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可愛くてキュアキュアな その1

 あっという間に1週間が過ぎました。
 ドンタコスゥコ商会の2階催事場で開催されていました『コンビニおもてなし製子供服展示即売会』は大盛況のうちに幕を閉じました。
 あまりにも大量にお客様がいらっしゃったもんですから、4日目からはドンタコスゥコ商会の1階店舗の半分近くを使わせてもらって開催を続けさせてもらったのですが、そのおかげもあってドンタコスゥコ商会のお店の中は連日大勢のお客さんで賑わった次第です。

 最終日の営業を終えたドンタコスゥコ商会の店内で、僕はドンタコスゥコに笑顔を向けました。
「いやぁ、ドンタコスゥコ、今回は本当に助かったよ」
「いえいえ、おかげでウチの店の品物もよく売れましたからねぇ。お互い様ですねぇ」
 僕とドンタコスゥコはそんな言葉を交わしながら握手を交わしていました。
 すると、その途中ドンタコスゥコは僕に向かって顔を寄せてきました。
「で、ですね店長さん、今回の子供服なんですがねぇ、出来ることなら我がドンタコスゥコ商会で大量に仕入れさせて頂きたいのですがねぇ……」
 そう話かけてきたドンタコスゥコ。
 で、僕はその話を聞いていたのですが、そんなドンタコスゥコの肩を後方から叩く人物が現れました。
「ちょっと待つですねぇ、今、店長さんと大事な商談をしているところなんですよねぇ」
「あらぁ? 仕入れの商談は必ず私を通すように、と、あれほどお話しておいたはずですよねぇ?」
「う、そ、その声は……」
 ドンタコスゥコが慌てて振り返ると、そこにはおもてなし商会のファラさんが立っていました。
 ファラさんは、手にそろばんを持ってですね、なんとも言えない素敵な笑顔を浮かべながらドンタコスゥコを見つめています。
 ドンタコスゥコは、その顔面に大量の脂汗を流しながら、なんともいえない強ばった笑顔を浮かべながらファラさんを見つめ返しています。
 そのまま、ドンタコスゥコの肩を抱き寄せたファラさんは、
「さ、あっちで心ゆくまで値段交渉をしましょうかねぇ」
「うぬう……ちょ、ちょこざいなでございますですよねぇ」
 ファラさんの言葉に、ドンタコスゥコも威勢のいい言葉を返していますが、明らかにその足はガクガク震えていました。

 その後

 1時間ほどして、コンビニおもてなし5号店の奥にありますおもてなし商会ナカンコンベ店の事務所から戻ってきたドンタコスゥコはですね
「ふっふっふ……めいっぱい戦ったのですよ……ま、真っ白な灰になったのですよ……」
 なんか、視線を宙に舞わせながらふらつきまくっていました。

 ただ、そうは言いましてもですね、ドンタコスゥコ曰く、
「まぁ、思ったほど安くはなりませんでしたけどねぇ、これでも売りにいけば十分儲けが出る仕入れ価格ですねぇ」
 そんな感じらしいです。
 ファラさんは、そこら辺の調整がホントにうまいんですよね。
 ドンタコスゥコにしてみれば、そこが小憎らしいのでしょうけど、まぁ、ファラさんは何百年も生きている龍人ですから、そもそも勝とうとすることに無理があるといえなくもないわけです、はい。

◇◇

 この日、わざわざ子供服展示会の後片付けの手伝いに来てくれたマクローコがですね
「店長ちゃん、あのがま口ドロ子ちゃんの名前がね、決まったっぽい!」
 と、僕に言って来ました。
 通信魔石を使用して入ってくる予約の連絡を一手に引き受けてくれている木人形にですね、先日から名前を募集していたマクローコのお店だったわけですけど、その締め切りが来たようですね。

 ……そう言いながらも、なんか最近のマクローコ達は、このがま口木人形のことを『がま口ドロ子ちゃん』と呼び続けていましたので、なんかもうその名前でいいんじゃないかと思ったりしていたんですけどね。

「で、どんな名前になったんだい」
 僕がそう聞くと、マクローコは一枚の紙を取り出しました。
「じゃっじゃじゃ~ん! これに決まった!っぽい!」
 そう言いながら、その紙を広げるマクローコ。
 舌だししながら満面の笑顔のマクローコの手の中にある紙には、

