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魅惑のダブル横ピース その2

「マジ!? マジなの店長ちゃん!?」
 4号店の店内で、マクローコは両手で胸を押さえながら、右足を跳ね上げています。
 ……どうみても『いや~ん、まいっち●ぐ』のポーズにしか見えないのですが……
「ぱない! 最高にぱないよ店長ちゃん!」
 その横で、姉のクローコさんも同じポーズをしています。
 そんなWまいっちんぐに囲まれた僕は、苦笑するしかなかったわけですが……

 ナカンコンベ商店街からマクローコがやっていた美容室の建物の権利が戻ったとの連絡を受けた僕は、転移ドアをくぐって早速ララコンベのコンビニおもてなし4号店へ知らせに来たのですが、その知らせを聞いた途端に、2人はそんなポーズで喜びを表現し始めたわけでして……

 ただ、1つ残念だったのがマクローコがポルテンチップ金融から借りていた借金の件です。
 この借金も、法定金利を無視した請求が行われていたことが、マクローコが所持していた借用書のおかげで証明されたおかげで無効扱いになったのですが、ポルテンチップ金融がどこに逃げたのかわからないため、現時点ではマクローコが返済として支払ってしまったお金が戻ってくる目処が立っていないんですよね。
「そんなことよりもさ、お店が戻ってきたのが最高っぽいしぃ!」
 マクローコがそう言いながら大喜びしてくれているのがせめてもの救いだったわけです、はい。

◇◇

 翌日。
 マクローコは、元店員だったゴブリン2匹とゴーレム1匹を連れてナカンコンベへとやってきました。
「じゃ、店長ちゃん、ちゃちゃっとマクローコ行ってきちゃうっぽい!」
 そう言うと、マクローコは笑顔で舌を出しながら、ダブルの横ピースをしました。
 その後方では、ばっちりメイクをしているゴブリン2匹とゴーレムまでもが同じくダブルの横ピースをしています。
 マクローコのはまだ可愛げがあるのですが……あ、いえ、なんでもありません……

 転移ドアをくぐってやってきた一同は、何度も僕に向かって手を振りながら街道を進んで行きました。
 マクローコの美容室の建物は食堂ピアーグをもう少しいったところにあるそうです。
 一同は、4号店のバイトとクキミ化粧品のお仕事をお休みして美容室の建物の様子を見に行っているのですが、これでお店が一日でも早く再開出来ればマクローコ達も嬉しいだろうなぁ、なんてことをこの時の僕は考えていました。
「さ、みんな5号店の開店準備も急ごうか」
 マクローコ達を見送った僕は、店内のみんなに笑顔で声をかけました。

 それから30分ほど経過した頃でしょうか……

「て、店長ちゃん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
 マクローコ達が大声を上げながらコンビニおもてなし5号店に駆け込んできました。
 見れば、マクローコ達は全員大泣きしています。
 涙が滝のように流れ落ちているのですが、さすがクキミ化粧品ですね、まったく化粧崩れしていません……じゃ、なくて!
「ど、どうしたんだみんな!?」
「そ、それがぁ、それがぁ……マクローコバリ悲しいぃみたいなぁ」
 マクローコはそう言うとさらに号泣していきました。

 電動バイクコンビニおもてなし君1号はライヘが乗ってピアーグへ行っていたため、コンビニおもてなし君2号を起動させた僕は、後ろにマクローコを乗せてマクローコ美容室へ向かいました。
 ちなみに、電動バイクコンビニおもてなし君は3号まであります。
 マクローコの指示に従って街道を入っていくと、その先には人だかりが出来ていました。
「って……おいおい」
 僕はその人混みの先に見えている物を見つめながら思わず固まってしまいました。

 そこに、マクローコ美容室があったのでしょう。
 土台らしき物は残っています。
 ですが、そこから上は見事に破壊されて粉々になっていたのです。
 すでにナカンコンベの衛兵達がやってきて現場検証を行っていました。
 その中の1人がマクローコの側へやってきました。
「あ、マクローコさん、お久しぶりです」
 マクローコとは顔見知りらしいその衛兵は、僕の後方で号泣し続けているマクローコを見つめながら眉をしかめています。

