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その女、打つ手なし? その2

 数日後。

 罰金を支払えない状態が続いていたポルテントチーネの猶予期限が切れました。
「このまま、王都に送られてですね王都収容所に入れられることになるですです。そこに入れられたまま取り調べが続くことになるですです」
 閉店したばかりのコンビニおもてなし5号店を訪ねて来ていたナカンコンベ商店街組合のエレエはそう僕に告げました。
 話の内容からすれば喜んでいそうなもんですが、僕の前にいるエレエはどこか困った表情を浮かべています。
「エレエ、どうかしたのかい?」
「はい……実はですですね、ポルテントチーネをどうやって王都まで連れて行くかで悩んでいるんですです」
 エレエのその言葉を聞いた僕は、あぁ、と、思わず頷きました。

 何しろしぶといわけです、ポルテントチーネは。
 ことここにいたっても、外部からこっそり資金を調達して罪を最短で償ったことにして、再び暗躍しようとしていたくらいですからね。
 このナカンコンベから王都までは、馬車で片道およそ20日から1ヶ月はかかるんだとか。
 あのポルテントチーネのことですから、この移動期間中に何かしでかすように部下達や、彼女のバックについていると思われる闇の嬌声に対して何か指示を出していると考えた方がいいでしょう。

 で、エレエはですね
「あの……もしよかったらですですね、コンビニおもてなしさんが運行されております定期魔道船を利用させていただけないかと思った次第でしでして……」
 そう僕に切り出してきました。
 僕的にも、ポルテントチーネを確実に王都へ送り届けるためでしたら、定期魔道船を使うこともやぶさかではないのですが
「エレエ、それよりもいい方法があるよ」
 そう、エレエへ言いました。

◇◇

 1時間後……
 僕は、エレエと一緒にナカンコンベ商店街組合の地下にある牢獄へ移動していました。
 その中に、ポルテントチーネがいました。
 しばらく前までのポルテントチーネは、罰金を即座に払っていたため自宅待機が認められていました。 
 ……その間に、あれこれ暗躍していたのでしょうね……ルア工房の地下道とか使って……
 ですが、その地下道を潰され、資金流入ルートがなくなったために罰金が支払えなくなったポルテントチーネは再びここへ収監されていたのでした。
「あら? 珍しい人が一緒ねぇ」
 牢獄の奥に設置されている粗末なベッドに座っていたポルテントチーネはその顔に妖艶な笑みを浮かべていました。
「コンビニおもてなしの店長さんが来た……ってことは、あれかい? アタシをあの魔導船を使って王都にまで輸送しようってのかい?……空の旅とは洒落てるじゃないか」
 ポルテントチーネはそう言いながらクスクスと笑い始めました。
 そんなポルテントチーネを見据えながら、エレエは
「とにかく出てくるですです」
 そう、ポルテントチーネへ言いました。
「はいはい、そう焦らなくてもいいよ。もう打つ手もないからおとなしく従うよ」
 ポルテントチーネはそう言うと、両手をひらひらさせながら牢獄の出口の方へと歩いてきました。
 エレエは、衛兵達に指示して、その扉を開けました。
 で、出て来たポルテントチーネの両腕と両足に大きな枷をつけました。
 鉄製ですので、かなり重たそうです。
「移送が終わるまでこれをつけておいてもらうですです」
「はいはい、好きにしなよ」
 エレエの言葉に、ポルテントチーネはクスクス笑いながら答えていきました。
「で? これからどこに移動するんだい? コンビニおもてなし5号店の魔導船乗降タワーかい? それともどこか別の場所で魔導船に乗り込むのかい? アタシはどっちでもかまわないよ」
 相変わらず余裕の笑みでクスクス笑っているポルテントチーネですが、そんなポルテントチーネに僕はいいました。
「魔導船は使わないよ」
「は?」
「大丈夫、移動に時間はかからないから」
「い、いえ……ちょ、どういうことかしら? 魔導船を使わないって……」
 僕の言葉に、ポルテントチーネは明らかに動揺しています。
 で、そんなポルテントチーネの眼前、僕の横に、スアが転移魔法で姿を現しました。
「じゃあスア、よろしく頼むね」
 僕の言葉に大きく頷くと、スアはその場で魔法寿樹の杖を一振りしました。
 すると、スアの真正面に新たな転移ドアが生成されました。
「……出来た、よ」
 スアがそう言いながらその転移ドアを開けると、その向こうには王都が広がっていました。
 しかも、その場は王都収監所の真ん前です。
 さらに、そこには事前に連絡を受けていた収監所の衛兵達が大挙してその場に集合していました。

