可愛くてキュアキュアな その3
コンビニおもてなし3号店は人里離れた火山の麓にあります。
以前は火山のせいで草木一本生えていない荒れ地の中に、ぽつんとお屋敷が建っていたのですが、今のこの一帯は見違えた状態になっています。
コンビニおもてなし3号店が入っているお屋敷を中心にして、建物の後方にあたる火山側には山肌に沿ってプラントの木がびっしり生えています。
この木で、高級紅茶の葉や味噌の実なんかを連日大量生産しているわけです。
そしてそれ以外の3方向に、魔法使い達が家として使用しているプラントの巨木が密集しているのです。
これは、一般的には入手が困難な魔女魔法出版の書籍をコンビニおもてなし3号店が大量に扱っているもんですから、その本を求めて大陸各地から魔法使い達が巨木の家ごと引っ越してきた結果なんですよね。
そんなコンビニおもてなし3号店に魔導船乗降タワーが設置されまして、新たに定期魔道船がやってくることになった次第です。
この定期魔道船のお客様のお目当て商品は、子供服と魔法少女戦隊キュアキュア5の関連商品という、子供向けのラインナップになるわけです。
テトテ集落の皆さんとも相談していまして、大人向けの服の生産もお願いしているのですが、大人向けの服を生産するとなるとまったく新しい生産ラインを作る必要がある上に、1着作るのに必要な布が多くなってしまいます。
布の量に関してはルシクコンベの長であるグルマポッポにも増産をお願いしてみようとは思っているのですが、少なくとも今日明日に対応出来そうにはありません。
「せめて、もう少し何か出来ないかなぁ」
僕は3号店の店内を見回しながらそんなことを考えていました。
実際、部屋はまだまだ空いています。ですので、何かを準備する余地はあるわけなのですが……
そんな事を考えていると、僕の目の前にいきなり魔法陣が展開しました。
そして、その中から魔女魔法出版のダンダリンダが姿を現したのです。
「はぁい、店長さん。お久しぶりでございますわ」
「やぁ、ダンダリンダ。スアの原稿かい? スアなら家にいるはずだけど」
「あぁ、原稿でしたらもういただきましたわ」
そう言うと、ダンダリンダは原稿の入っている封筒を魔法袋から取り出して見せてくれました。
ちなみに、今回のスアの新作は
ゴブリンでも出来る木人形のバージョンアップ その1
通信魔石の実用性に対する考察と実験結果
以上の2冊になるそうです。
どちらも、マクローコのお店に導入したがま口木人形こと、がま口ドロ子ちゃんを作成した経験に基づいた著作のようですね。
「じゃあ、用件は店の方? 本の仕入れの関係かな?」
「いえいえ、本日伺ったのは店長さんにお話があったからですわ」
「僕に?」
「はい」
そう言うと、ダンダリンダはスアの原稿を魔法袋にしまい、別の品物を取り出しました。
それは、1冊の絵本でした。
「あぁ、それ、テレコ達が書いてる」
「はい、魔法少女戦隊キュアキュア5の絵本ですわ」
そう言うと、ダンダリンダは、手の中に絵本をどんどん並べていきました。
「……でね、店長さん、ここでご相談です」
「はい、なんでしょう?」
「この建物の開き部屋を利用して、この魔法少女戦隊キュアキュア5の世界を体験出来るアトラクションを作らせていただけませんこと? 併せて魔法少女戦隊キュアキュア5の絵本の特設コーナーも作らせていただきたいと思っておりますの」
そう言うと、ダンダリンダはにっこり微笑みました。
確かに、これはいいお話でした。
子供達がメインターゲットとはいえ、ここ3号店にはその子供達が時間を潰せる場所がありませんでしたからね。
魔女魔法出版の書籍コーナーに子供達が大挙して入り込むと、中には大声で騒ぎ出す子供達がいないとも限りませんし。
その点、このアトラクションを作ってもらえば、その中に絵本の特設コーナーも出来る訳ですから子供達も退屈することなく過ごせるわけです。
しかも、設置にかかる費用はすべて魔女魔法出版が負担してくださる上に、テレコ達の商品開発に協賛したいとも申し出てくれたのです。
これによりまして、テレコ達が作った商品を、魔女魔法出版の方で複製し大量生産してくれる段取りになりました。
すべて手作りで対応していたテレコ達は、最初こそ
