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神器

 神が創ったもしくは力を注いだ武具や道具。そういった物は神器とか聖具とかと呼ばれる。
 それら超常の武具や道具は英雄や勇者などという存在に渡され、敵対者を屠るなり封じるなりに使用される。というのが、一部の世界での話だ。
 れいは手に持つ神器と呼ばれている剣に目を向ける。その剣はれいが創ったわけではなく、例のごとく漂着した剣であった。国宝と呼ばれるのは確実だろう剣が穴に落ちて外の世界に流出する。それは最早奇跡と呼べる確率ではなかろうか。いや、そんなことは今更か。
「………………これが神器ですか」
 手に持つ剣を眺めながら、れいは困ったように息を吐き出す。
 確かにその剣は強力な剣であった。他の漂着してくる剣と比較してもかなりの差がある。他の剣を参考に考えれば、確かに神器と呼ばれるだけの性能だろう。それに、調べてみれば実際にこれはその世界の管理者が創り出した剣のようであった。
 しかしハードゥスでは、同程度の剣が地下迷宮から産出されている。少々深い場所で稀に手に入る程度なので数はそれほど多くはないが、珍しい程度の性能だろう。
「………………しかしまぁ、世界を管理しているはずの管理者が一方に味方するというのも考えものですが」
 例えば勇者と呼ばれる者が居る世界では、その相手役として魔王と呼ばれる存在が用意されていることがある。大抵勇者側が正義で、魔王側を悪とする場合が多い。もっともこの場合、視点が勇者側にあるのだが。
 しかしだ。どんな物語が騙られていようとも、その世界に魔王を創造したのは他ならぬ管理者なのだ。それでいながら勇者側に手を貸して魔王を討伐させるというのは、本来の管理業務から考えればありえない所業。
 管理者とは世界に必要なモノを創造し、それを維持しつつ見守るのが本来の役割なのだ。そして、世界にとって不利益と判断した事柄のみを取り除き、必要と判断したモノを創造する。
 そうして世界が崩壊してしまわないように管理するのが管理者の役目。決して、自らの娯楽のためだけに世界を運用するなど本来あってはならないことなのだ。
「………………その辺りは前任の創造主の影響でしょうね」
 とはいえ、そんな管理者が誕生している原因は既に取り除かれているので、今更どうこう考えたところでしょうがない。
「………………必要なことと判断したとはいえ、私も似たような部分が僅かにありますからね」
 管理だけでは退屈なので、多少気を紛らわすために方向性を誘導する。という程度はした覚えがあるれいは、今にも肩を竦めるような声音でそう呟いた。もっとも、それは管理業務の範疇と呼べる程度の可愛らしい介入ではあったが。
「………………しかし、そういった管理者が管理している世界からの漂着物は結構多いのですよね。よほど管理が杜撰なのでしょうか? それとも、穴が開く頻度が多いとか? わざとではないと思いたいところですが」
 困ったものだと息を吐いたれいは、とりあえず今は手元に在る剣だと思い直して、意識をそちらに戻す。
「………………しかしこれ、どうしましょう? 迷宮に紛れ込ませるというのが楽な方法だとは思いますが」
 性能はいいので、そのまま破棄するのは勿体ない。かといって、また誰かに渡すと面倒事に発展するかもしれない。無難なのが迷宮の産出品に紛れ込ますことだろうが、それをどの迷宮でするかで戦力バランスが僅かに傾くかもしれない。そう思えば、軽々な判断も出来ないだろう。
「………………もう迷宮ではこのレベルの武器は産出していますから、今更とも言えますが」
 他には管理補佐への褒賞だろうか。人々の文明が発達したことで、武具類の性能も向上していた。昔に国王に渡した武器など、今では一般への普及品とあまり変わらないぐらいの性能だろうか。
 なので、管理補佐達への褒賞としている武具の性能も随時向上させている。流石にれいからの褒賞で一般品と同等の品はありえないだろう。
 流れ着いた神器に関しては、現状だと珍しい程度で適度に高性能なので、褒賞としては十分通用する。
「………………そうしましょうか。褒賞用の武具は結構放出していますからね」
 褒賞用の果実と武具は、そこそこ頻繁に贈っている。ハードゥスでは様々なことが起きるので、功績には事欠かないのだ。
 そういうわけで、考えた末に神器は褒賞用の武具の一つに決める。これで褒賞用の物品が一本補充されたわけだ。
「………………さて、神器の扱いについて決まったところで、折角ですし今回の力の実作製は時間を縮小して、その分神器作製を行ってみましょう。上手くいけば、薄めていない力の実以外の大功に対する褒賞用になるでしょうから」
 というわけで、れいは日課の力の実作製の時間を普段よりも大幅に減らし、それにより空いた時間で神器を作成していくことにする。
「………………ではまずは、先程見たことですし、剣から創ってみましょう」
 力の実を作製後、れいはそう言って、はりきって神器を作製していった。

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