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第2話 町への道中、ステータスチェック



肌に感じる穏やかな風の感覚。
頭には温かな光のぬくもり。



ゆっくりと目を開けると木の葉から漏れる日の光が眩しく輝いていた。寝起きのようなうつろな意識が徐々に温かな光のおかげで覚醒していく。



あたりを見渡すと地平線がきれいに見えるほどの広大な平原が広がっている。そして少し先には明らかに人為的な要因でできたであろう、そこだけ草が生えていない道のようなものが目の前を横断している。俺はそこから10mほどはなれたところにある、広大な平原にドンッとそびえ立つ巨木にもたれかかって寝ていたようだ。



寝ていた...ということはあれは夢、だったのだろうか。



そう、俺は女神イリス様に異世界へと転生してもらったはず。あれがもし夢だったのならひどい話だ。...そういえば昔、女の子に告白したら成功して人生初めての彼女が出来るっていう夢を見たことがあったな。もし本当に異世界転生のことが夢だったらそれに匹敵する、いやそれ以上の絶望感だぞマジで。



しかし夢だというのであればここはどこなんだ?夢以外の最後の記憶はというと、自分の部屋でパソコン作業をしていたところだ。ならば自分の部屋で目を覚まさなければおかしい。やはりあれは夢ではなく現実で、ここはもうすでに異世界なのだろうか。誰か教えてくれ...



《ここはアルクス。現在地はスカイロード王国の南方に位置するカルム平原です》



...ん!?誰?!?!



急に頭の中に合成音声みたいな無機質な声が響き渡ってきた。
すると声の主はすぐさま俺の疑問に回答する。



《私は全知辞書、所有者の質問に回答を行うものです》



あー、あなたでしたか。...ということはあれは夢ではなかったということか。つまりは無事に異世界に転生できたのか。ついに、これから憧れの異世界生活が始まるのか!



...いやでも憧れの異世界とはいえ、知らない場所に放り出されるとやっぱり不安だな......でもずっとこの平原に居続けるわけにもいかないし、とりあえず何をするか決めなければ。



あっ、そういえば最後にイリス様が人のいない安全なところで転生させるからまずは近くの町へ向かうといいって言っていたような......



「よしっ、とりあえず町に向かいますか!」



不安な気持ちをかき消すようにそう呟き、即行動に移すことにした。



......そういえば近くの町ってどこにあるんだろ?



どこに何があるのか分からないのにも関わらず、こんな危険がはびこる異世界で歩き回るのは絶対愚策ぐさくだ。とりあえずは情報を集めないことには始まらない。といっても見渡す限り巨木が一本しかないこの平原でどうやって情報を集めようというのか。



...そうか!こういう時にこそ全知辞書の出番じゃないか!全知辞書さん、近くの町はどこにありますか?



《ここから一番近いのはここから北へ10㎞ほど進んだところにあるサウスプリングという町です》



へ?10㎞先ですか???それは近くと言っていい距離なのですか、イリス様!!!
......はぁ、まあとりあえず歩くしかないか。あのー、北がどっちかも教えてもらえますか?





そういう訳で俺は一番近くにあるという町『サウスプリング』へと向うため足を進める。その道中で自分のステータスや持ち物について確認をすることにした。これが時間の有効活用というやつだ。



この世界ではRPGゲームのように自分のステータスを確認することが出来るらしい。どういう原理なのか理解不能だがとりあえずはスルーで。また教会に行ったときにでもイリス様に聞くとしよう。全知辞書さんが教えてくれた通りに「ステータスオープン」と唱える(心の中でもOK)。するとゲームのUIに似た画面が目の前に現れた。



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名前:クロカワ ユウト Lv.1
種族:ヒューマン


HP:150 / 150
MP:200 / 200


攻撃力:50
防御力:50
俊敏性:80
知力:100
運:150


残りステータスポイント:0


称号:
女神の寵愛を受けし者 世界を渡りし者 研鑽を極めし者



スキル:
剣術Lv.5 体術Lv.5 料理Lv.4 気配遮断Lv.8 ストレス耐性Lv.7 精神攻撃耐性Lv.6 鑑定Lv.10 ステータス偽装 超理解 幸運 多言語理解 インベントリ 健康体 全知辞書





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...なんか知らないスキルもあるし、あと称号っていうのもいろいろあるな。




とりあえずステータスについては基準が分からないから強いのか弱いのか分からない。ただ知力と運がやたら高いのは何故なのだろうか?知力については前世でも学校の成績とかもそこそこ良いほうだったからその影響かもしれないけど、運については自慢ではないがかなり人より運は悪い方だったのに...




