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第13話(3) 二人の隊長と干支妖の死闘

「ふん!」

 一瞬の静寂の後、御剣から仕掛けた。鋭い攻撃を連続で繰り出すが、子日は事もなげに自身の刀でそれらをことごとく捌いてみせる。

「ふふっ、妖絶講の中でも名うての剣士だと聞いていたが……そんなもんチュウか? やはり期待外れだったチュウかね……」

「くっ……」

 笑う子日に対し、苦い表情を浮かべる御剣。御剣の連続攻撃が止まった僅かな隙を突いて、子日が反撃に出る。

「それそれ!」

「ちっ⁉」

 子日の目にも止まらぬ速さの反撃を紙一重のところで躱す御剣―――と思われたが、御剣は左肘に傷を負う。血が流れる。

「腕一本狙ったのだけど、よく躱したチュウね……ただ、次は無いよ」

「次は無い?」

「君の実力は大体分かったチュウ。ダラダラと戦うのは剣士としての美しさにかける。君もそう思うだろう?」

「貴様の美学など知らん。興味も無い」

 御剣のにべもない反応に子日は残念そうな顔を浮かべる。

「まあいい、人間如きに僕の崇高な考えを理解してもらおうとは最初から思っていないチュウ。というわけで……さっさと死んでくれ!」

 子日がさらに速度を上げて、御剣に斬り掛かる。

「血凍(けっとう)!」

「⁉ なっ……血を凍らせた⁉」

 御剣は左腕に流れる血をわざと下に滴らせるその瞬間に凍らせて、血のつづらを何本も生やす。その内の何本かのつづらで子日の攻撃を防ぐと同時に、残ったつづらで子日の右腕を突き刺す。

「ぐっ!」

 子日が再び御剣から距離を取る。

「こういうことも出来るぞ」

「う⁉」

 御剣はつづらを何本かボキッと折ると、すぐさま子日に投げ付ける。何本かは叩き落としたが、残った二本が子日の右肩と、左肘のあたりに命中する。

「悪くない命中率だ。隊では一番ダーツが下手なのだが」

「き、君は剣士だろう! なんだっチュウね! その戦い方は⁉」

 声を荒げる子日に御剣は何故そんなことを聞くのかという顔で答える。

「刀は好きだ。物ごころついた頃から刀を抱いて眠っている。剣士としての修練はこの十数年、一度たりとも欠かしたことはない」

「ならば何故⁉」

「……貴様は思い違いをしている」

「何……?」

「私は剣士である前に妖絶講という組織に属する妖絶士だ。悪しき妖を根絶するためには、手段など選んでいられない。私にも美学というものが全くないとは言わんが、任務遂行の上で。それは邪魔でしかない。要は……」

「要は……?」

「勝てば良いのだ……!」

「⁉」

 驚愕する子日に対して、御剣は刀を振りかざす。

「上杉山流奥義、『凍土』!」

 御剣が勢い良く刀を振り下ろす。



「ウン!」

 丑泉が振り下ろした棍棒を御盾が寸前で躱す。棍棒が地面を打ち砕く様子を見て、御盾は背中に冷や汗を流す。

(一撃一撃が速い上に重い! あんなものを下手に受け止めたら、此方の身が保たん!)

「ムン!」

「くっ!」

 丑泉が棍棒を振り回す。御盾はなんとか躱し続けるものの次第に追い詰められていく。

(このままではジリ貧じゃ! 此方から仕掛けんと……!)

「ムウン!」

「考える余裕も与えてくれんか! だが!」

 丑泉が棍棒を再び振り下ろしたが御盾が横に飛んで躱そうとする。

(棍棒の軌道自体は単純じゃ、落ち着けば対応出来る!)