「あの……複製とかだと、商品の質が劣化したりしませんか……」
と、心配しきりだったのですが、
「では、商品をいくつかお借りしますわね」
そう言って、テレコ達が運び込んでいたキュアキュア5の商品をいくつか借り、魔法陣をくぐって魔女魔法出版へ帰って行きました。
そして、待つこと1分。
「こんな感じでいかがかしら?」
そう言って、早速複製の試作品を持ってきてくれたのですが、それはそれはよく出来ていました。
一目見ただけではどっちが複製品かわかりません。
テレコ達も、
「こ、これなら大丈夫、です……」
そう言って、嬉しそうに笑っていました。
そんなわけで、テトテ集落の皆さんとテレコ達が準備を進めている部屋の隣で魔女魔法出版の皆さんによるアトラクションの準備が始まりました。
そこはさすが魔女魔法出版です。
職員の上級魔法使いの皆さんが大挙して訪れまして、魔法を駆使してアトラクションをどんどん作っています。
キュアキュア5に変身出来るコーナー
キュアキュア5になりきって魔王と疑似対決出来るコーナー
キュアキュア5になりきって空を飛んでいる雰囲気を味わえるコーナー
そんなアトラクションが室内にどんどん完成していきます。
どこかの王都のお茶ばっかり飲んでいるおーっほっほっほな上級魔法使い達とは段違いですね。
2階の空き部屋のうち、子供服販売コーナー用として1部屋、アトラクション用として4部屋を使用してコンビニおもてなし3号店に新たなコーナーが出来上がっていきました。
服の販売所はエレ達が準備を進めてくれていたので出来上がりが早かったのは当然なのですが、魔女魔法出版のみなさんによる準備が、かなり大がかりな設備を作成したにもかかわらず、わずか2日で完成したのには僕もびっくりでした。
現場を確認にいくと、スアのお母さんこと魔女魔法出版社長のリテールさんも現場にやって来ていまして、できあがり具合をダンダリンダと一緒になって確認していました。
スア並にミニマムな体型をなさっているリテールさんですが、その顔は真剣そのものです。
アトラクションを自分で触ってみながらあれこれチェックなさっています。
こんなに真剣なリテールさんは始めてみたかもしれないな……なんて思っていたのですが、そのリテールさんは、僕がいるのに気が付くと、
「あらまぁまぁ、ステルちゃんの旦那様じゃありませんかぁ」
と、その顔に満面の笑みを浮かべながら僕に抱きついてきました。
「今回はぁ、私たちの申し出を快くお受けくださりましてまことにありがとうございますですわぁ」
そう言いながら、リテールさんは、僕の腰のあたりを人差し指でつついています。
そんなリテールさんに僕は笑顔を返しながら
「いえいえ、こちらとしてもとてもありがたい申し出でしたので、本当にありがとうございます」
そう言い、頭を下げました。
すると、リテールさんは再びにっこり微笑みまして
「いえいえ、婿様のお役にたてるのでしたらむしろバッチこいですわぁ」
そう言ってくれました。
そして、そのまま背伸びしながら僕の耳元に口を寄せてきたリテールさんは
「あのですね、きっとステルちゃんも弟か妹がほしいと思いますの。ですのでぇ、ついでにその協力もお願いしたいなぁ、なんて……」
満面の笑顔と同時に、頬を赤く染めながらそこまで言ったのですが、ここでリテールさんの姿はかき消えていきました。
で、その向こうには、転移魔法でやって来たスアの姿があったのです。
「……まったく、油断も隙も、あったもんじゃない、わ」
スアはプリプリ怒りながら、僕に抱きついてきました。
僕は、そんなスアを抱きしめると、
「僕にはスアだけだって、わかってるでしょ?」
そう言いました。
すると、スアは膨らませていた頬を笑顔に変えまして、
「……大好き」
そう言いながら僕の胸に顔を埋めていきました。
なお、びしょ濡れになったリテールさんが戻ってきたのは1時間後だったのですが……この近辺って水源はないんですよね。
地下深くから地下水を吸い上げているもんですから……
リテールさんってば、スアにどこまでとばされたんでしょうね……謎です。
そんなこともありながらも、新コンビニおもてなし3号店が完成したわけです、はい。
いよいよ明日から定期魔道船にのってお客さん達がやってきます。