 スアのこの転移ドアは、術を使用する者が一度でも行ったことがある場所へならどこへでもつなげることが出来るんです。
 以前にも、何度かスアに王都へ転移ドアをつなげてもらったことがあったもんですから、僕はそれを覚えていたので魔導船を使用するよりも、スアの転移ドアでポルテントチーネを一気に王都へ届けてしまおうと考えたわけです。

 で、その光景を見たポルテントチーネは真っ青になっていました。

「ちょ!? ふ、ふざけんじゃないわよ!? こんなドアで一瞬にして移動させられたら、計画していた襲撃作戦が全部パーになるじゃないのさ!」
 悲鳴にも似た声をあげるポルテントチーネ。
 その言葉を聞きながら、僕達は呆れかえった表情を浮かべていました。
(やっぱり、また悪巧みを考えてたんだ……)
 僕達は、全員同じ事を考えながら苦笑を浮かべていました。

 で、ですね……
 必死になって牢の鉄棒を掴みながら抵抗し続けていたポルテントチーネだったのですが、時間にしておよそ30分後。
 ついに力尽き、ガタコンベの衛兵達によって担ぎ上げられたポルテントチーネは、そのまま転移ドアをくぐり、王都の収監所前へと連行されていきました。
 そこで、ポルテントチーネを収監所の衛兵達へと手渡すガタコンベの衛兵達。
「いやー! こんなの認めないわー! 離せー! 離してー!」
 ポルテントチーネは必死に叫びながらジタバタし続けていました。
 ですが、女1人に衛兵が20人です。
 ポルテントチーネが1人でいくらあがいても太刀打ち出来るはずがありません。

 そして、ポルテントチーネは、
「ちくしょ~!! 覚えてなさぁい!!」
 そんな捨て台詞を残しながら収監所の中へとその姿を消していきました。

 ナカンコンベ商店街組合に依頼されてポルテントチーネを連行していった衛兵達は、王都の収監所の中にポルテントチーネが釣れて行かれる様子を確認すると転移ドアをくぐってナカンコンベへと戻ってきました。
 スアは、全員がこちらへ戻ってきたことを確認するとその転移ドアを消滅させていきました。

 こうして、スアの魔法のおかげでポルテントチーネの身柄は1時間もかからずに収監所へ輸送されていったのでした。

◇◇

 ちなみに……

 あとでわかったのですが、ナカンコンベから王都へ向かう途中の山の中にかなりの数の山賊達が住み着いていたんだそうです。
 その山賊達は、鳥人達が中心になって構成されていたようでして、まるで空を飛んで来る何かを襲撃するために組織されていたかのようだったそうすよ。
 そんなこの集団なんですが、バトコンベとリバティコンベっていう辺境都市の衛兵達によって残らず捕縛されたとエレエから教えてもらったのですが……なんと言いますか、ポルテントチーネってば、ホントにしぶといと言いますか、しつこいといいますか……

 そのことを僕に伝えに来てくれたエレエは晴れやかな笑顔を浮かべていました。
「これでようやくいつもの仕事に戻れるですです」
「ホントにお疲れ様」
「いえいえ、店長さんにもあれこれ助けていただきまして、本当にありがとうございましたですです」
 エレエは、何度も僕に頭を下げてからナカンコンベ商店街組合へと帰っていきました。

 さて、僕もエレエに負けないように、コンビニおもてなし5号店の営業に再度全力を傾けないといけないな……

 僕は、一度大きく伸びをしてから、コンビニおもてなし5号店の中へと戻って行きました。
 そんな建物の屋上部分には、デラマウントボアの首が5つ並んでいるわけで……なんかホントこれすごい存在感です、はい。

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