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魅惑のダブル横ピース その4

 結局昨夜もデラマウントボア祭を行ったコンビニおもてなし5号店です。

 夜半過ぎからは例によって風俗街のお姉さん達も加わって大賑わいになっていきました。
「いやぁ、久々だよ、こんなに楽しいのってさ」
 狐楼閣(ころうかく)のエラネラさんが楽しそうに笑っていました。
「昔はさ、この街も風俗街の住人だからとかいって差別すれることもなかったんだけどさ……ま、中には奴隷まがいの扱いをしている店もあるから、アタシもあんまり言えないんだけどね」
 エラネラさんの言葉を聞いて、僕はランチーパの事を思い出しました。
 あの店は、新しく入った女の子を牢屋付きの馬車に乗せて街中を宣伝して回っていましたからね。
 エラネラさんは、そんな店の事を言っているのでしょう。
 そのことに深く聞くのもよくないかな、と思った僕は
「うちの店がやってる宴会ならいつでも大歓迎ですから」
 そう言葉を返しました。
 するとエラネラさんは、
「アンタ、ホントいい男だねぇ……そこで怖い顔をしている奥さんがいなければ、アタシが直々にサービスしてあげるところだよ」
 そう言って笑いました。
 エラネラさんが指さした先を見ると、僕の横で『うー』とうなり声を上げているスアの姿がありました。
 いつもスアは気配を一切感じさせることなく転移してくるんですけど、それに事前に気づいたエラネラさんってばすごいな、と思ったわけです。

◇◇

 翌朝、エラネラさんを中心とした風俗街のお姉さん達が今日も後片付けを手伝ってくれました。
 そのおかげで、昨日以上に人が集まって盛り上がった店の前は、宴会開始前よりも綺麗になっています。
 ちなみに、店の屋上に飾ってあったデラマウントボアの頭が3つになったのは言うまでもありません。
 宴会に参加していた商店街組合のエレエも
「こんなに短期間にデラマウントボアを3頭も仕留めたなんて記憶にないですです」
 そう言って目を丸くしていたなぁ。

 さすがに、2日続けてほぼ徹夜になってしまったため、僕はおもてなし診療所のテリブルアの元を訪れました。
 そこで僕は眠気疲労解消薬を処方してもらいました。
「店長、わかっていると思うけど、この薬で無理がきくのは5日までだからね」
 何度もそう念押しされてから、僕はその薬を飲み干しました。
 スアから直接もらってもよかったのですが、コンビニおもてなしの店員のみんなにもこの流れを守ってもらっている手前、その流れを僕も守ったわけです、はい。
 
 さすがスア製の飲み薬です。
 1本であっという間に体と頭がシャキッとしました。
 これで今日も頑張れそうです。

 コンビニおもてなし5号店は、昨日の今日でさらにお客さんが大幅に増加しました。
 デラマウントボアの弁当が販売されて、それがすごく美味しかったとの噂に加えて、さらに2頭ものデラマウントボアが仕留められたという話がナカンコンベの街中に広まった結果です。
 中には、屋上に飾ってあるデラマウントボアの頭に向かって
「あの害獣を駆除してくださるとは……ありがたやありがたや」
 そんな事を口にしながら手を合わせるお年寄りの姿まであったりしました。
 その流れでしょうか、
「店長さん、デラマウントボアの皮を少しもらえないかな? 狩りのお守りにしたいんだ。もちろんお金は払うからさ」
 そんな相談を持ちかけてこられるエルフの狩人の方がおられました。
 そこで僕は、ルア工房のみんながデラマウントボアの皮を解体した際にでた皮の切れ端を利用して簡単なキーホルダを作成しました。
 爺ちゃんが経営していた時代の在庫の中に、キーホルダー作成キットなんてものが大量にあったのを思い出しまして、それを使ったんです。
 四角いアクリルの中に、小さな写真の切り抜きなんかを挟めるようになっているのですが、そこにデラマウントボアの皮を挟みました。
 スアに皮の切り刻み作業と、魔法コーティング作業をお願いしました。
 狩りに持って行かれた際に木にぶつかって簡単に壊れては困りますので、キーホルダーを魔法でコーティングしてもらい強化したわけです。
 で、これを1個500円/僕が元いた世界換算で販売したところ、飛ぶように売れていきました。
 気がつくと、ドンタコスゥコまでもがやってきて、
「て、店長殿! そ、それを大量に購入したいですねぇ!」
 って言ってきていたほどなんですよ。

