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18話

やってきたのは、何度か来ている農業センター。そして今、花関連のコーナーを探していたところだ。

「ん-、ないねぇ」
「おはな、ないの?」

けれど、店内の案内図を見たところ、それは見当たらなかった。
農業センターだけあって、道具はそれなりにそろっている。
プランターや植木鉢(この辺りは農園というより家庭菜園向きだ)やジョウロ、小さなスコップに培養土もある。
けれど、今回メインである花の種や苗を置いてあるところは、見当たらなかった。

「これはあれかな。野菜の種を買おうとした時と似てる」

最初、種や苗、農園関係の道具は中央のショッピングモールで買う予定だった。
しかしそこには関連するもの一切売っていなかったのを思い出した。
中央では農業をする人がおらず、売る需要がないのだろう。
逆に、ここ南の国はほとんど全土で農業を営んでおり、どの街にも農業センターは点在している。
そこから、花はないのかも、と思ったが、しかし花はどこでも育てているはずだ。売っていないということは考えにくい。
ここで悩んでいてもしょうがないので、店員を捕まえて聞いてみることにした。


「うーん、残念。ここ近辺ではないなんて」

結果、南の国中で売っていないことはないけれど、場所にもよるらしい。
この街や、周辺の街では扱っていないという情報も貰ってしまった。

「ここはまた、ハロルドだよりかな。今日来てるかな」

ニコもやる気に満ちているので、その勢いのまま始めたいという気持ちが大きい。
今はまだ昼前だから、今から別の場所に行ったとしても遅くなることはないだろう。

「あ、ココロさん、いらっしゃい」

リックのカフェへやってきた。
表は準備中となっていたので、裏で馬車から降り、そのまま中にお邪魔する。
カフェの方をちらっと確認すると、まだ数人お客さんが残っていた。最後の一組で、一つのテーブルにまとまっている。

「今、午前の営業を終えるところで、新たな入店はお断りしているんです」
「あ、なるほど」

なので今は、残ったお客さんの帰り待ちというところか。
けれどリックは早く帰るようにと急かすことなく、ゆっくりお茶をしているのも尻目に、洗い物をしていた。
その手を止めて、こちらへ向き直る。

「今日はお買い物ですか?」
「そうなの。花の種や苗が欲しくて」

ちなみに道具類は農業センターで買ってきた。
プランターと鉢植え、ジョウロ、スコップ。手を保護するための手袋、もちろん土も忘れていない。
せっかくなので家の中でも見れるように、小さな植木鉢と、水やり用の霧吹きも用意した。

「なるほど。でも確か、この辺りでは売ってないですよね」
「そうみたい。だからどこの街なら売ってるかなって思って」
「あーそれなら「すみませーん」あ、はーい!ごめんなさい、ちょっと行ってきます」

リックの言葉に、お客さんの声が被る。
どうやらお会計のようだ。
すぐにチリンと音が鳴り、お客さんが店を出たのがわかる。
それから少しして、リックが食器を下げてきた。

「ごめんなさい、すぐ片付けますので」

そう言って、残っていた食器も含めてささっと洗い終える。
手伝いを申し出ようと思ったら少し遅かった。

「お待たせしました。えっと、花ですよね。それなら、別の街に行くよりも西に行ったほうが早いですよ」
「西…?」

西と言われて、すぐに花と結びつかなかったけれど、確かに花の栽培は西が多く携わっている。
それならば、多くの街で関連する店があるんじゃないかと結論に達した。

「確か、西の家のある街にもあったと思うので…ちょっと待っててください」

そう言って、リックはタブレットを取り出す。
どこかに連絡を入れているようだ。

「あ、義姉さん?」
「…ん?」

聞き間違いだろうか、今「ねえさん」と聞こえた気がする。
彼らに姉(ハロルドからしたら妹になるかも)がいたという話は、まだ聞かない。ハロルドの上に
お兄さんが二人、リックの下に弟が一人、というのは聞いたが…。

「…はい、じゃあお願いします」

少しして通話を終えたリック。何かをお願いしていたようだった。

「許可取れたので、西の家、通って大丈夫ですよ」
「あ、ありがとう…えっと…」
「あ、西の家は長男のエドワルド兄さんが住んでます。ただ、前にもお話したように生活能力が皆無なので、管理は義姉が主にしてくれてます」
「あ、「ねえさん」てそういう…」

つまりお兄さんのお嫁さんということか。
以前聞いたときは家政婦さんを雇っていると言っていた。最初は単なる雇用関係だったらしいが、その内に…ということらしい。
北のお兄さんのところ(弟さんは東にいるのが分かった)は、雇用関係そのままのようだ。

「義姉さんだったら街にも詳しいので、場所は聞いてください」
「うん、色々ありがとう」

西につながる扉の場所を教えてもらって、そこを通る。
扉を通った先は、あまり変わり映えしない。扉を閉めれば、物音に気が付いたのかだれかがやってきた。

「いりゃっしゃい。リック君から話はきいているわ」

シンプルなエプロンを付けた、ちょっと小柄な女の人だ。
この人が元家政婦で、この家の住人で間違いないだろう。

「突然すみません。お邪魔します」
「いいえ、気にしないで大丈夫よ。ソフィアーナよ。ソフィアが呼びやすいわ」
「私はココロです。こっちは娘のニコ。ほら、ニコ」

人見知りのニコは、ソフィアさんがやってきた瞬間にココロの陰に隠れてしまった。
しかしニコニコと優しい笑みを浮かべるソフィアさんに安心して、小さく顔だけ出した。

「二…ニコです」

小さな声でそれだけ言うと、またささっと顔を隠してしまう。

「…すみません」
「いいえ。フフッ、可愛らしい子ですね」

挨拶を済ませてから、店の場所について尋ねる。
少し離れているが、歩いて行ける距離だった。

「ありがとうございます。では行ってきます。帰りにはまた声かけますね」
「ええ、気を付けてね」
「はい」

外へ案内される。ここはリックの、カフェ兼自宅とは違い、シンプルに家のようだった。
外へ出れば、花の自然な香りが香ってくる。各家の外にはどこも花が飾ってあり、途中の公園には大きな花壇も見えた。
ここなら問題いなくいろいろな花が買えるだろう。
輝かんばかりの顔で辺りを見回しているニコの手を引きながら、教えてもらった店へと向かった。

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