『がま口ドロ子』

 と書かれていました……え?
 よく見ると、その紙の中にある『選考理由』の欄にはですね、
『店員さんがそう呼んでたから』
 と、書かれていました。
 ……やっぱり、募集した意味なかったじゃん……と、喉までその言葉がでかかった僕ですけど、どうにかその言葉を飲み込むことに成功しました。
 これによりまして、コンビニおもてなし美容室マクローコのお店の予約受付木人形の名前は『がま口ドロ子ちゃん』に決定した次第です、はい。

 ……マクローコはすっごく嬉しそうなんですけど、僕的には若干納得いかない感じが無きにしもあらずだったわけでして……ま、まぁ、マクローコ達が嬉しそうだから、まぁいいのかな、うん。

◇◇

 ドンタコスゥコ商会での子供服展示会が終了した翌日。
 コンビニおもてなし5号店で開店の準備をしていた僕のところにお客さんがやってきました。
「あ、あの……お久しぶりです」
 転移ドアをくぐってやってきたのは、魔女集落のテレコでした。
 
 テレコはあれです。
 子供向け絵本『魔法少女戦隊キュアキュア5』の作者です。
 先日ブラコンベで開催された花祭りでですね、その絵本に出てくるキャラの衣装や小道具を作成して販売して大盛況だったんですよね。

「やぁ、テレコ。僕に用事かい?」
「あ、はい……」
 キュアキュア5のキャラになりきっているときは、ぶっちゃけはっちゃけまくっているテレコなのですが、素ではとても恥ずかしがり屋なんですよね。
 で、僕はそんなテレコを応接室へと連れていきまして、そこで話を聞くことにしました。
 僕が差し出したお茶を一口飲むと、テレコは意を決したように一度大きく頷き、僕の顔を真正面から見つめながら言いました。
「て、店長さん……き、キュアキュア5のグッズを、こ、コンビニおもてなしさんで販売していただけひゃいひぇひょうか!」
 よほど緊張したのでしょう。最後盛大に噛みまくっていたテレコはですね、失敗した恥ずかしさで顔を真っ赤にしていたのですが、そんなテレコに僕は言いました。
「それはぜひお願いしたいですね」

 と、いうのもですね、花祭りでは魔法使い集落のテントでのみ販売していたこの魔法少女戦隊キュアキュア5のグッズなのですが、花祭り以後も話題になりまくっていたんです。
 ちょうど隣がコンビニおもてなしのブースだったもんですから
「あの商品、もう入らないのかしら?」
 って、しょっちゅう聞かれていたんです。
 今回の子供服販売の際にも
「花祭りで販売なさってたキュアキュア5風の服はないのかしら?」
「ついでに変身アイテムも欲しいですわ」
 そんな声を結構かけられたんですよね。
 そんなわけで、コンビニおもてなしとしては願ったり叶ったりなお話なわけです、はい。

 ただ、問題は販売する場所ですね。
 
 何しろ、今のコンビニおもてなしは、どの店もスペースがいっぱいです。
 そのため、ドンタコスゥコ商会での試験販売が終了した今となっては、どこでどうやって販売したもんかと頭を悩ませていたんです。

 ですが

 それもつかの間でした。
 僕はすぐにあることを思い出しました。

 テレコはコンビニおもてなし3号店のある魔法使い集落からやってきました。
 コンビニおもてなし3号店にある転移ドアを使って、です。
 で、このコンビニおもてなし3号店というのがミソだったわけです。

 コンビニおもてなし3号店を営業している建物は、僕が以前王都から『世界侵略するわよ』と言いながら暴れていた暗黒大魔導士ダマリナッセ・ザ・フラブランカを捕縛した際に、そのご褒美として頂いた建物です。
 で、この建物ってば、金持ちの元別荘だったんです。

 お金持ちが所有していた建物だけあって、でかくて広くて部屋数も多いんです。
 今は、大広間だった部屋を魔女魔法出版の本を展示販売する巨大スペースにしつつ、その隣にあった大きめの部屋をコンビニとして使用しているのですが、まだまだ空き部屋はあるんです。
 で、その空き部屋の1つを子供服ならびにキュアキュア5の子供向けコスチュームと変身アイテム販売を行ったらどうか、と思ったわけです。
 で、その部屋へは、各支店に通じている転移ドアをスアに作ってもらえば、すべての店からお客様を呼び込めるんじゃないかなと思ったわけです。

 テレコは、嬉しそうに顔を輝かせながら、そんな僕の話を聞いていました。

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