分からないときのスキル頼みということで世界のステータスの基準について全知辞書さんに聞いてみた。しかしそのことについては答えてはくれなかった。なるほど...こういう方面は回答できないのね。とりあえず町に着いたら適当な人を何人か鑑定してステータスを見させていただきますか。




称号については名前がすごく仰々しいのに加えて、効果をよく見てみるとかなりチートなものなっているのだが。これ下手したら俺のもらったスキル以上に強力な気がするんだけど...




『女神の寵愛を受けし者』・・・ステータス上昇量最大化、ステータスポイント追加、スキル取得難易度低下など

『世界を渡りし者』・・・取得経験値4倍、成長ボーナス2倍

『研鑽を極めし者』・・・取得経験値5倍、成長ボーナス2倍





なるほどね、つまりは取得経験値20倍、成長ボーナス4倍ですか。まあ前世で読んでた異世界転生系の物語の中では控えめな方...かな?それに称号の上2つは分かるんだけど『研鑽を極めし者』ってなんだ?前世がらみの称号?もしそういうことならば前世の努力が認められたってことか...やばっ、ちょっと泣きそう。



気を取り直してスキルについて見ていくか。ん~、イリス様からもらったスキル以外にもいろんなものがあるな。前世で身に着けたものをスキルになってるって聞いたし、見覚えのないものはそれだろうな。



剣術と体術は前世で剣道と空手を小学生の頃に習っていた影響かな?それにしてもレベル5って高くないか。剣道も空手もそこそこだったし、それにやめてから20年以上も経ってるし。イリス様がサービスしてくれたのかな。




料理は一人暮らしだったからそこそこ自炊はしてたわけでして...頻繁にではないけれど食費を浮かすために簡単な料理だったらそこそこ作っていたからそれだな。今回の人生はもう少し料理に挑戦してみるのもありかもしれないな。



気配遮断は身に覚えがありすぎるな。中高生のころに人に絡まれるのが嫌だったから自然と気配を消すのがくせになってたんだっけ。それが今世ではスキルになったのか、てかレベル高っ?!


ストレス耐性と精神攻撃耐性は...まあ、あれだろうな。前世での仕事のことや病気のことが影響したんだろうな。俺は...少なくとも自分にとっては非常に苦痛でトラウマなことばかりな人生だったから...









──前世で大学を卒業した後に新卒で就職した会社が超絶ブラックで俺は精神を擦り減らしすぎて鬱になってしまった。そして仕事を1年で辞めて鬱の治療をしていたのだが母ががんを患っていることが発覚したためその治療費のため俺は自分の治療を諦め、母の治療費にすべて回した。



その結果、俺はパニック障害などの様々な精神疾患を併発してしまった。母の入院する病院にもあまり行けず就職もできず、このままではダメだと家で出来る仕事を頑張ってみたがそれも上手くいかずに数年が経過した。母の病状は悪くなる一方で結局帰らぬ人となってしまった。



最後の家族を亡くした悲しみから一時期、自暴自棄になったが母の遺書を読んだことで再度頑張ってみようと努力を続けたが、結局最後まで俺はその努力が報われることはなく突如その人生は終わりを迎えた──




そう...だからこそ今世では絶対に幸せになって見せるんだ!








話が脱線してしまったが、その2つに関しては前世の影響だろう。ちなみにレベル表記がないスキルがユニークスキルと呼ばれる珍しいスキルで、基本的には先天的にしか得られないスキルのようだ。




他にも超理解っていうスキルがあるけど効果は...理解力が大幅に上がる?何そのスキル。あとこのスキルの影響で知力のステータスが多いみたいだな。まあ異世界だから理解に苦しむことも多いと思うし便利なスキルだとは思う。




あとこれだよ、幸運スキル。なんで俺が幸運スキルなんか持ってるんだ?不運スキルならまだ分かるけれども。それにこのステータス偽装ってなんだ?両方とも絶対持ってて損はない、というかメリットしかないようなスキルだと思うけど...もしかしてこれもイリス様からのサービスなのかな?