「フン!」

「ぐっ⁉」

 丑泉が左手を伸ばし、御盾の体をガッシリと掴む。

「しまっ……!」

「フウウン!」

 丑泉が御盾の体を持ち上げて、思い切り地面に叩き付ける。

「ぐはっ!」

「ムウウン!」

地面に倒れ込んだ御盾が起き上がろうとしたところを丑泉が棍棒で叩き付けてくる。

「ぐっ、『風林火山・山の構え・巨山』!」

「!」

「がはっ!」

 丑泉の攻撃を御盾は軍配で防ごうとするが、あまりの衝撃に堪えきれずに横に吹っ飛ばされてしまい、地面を派手に転がる。



「ちっ!」

 御剣の繰り出した攻撃によって子日の左腕が凍る。

「よく躱したな……もう一度だ!」

「鼠斬!」

「なっ⁉」

 子日は自らの左腕を斬り落とす。予期せぬ行動に御剣が戸惑う。

「ふ……ふん!」

 子日の左腕が瞬く間に再生する。

「再生させた⁉」

「君に勝ち目は無いチュウ……」

「確信するのはまだ早い!」

 御剣が一瞬で子日の間合いに入る。刀を振れば、子日の首を落とせる。

「おのれ!」

「もらっ……⁉」

 御剣の動きが止まる。背中から体を刃で貫かれたからである。御剣は視線を後ろに向けて驚く。もう一体の子日がそこにはいたからである。子日が笑みを浮かべる。

「僕は鼠斬で体の一部を切り取ることで、自分の分身を増やすことが出来るんだチュウ」

「ぐっ……」

「さて……心の臓を貫いてお終いだチュウ!」

「『凍心!』」

「何っ⁉」

 子日が刃を御剣の心臓に向かって突き立てるが、御剣によって刃ごと凍らされてしまい、その場から動けなくなってしまう。子日の分身もまた同様である。

「捉えたぞ……」

「ば、馬鹿な……自らの体ごと凍らせただと⁉ 自分の動きを封じてどうする⁉」

「口と右腕さえ動けば十分だ!」

「なっ……」

「上杉山流秘奥義、『凍剣』‼」

「ぐぎゃあ⁉」

 御剣の振るった刀から放たれた氷の斬撃が、二体の子日の首を飛ばし、氷漬けにする。



「ぐうっ……」

 なんとか起き上がろうとする御盾の目に、追い討ちを掛けにくる丑泉の姿が映る。

(ドーピングのようなものじゃから、色々な意味でやりたくなかったが……)

 御盾は軍配を自らの頭上で振りかざす。

「『鼓武激励』‼」

「ン⁉」

 丑泉の棍棒を素早く立ち上がった御盾の軍配が受け止める。

「それ!」

「グヌヌッ⁉」

 御盾の軍配が自らの棍棒を押し返していることに丑泉は驚く。

「……まさか力比べに負けるとは思わなかったか?」

 御盾はニヤリと笑うと、棍棒を弾き飛ばす。

「ヌオッ⁉」

「丸焼けにしてくれる! 喰らえ! 『風林火山・火の構え・火炎』‼」

「ウオオッ⁉」

 丑泉の大きな体を炎が包みこむ。

「隊長!」

「武枝隊長!」

 勇次と愛が駆け付ける。そこに半分火だるま状態になった丑泉が転がり込む。

「⁉ てめえは丑女!」

「干支妖! ここで仕留め……」

「……ドケッ!」

「きゃあっ!」

 丑泉が愛を突き飛ばし、その場から姿を消す。

「愛! 大丈夫か!」

「へ、平気よ……それよりも……」

「! 隊長! 武枝隊長も!」

 勇次と愛はその場に崩れ落ちている御剣と御盾の元に駆け寄る。

「うぐっ……」

「こ、こんな凍った状態に⁉ ど、どうすれば良いんだ⁉」

 勇次が御剣を抱き起す。御剣がゆっくりと口を開く。

「……人肌の温もりで溶かせる」

「! わ、分かりました。文字通り、ひと肌脱がせて貰います!」

 躊躇なく隊服を脱ぎ始める勇次を見て、御剣は慌てる。

「じょ、冗談だ! 大たわけもの‼」

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