バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

16話

夜。
ニコが眠りについてしばらく経つ。
後片付けや明日の準備を終えたココロは、ニコを物音で起こさないように、リビングのソファーでタブレットを確認している。

「『ニコ・サワムラ』ファミリーネームもちゃんとついてるんだ」

最初に、ニコの情報がどこにあるのか少し探したが、ココロの情報の部分に「家族構成」として表示されていた。
この表示は最初なかったと思う。いつ現れたのか、ニコを預かった時か、今日か、はたまた別の時かは、分からない。

ニコの情報は、やはりまだ少ない。
名前と年齢、獣人の子、というぐらいだ。
スキル欄はまだ空っぽ。誰かから引き継いだわけではないから、まだ定まっていない状態なのだそう。

それからもう一つ確認。
ニコの情報ページのメニューバーを開き金銭管理の文字を選択する。

「……」

開いたものを、即座に閉じた。
動揺した頭を何とか落ち着けて、もう一度開く。

「……多くない?」

そこに表示された金額は、ココロの所持金を上回っていた。
桁だけで言えば変わらないけれど、最初の数字が全然違った。

「女神と世界から振り込まれたのもまず違いすぎる」

その差が何なのかは、当人(人ではないけれど表現方法不明)達の基準か何かがあるのだろう。
世界なんかは、動物好きだからと色を付けた可能性も0ではない。と思う。

それにしても、もともとの金額が何なのだろうか。
ココロの貯金は、使うタイミングがなかったための金額だ。生活に必要な金額以外は全てそちらに回さざるを得なかった。あまり嬉しくない理由だ。ココロは決して守銭奴ではない。
一方でニコは狐の獣人の子で…と思ったところで、一つの考えにたどり着いた。

「ニコの魂を、補った人…かな」

リアラに見てもらった時のことを思い出した。
ニコの魂が補うはずだった人が、本当ならこの世界のどこかにきていたはずだ。
この金額はその人の全財産。けれど、逆になってしまい、行き場がなくなったそれは、魂の持ち主であるニコに委ねられた、というところだろう。
真相はもちろん分からないが、これはニコのもので間違いないというところだ。

しかしニコはまだ子供。ようやく会話が出来るようになったところだ。
当然、字はま読めないし、数字も10までしか知らない(指の数)ので、お金の計算なんてまだまだこれからだ。
なので、このニコの全財産は、いずれその時が来るまで封印することにした。

「こんな所かな~…ん?」

固まった体をグーっと伸ばすと、膝にほのかな温かさを感じた。
いつの間に起きてきたのだろう、ユキが、ココロの膝に乗り、こちらを見上げていた。

「ユキ、どうしたの?」
「ンミー!」

声をかければ、甘えるようにすり寄ってくる。
小さな小さな頭をなでると、嬉しそうに喉をゴロゴロさせ始めた。

「そういえば、最近はニコにかかりっきりで、ユキのこと構ってあげられなかったね。寂しかった?」

ニコとユキがここへやって来たタイミングは、あまり変わらなかった。ユキが1週間ばかり早いぐらいだ。
ユキもまだまだ子供。妖精たちが遊び相手になっているとは言え、寂しい思いをさせてしまっていた。
これからは、ユキと遊ぶ時間を作るのも、必要かもしれない。
その後、ユキが満足するまで、静かにだが遊ぶことにした。


翌日。
昨日は何もなかったニコのスキルが、発現していた。

「花屋…か」

ニコは花が好きだ。街に出るときの途中で見かけた花を嬉しそうに見ている。
きっとそこからきたのだろう。花を育てるのに長けた能力のようだ。
とは言え、ココロの「自動農園」ほど優秀ではない(あれは一種のチート)。

種や球根は自分で植える。
収穫まで全ての手入れは自分でやる。
手入れが必要なところは表示される。
途中で枯れさせることはない。
収穫は自分で、当然時間経過で枯れる。
種は自動で手に入る。
アレンジが自由自在。
全ての花を育てられる。
派生物入手可能。

説明から読み取ったのはこのぐらいだろうか。
苦労はあるが、優秀な花屋(農家?)といった感じだ。十分使える能力である。

すべての花を育てられる、という部分で、以前読んだ世界について知れた本を思い出す。
その時は各国の産業を主に確認した。
大きく印象に残ったのが、南東が食物関連、北西が装飾関連だったこと。
その時点で、花は北西…西の産業だと思っていたが、どうやら違っていた。

花は、北以外の3国で産業として育てられているようだ。
花と言えば最初に思い浮かぶのが飾りなので仕方ないかもしれないが、確かに考えてみれば、食べられる花もあるし、花の蜜からは蜂蜜が取れる。
前者はあまり多くなく貴重な人材。南のとある地域に集中している。
後者は、南東に幅広く点在している。南は果樹や樹木から採れる蜂蜜なので正しくは花では無いけれど、東は花から採れる蜂蜜になるそうだ。
どの国も、花が産業に関わってきているのがわかる。
ちなみに北は、土壌が合わないために産業には向かないが、プランターを使い、趣味で育てる人も少なくないんだとか。

『花』と一言で言っても多種多様だなと実感した。
花一つで色々できるが、ニコは何をやりたがるだろうか。しばらくは、遊びの一つとして取り入れればいい。
庭に小さな花壇を用意してあげよう。妖精たちの力は、きっと使えないけど、場所を用意するぐらいならきっと出来る。
それから今日は、種や球根、道具を買いに行こう。
そんなことを考えながら、まだ隣で眠る、我が子の寝顔を見つめていた。

しおり