という感じで、とりあえずステータスについては一通り確認できたので次はインベントリでも見ておくか。インベントリも「インベントリ」と唱える(心の中でもOK)と目の前にゲームのUIに似た画面が出てきた。中身を確認してみると手紙が一枚入っているようだった。アイテム名が『女神からの手紙』となっている。すぐに手紙を取り出して書いてある内容を確認する。






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黒川優人 様




これを読まれているということは


無事、転生が完了できたようで安心致しました。


優人様に一つ謝らなければいけないことがございます。


実は条件に当てはまるスタート地点を探していたのですが、


いい場所が見つからず結果的にかなり町から


離れてしまったことをどうかお許しください。


もちろんその周辺は危険な生物はおりませんので


どうぞご安心ください。


また転生前にお伝えし忘れてしまったのですが、


ステータス偽装というスキルを追加でお渡ししております。


ステータスを確認されると分かると思うのですが、


将来、優人様が非常にお強くなられる可能性がございます。


その際にはこのスキルがお役に立つと思いますのでどうぞお使いください。


また前世の影響で不運スキルというのを獲得されていたのですが、


このスキルは優人様に悪影響を及ぼすと判断いたしましたので


こちらで勝手ではありますがスキルの効果を反転し、


幸運スキルへと変化させましたことご了承ください。


あと私からの餞別といたしましてその世界のお金を


少しだけインベントリに入れておきます。


また教会でお会いできる日を楽しみにしております。


優人様の今世が幸せなものになることを願って...




アルクスの管理者 イリスより




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えっ、すごく気を遣ってもらっている...!普通だったら転生してからはもう放置〜みたいなケースだと思っていたから余計に嬉しい。ありがとうございます!!!




今後起こりうる問題を先読みしてステータス偽装をくれたり、スキルの与える影響を考えて不運スキルを幸運スキルに変えてくれたりって流石はイリス様!前世の役所じゃ絶対にしないであろう主体的な思いやりのある行動...素晴らしすぎる!こんなにしてもらって逆に申し訳なくなるレベルだなこれ。




俺はしばし立ち止まり合掌をしてイリス様にお祈りを行った。教会じゃなくても祈りが届くかは分からないけれど、こんなに親切にしてもらって感謝の意を示さずにはいられない。俺は溢れんばかりのこの気持ちをイリス様に向かって一生懸命に伝えた。




しばらくイリス様にお祈りを捧げたのちに再び俺は町へと歩き出した。





あとはこの世界での今後の方針についても決めておかないといけないな。優先順位としてはやはりまずは生活をするためのお金が必要だ。インベントリにはイリス様からいただいたお金が銀貨1枚と銅貨20枚あるけれど、おそらくこれだけではすぐに底をつきてしまうだろう。





この世界の貨幣についてだが、全知辞書によるとお金には青銅貨・銅貨・銀貨・金貨・白金貨の5種類あるようだ。そのそれぞれ100枚ごとに一つ上の硬貨1枚と同じ価値らしい。この世界では青銅貨1枚が前世での1円と同じ価値のようだ。つまり現在の所持金は12,000円ほどと計算できる。やはり早めに収入源を確保しなければ心許ない金額だな。でも無一文よりは本当にありがたい...!改めてありがとうございます、イリス様!




ということで最優先は収入減を確保すること。しかしこれに関してはすでに目処が立っている。やはり異世界と言えば冒険者だろう。ちょっと興味もあるし、この世界で生きていくならレベルを上げて強くならなければいけない。幸いにも今向かっているサウスプリングという町に冒険者ギルドの支部があるようなのでそこで冒険者登録をさせてもらうことにしよう。




当面の目標は『お金を稼ぐ』『レベルを上げて強くなる』の2つだな。その後のことはそれらを達成してから決めても遅くはないだろうし、まずはそこを頑張ろう!





平原の巨木から歩き始めて約1時間後、想定していたよりも早く俺はこの世界で初めての町『サウスプリング』に辿り着いた。ここから始まる異世界ライフ...今度こそ必ず幸せな人生を送ってやる!

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