からない花の中には、地球外から来た花もあるのだろう。

「ニコは、どの花がいい?」
「?」

少し高い位置にあって見えないだろうニコを抱き上げて花を見せれば、何故かキョトンとした顔でこちらを見上げてくる。

「ん?どうしたの?」
「ん-…?」

先ほどまでは花を見て目をキラキラさせていたけれど、どこか戸惑っている感じだ。
挨拶と簡単な会話が出来るまでには言葉を覚えることはできたけれど、自分の感情を細かく言葉にすることはまだできない。今はその状態だ。

「この辺りのは違うの?」
「…」

短く問いかければ、しばし考えたのち、コクリとうなずく。
じゃあ場所を移動してみようと、まず大きい通路沿いを見ながら歩いていく。
どこも色とりどりの花が咲いて居たり、もう少しで咲きそうなつぼみの状態のものもあった。
反対側には春の花々が並べられていて、そちらを見ても楽しめる。
けれど、ニコの表情は晴れなかった。

「ニコ…?」

広い店内。だけれど、こちら側の出入り口までたどり着いた。
一体どうしたのか、とりあえず戻ろうと振り返る。
すると、何かが目についたのか、クイッと服を引っ張られた。

「ん?」
「ママ」

指を差す方向に目を向ける。
壁際に設置された棚を差しているようだ。

「ここが気になるの?」
「うん」

何が置いてあるのだろうと近づいてみれば、そこには種や球根が置かれていた。

「…あっ!」

そういうことかと、納得した。
「はなのたね」という、花好きのニコが喜びそうだなーと思って買った絵本がある。
予想は当たり、今では1番のお気に入りだ。一日に数回は読んでとせがまれるし、しまいには暗記してしまったほどだ。文字数少なかったのもあるが。
内容は「この花は何の種?→土に植える→目が出て育つ→花が咲く」というのが1ページずつ描かれ、それを10種類ほど繰り返して終わるものだ。
ちなみにシリーズ化され、春夏秋冬と別れているし、春は数冊でている。さすがに全部は買えなかったが。今度そろえようかな。

…と、おそらくニコは「花を育てる」と聞いて、種や球根から育てる物を想像したのだろう。
ココロは、だまそこから育てるのは大変だから、せめてつぼみ状態のものから世話をしようと考えていた。

「そっか。そう思ってもしょうがないよね。そうだなー」

勘違いさせてしまったのもあるし、やりたがっているのだから否定は出来ない。
すぐに折衷案が思い浮かんだ。

「じゃ、こうしようか。1つだけ、種を植えよう。で、花が咲くまで何も無いのは寂しいから、庭に置くのは咲いてるものか、蕾の物も買っていくの。どう?」

そう伝えると、暗かった表情はパァーっと晴れた。提案を受け入れてくれたようだ。

「じゃあ最初は、種を選ぼうか。何がいい?」
「えっとね、えっとね」

種の棚を見回して、何かを探しているようだ。どの花の種なのか分かるように、写真が貼ってあるので、それを見比べている。
それから、降りたそうにしたので降ろしてあげれば、目的のものを見つけたのかたぁーっと走っていき、すぐに戻ってきた。

「これ!」
「これは…」
「ママの花」
「…え?」

種の袋に書かれている字を見れば、ヒマワリだった。
それを見せながら「ママの花」とは一体…。

「あのねあのね!ニコ、ヒマワリだいすき!ママみたいにあったかいから!」
「ニコ…」

そう言われて、思わず抱きしめる。なんという嬉しい事を言ってくれるのだろうか。

「ありがとう、ニコ。お家のお庭、ヒマワリでいっぱいにしちゃおっか!」
「うん!」

とりあえず種は2袋買った。蒔くのに丁度いい季節だ。上手く育てられればヒマワリ畑が作れるだろう。

それから、庭に植える花を数種類。
用意したプランターと植木鉢におさまるように選んでいく。

「よし、じゃああとは帰って植えるだけだね」
「ママ!はやくはやく!」
「あ、まって。隣にガーデニングスペースがあるみたい。そこでお昼にしよう」
「するー!」

入ってきたのとは違う入口の先に、公園と併用して作られているようだ。
休憩スペースもあるから、そこで食べようと思っていたところだ。
丁度ベンチが1つ空いていたので、ニコをそこに座らせる。

「はい、どうぞ」
「いただきまーす!」

おしぼりで手を綺麗にふいてから、サンドイッチに手を伸ばす。
1口目を口に入れようとした所で、その動きが止まった。

「…?」

視線をサンドイッチから逸らす。
その先を辿ってみると、親子連れがいた。

「パパー!早く早く!」
「ハイハイ。じっとしてないと撮れないぞ」

咲き誇る花を背景に、写真を撮っているようだ。
母親と、ニコより大きな女の子が、カメラを構える父親に声をかけている。

「………」

その様子を、じーっと見ているようだ。

「今度はパパと!」
「よーし、ママに撮ってもらおう」

何枚か撮ったら交代。女の子は肩車をしてもらった。
その様子を撮っていた母親が、こちらに気がつく。

「あの、お食事中すみません。シャッターお願いしてもいいですか?」
「良いですよ。ただ、ここからは離れられないので」
「大丈夫です。お願いします」

母親はニコの存在も認め、動けない事を承知した。
2人のもとに行き、こちらに向かって並ぶ。

「じゃあ撮りますね!」

数回シャッターを押して、カメラを返す。
撮れた写真を確認して、満足してこの場から離れていった。

「さ、食べよう。早くしないと、種植える時間が減っちゃうよ」
「はーい」

ちらりと、親子が去った方向を見やってから、サンドイッチを食べ始めた。

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