 で、その衛兵は、現場検証の状況を教えてくれたのですが、
「どうもですね、魔法爆弾で爆破されたようなんですよ。この建物だけ壊れるようにセットされてたようで周囲の店には一切被害が及んでいないのですが、この建物だけは木っ端微塵で……」
 店の中には美容室で使用していた道具が全部残っていたはずです。
 この状態では、それも木っ端微塵になっているでしょう……
「うぅ……クローコお姉ちゃんが開店祝いに買ってくれたはさみとかあったのにぃ」
 マクローコはそう言うと、再び子供のように泣きじゃくり始めました。

 僕は、そんなマクローコと建物の残骸を交互に見つめていました。

 ……こんな嫌がらせみたいな行為を行う奴なんて1人しかいません。
 ポルテントチーネの仕業に決まっています。
 建物の権利を没収された腹いせにやったのでしょう。
 ですが、あのポルテントチーネのことですから証拠などが残らないように小細工だけはしっかりしていると思われます。おそらく誰か人を雇ったりして……

 その件についてはスアに後で相談してみるとして……この泣きじゃくっているマクローコをどうしたものか……

 その時です。
 そんな僕の元に1人の女性が近づいてきました。
「店長さん、昨日ぶりね」
「あ、フラブランカさん」
 そう、それはフラブランカさんでした。
 フラブランカさんは僕たちの側に近寄ると、
「昨日はデラマウントボアとスアビールごちそう様、子供達もとっても喜んでくれたわ。これ、そのお礼」
 そう言うと、僕に魔法袋を手渡してくれました。
「その中にね、この建物の中身全部入ってるわよ。爆破寸前にどうにか全部持ち出せたわ」
「え?」
「あと、こいつらは衛兵に」
 フラブランカさんが右手を挙げると、その後方から巨大なゴーレムが出現しました。
 ゴーレムは2人の魔法使いを捕まえています。
 その魔法使い達は、口を猿ぐつわで締め上げられた上、荒縄で縛り上げられています。
「この建物に魔法爆弾を仕掛けた実行犯よ。とっとと連れて帰って尋問なさいな」
 そういったフラブランカさんが合図をすると、ゴーレムは魔法使いを衛兵達に向かって放り投げました。

 ……って、あれ?
 こいつら、どっかで見た事が……って、あ
「こいつら、上級魔法使いのお茶会倶楽部の!?」
「あら、店長ってば知ってたの? あの残党よ」
 そう言うと、フラブランカさんはクスクス笑い出しました。
「滑稽よねぇ、親玉達が行方不明になったとたんにこんな仕事に手を出すようになるんだもんねぇ……ホント、親玉達ってばどこにいったのかしらねぇ」
 そう言うと、フラブランカさんはとても悪い笑顔をその顔に浮かべていました。
 ……うん、これ以上何も聞いてはいけない、そんな笑顔ですね、これは。

 僕がフラブランカさんと話をしていると、建物の方から歓声があがりました。
 よく見ると、建物の残骸の前にスアが立っています。
 転移魔法でやってきたらしいスアは、水晶樹の杖をかざしているのですが、その杖の先の水晶がまばゆい光を放つと同時に、粉々に砕かれていた建物の残骸がどんどん再生しているのです。
「……あっきれた……あの魔法爆弾ってば、魔法再生阻害魔法がかかってたってのに、それを無効化してるなんて……」
 フラブランカさんは、スアの後ろ姿を見つめながら目を丸くしていました。
 その様子だと、今スアがやっている芸当はフラブランカさんでも出来ないようですね。

 僕の後ろでその光景を見つめているマクローコは、泣きはらして真っ赤になった目のまま笑顔を浮かべていました。
「マクローコ良かったね、これでお店が再開出来るよ」
 僕の言葉に、胸がいっぱいで言葉を出せないらしいマクローコはダブルの横ピースを返してきました。
 その笑顔はとても魅力的でした……スアの次にですけどね。

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