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真面目な提案

「まずは交渉のテーブルについて頂き、ありがとうございます」

 職員室に隣接する応接間のソファーに腰掛けた光太に対して爽が礼を言う。

「合わせて本日は少々強引な手段をとってしまったことをお詫び致します」

「……少々というか大分強引な手段でしたね、意味が分からない行動もありましたが……」

「それについてはやっている本人たちもよく分かってないと思います」

「それは意味不明の度合いが過ぎますよ……」

 光太が呆れ気味に呟く。

「それで……『成功すれば学園を大いに盛り上げることが出来る出し物』というのは?」

「葵様、お願いします」

爽が葵に目配せをする。葵はこくりと頷き、話を始める。

「三つほどご提案させて頂きます」

「三つですか……」

「はい、まず一つ目に提案するのは『め組による梯子登りの実演』です!」

「梯子登り?」

「ええ、御存じですか?」

「何となくですが……高い梯子を立てて、その上に登って演技を行うものですよね?」

 光太は眼鏡を抑えながら答える。

「そうです。また、火災状況や風向き、建物の状況などを確認したことが始まりで、さらには高所での作業を行うための度胸をつけるために行われた訓練でもあります」

「ふむ……」

「火消しの皆さんは昔からこの梯子登りを通して、その威勢の良さを示し、更に身軽さと熟練した技をもって、地域住民にその妙技を披露するとともに、消防の重要性というものを訴えてきました」

爽が補足説明をする。

「め組の皆さんにはめ組の見習いでもある、当会会員の赤宿進之助君からお願いをしてもらったところ、快く引き受けて下さいました。今、葵様がおっしゃられたように、学生たちには妙技を間近で見て楽しんでもらうと同時に、防災の重要性についても改めて理解を深めてもらう良いきっかけになるのではないでしょうか?」

「確かに、なかなか目にすることが無いでしょうからね……」

 光太は顎に手をやって呟いた。

「次の案は『大人気浮世絵師によるライブドローイング』です!」

「それは先日も伺いました。橙谷弾七君がお描きになるのですよね?」

「ええ、そうです!」

「先日もご指摘させて頂きましたが、その……描く題材があまり好ましくないかと」

「その点についてはご心配なく! 橙谷君、いや、橙谷先生がお得意とする風景画を描いて頂く予定です!」

「風景画……ですか?」

「ええ! テーマは『時代とともに移り行く大江戸城』です! 大きなキャンバスを用意し、一枚絵の中に、過去、現在、そして未来の大江戸城とその周辺風景を豪快かつ繊細に描いてもらおうと思っています!」

 爽が再び補足する。

「人間性にこそ若干の問題がありますが、橙谷君の実力に関しては疑いの余地はありません。当代きっての画匠の巧みな筆致に触れることによって、生徒たちの芸術的感性も大いに刺激され、より豊かなものになるのではと考えております」

「話題性についても間違いないでしょうしね……」

 光太は腕を組みながら頷いた。

「最後の案ですが、『人気自由恥部亜がお送りする春の生配信祭り!』です!」

「人気自由恥部亜とは……北町奉行の黄葉原北斗殿のことですね?」

「そうです!」

「これも先日ご指摘させて頂きましたが、いくら動画配信が昨今の流行とはいえ、あまりふざけ過ぎた内容は如何なものかと……」

「その点についてもご心配はいりません! 内容としては比較的真面目なトークショーを考えています!」

「トークショー?」

「ゲストには南町奉行の黄葉原南武さんをお呼びして、大江戸の町に関して、NG一切なしのガチンコトークバトルを行っていただきます!」

 爽が三度補足する。

「あの北町奉行も生放送となれば、それなりに場を弁えたトークをして下さります。ご心配されているような事態は起こりえません」

「そうですか……」

「まだ決定ではありませんが……時間の都合さえ付けば、万城目生徒会長にもゲストで出演頂く予定です。学園について会長のお考えを聞けるのは、生徒にとっても有意義なことではないかと」

「成程……」

「更に覆面での出演ではありますが、現役忍者の方にもご出演頂こうかと……」

「忍者⁉」

 光太の目が一瞬パァっと輝く。

「え、ええ……」

 爽がややたじろぐ。それを見て、光太は咳払いをする。

「し、失礼しました……」

「い、いいえ……葵様」

 爽が葵に再び目配せする。葵は頷く。

「以上の三案が、我々将愉会が提案する『成功すれば学園を大いに盛り上げることが出来る出し物』です! 如何でしょうか?」

 葵と爽が光太の様子を伺う。光太はしばらく考えて、こう答える。

「先日のに比べると、はるかによいご提案だと思います。」

「では……予算の件なのですが……」

「前向きに検討させて頂きます……」

 光太の返事に葵と爽は目を合わせて頷いた。

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