◇◇

 そんな思わぬ新製品が出来たりしている中、マクローコの美容室の改築作業が早くも完了しました。
 パラランサによると
「大幅な改築の必要がありませんでしたからね。これなら一晩で十分ですよ」
 そう言って笑っていました。

 で、出来上がった店の外、2階部分には
『コンビニおもてなし美容室・マクローコのお店』
 と2段書きされていました。
 それとは別に、小さめの看板がもう一つ掲げられていましてそこには
『コンビニおもてなし製・クキミ化粧品取扱店』
 と書かれていました。
 もちろん、どちらも事前に僕が了承しています。

 お店の改装費ですが、いくらマクローコ達がみんなでバイトしていたとはいえそれで足りるはずがありません。
 で、まぁ、これは最初からわかっていたので、

・代金はコンビニおもてなしが立て替えて支払っておき、マクローコに無利子で貸し付ける
・マクローコは、毎月無理ない範囲で返済する

 こんな約束をマクローコとの間で取り交わしていたんですよね。
 書面化したこの約束書きにはクローコさんも保証人として名を連ねています。

「マクローコちゃん、今度は困ったらお姉ちゃんに相談する!みたいな!」
「クローコお姉ちゃん、マクローコわかった!っぽい!」
 2人はそんな会話を交わしながら抱き合って喜んでいました。

 店は、1階が美容室・2階がクキミ化粧品製造所になっています。
 スアが魔法で巨木の家にくっついていた実の部屋を屋根の上に転移させてくっつけてくれたので、以前作業していたスペースもそのまま利用することが出来るようになっています。
 今まではクローコさんがメインで作業を行っていたクキミ化粧品製造ですが、今後はマクローコがメインになって作業をしていくことになります。
 無論、バイト……じゃなかった、ゴージャスサポートメンバーのキョルンさんとミュカンさんも今までどおりお手伝いをしてくださることになっています。
 
 マクローコによりますと、美容室の営業は以前のとおり夕方5時から深夜までにするそうです。
 で、昼から夕方までの時間をクキミ化粧品の製造にあてる予定なんだとか。
「今までのお客さんを大事にしたい、みたいな」
 マクローコはそう言いながら舌出ししつつダブルの横ピースをしていました。
 今までのお客さんというと、エラネラさん達風俗街のお姉さん達がお客さんの中心ってことになるんでしょう。

 そこで僕はあることを思いつきました。

 マクローコの美容室の中に、スアにお願いして転移ドアを1つ設置してもらいました。
 この転移ドアをあけると、魔法使い集落にあるコンビニおもてなし3号店のコンビニ部分へつながるようにしてもらいました。
 魔法使い集落のど真ん中にあるコンビニおもてなし3号店は、木人形のエレが中心になって24時間営業を行っています。
 つまり、マクローコの店へ髪の毛を手入れしにやってきたお客さん達は、同時にコンビニおもてなし3号店で買い物も出来るという寸法です。

 先日、宴会に参加していた風俗街のお姉さん達が
『私達が活動してる時間って、こんな店しまってるのよねぇ』
 って言っておられたもんですから、こうすれば少しでもお役にたてるかな、と思ったわけです、はい。

 そんなこんなで、マクローコの美容室は早速今日から営業を再開しました。
「マクローコぉ、ふぁいおーふぁいおーみたいなぁ!」
 そう言って右手を挙げるマクローコ。
 それに続いて、マクローコとずっと一緒だったゴブリン2匹とゴーレムも右手をあげていました。

 僕も、ささやかながらコンビニおもてなしからってことで花輪を店の前に飾らせてもらいました。
 ルア工房にお願いして作ってもらったんですけど、ルアも同じ物を作成して、コンビニおもてなしの花輪の横に並べていました。

「店長ちゃん、マクローコ超感激ぃ!」
 そう言いながら、マクローコ達が僕に抱きついてきました。
 スアも、今回だけは多めに見てくれたようでマクローコ達が用水路へ放り込まれることはありませんでした。

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