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あの女とこの女 その2

 渋い表情でコンビニおもてなし5号店の中に入ってきた商店街組合のレトレは
「……色々ご協力を頂いているのですですが……」
 そう言いながら話をはじめました。

 レトレの話はポルテントチップ商会に関することでした。
 王都で散々好き勝手やらかしたせいで王都を追放されてからも様々な悪事に手を染めていたことが発覚したポルテントチップ商会は、王都とナカンコンベの両商店街組合による査察を受けている最中なのですが……
 僕が絡んだ現5号店の建物の債権者会議での不正行為と、マクローコ達が美容室を取り上げられる原因となった闇金行為に関しては証人と物的証拠がこれでもかってくらいに揃っているもんですから言い逃れすることは出来ないはずです。
「……それどころかですですね、ポルテントチーネは証拠が揃っている案件に関しては一切異議申し立てを行わずにですですね、即座に罪を認めているのですです」
「え? そうなの……でも、それってむしろいいことなんじゃ……」
「そうでもないのですですよ……」
 レトレは僕の言葉に対してそう答えると再び渋い顔をしました。

 ポルテントチーネは言い逃れが難しい案件に関しては即座に罪を認めているのですが、その場合の罪の償い方には色々なパターンがあるわけです。
 重い場合には当然死刑までありますが、今回ポルテントチーネが認めている罪状ですと牢獄に長期間入るか多額の罰金を支払うかの二択なんだとか。
 で、ポルテントチーネはすべてを罰金支払いで済ませているそうです。
 僕の絡んだ先の2件の罰金だけでも、総額10億円/僕が元いた世界の通貨換算くらいになったそうな
ですが、ポルテントチーネはそれを即金でポンと支払ったんだとか。

「そのせいでですですね、ポルテントチーネの仮釈放が認められそうなんですです……」
 レトレはそう言うと、首を左右に振りながら大きなため息をつきました。

 ポルテントチーネは余罪や疑惑のオンパレードなわけでして、王都とナカンコンベの商店街組合もここでそれらの全てを一気に調べ上げようとしていたわけです。
 ですが、すんなり罪を認め続けているもんですから『捜査に対して非常に協力的であり証拠隠滅の恐れはなく、仮釈放を認めてもいいのではないか』との裁決を、王都裁判所が下してしまいそうな勢いなんだとか。
 その裁決が降りてしまうと、現在はナカンコンベ簡易裁判所内の収容施設に収容されているポルテントチーネは在宅扱いになり、取り調べの際にのみ出頭すればよくなってしまうそうなのです。

「……それってつまり、裏でまた好き勝手やり放題になっちゃうってことじゃないんですかね?」
「なのですです……あの女のことですです、絶対に証拠隠滅を図りつつ、今回支払った罰金分を取り戻すためにまた何かしでかし始めるはずですです」
「じゃあ、その新しい悪事を押さえるとか……」
「あの女、用意周到にあれこれしでかすですです。今査察をおこなっている案件も、ここまでたどりつくのに何年もかかっているんですです。そう簡単にはいかないはずですです」
 そう言うと、レトレは再び大きなため息をついていきました。

 ……とまぁ、そんなわけで……債権者会議の一件とかのせいでポルテントチーネに絶対に恨まれている僕としても、そのうち嫌がらせのひとつでもされそうだなぁ……って思ったりして、ちょっと憂鬱になってしまう案件が発生してしまったわけです、はい。

 ですが、レトレの話は悪いことばかりではありませんでした。
 ポルテントチーネが、証拠が揃っていて言い逃れ出来ないと判断して、素直に罪を認めていた案件の一つに闇金の一件あったそうなんです。
 そのおかげで、ポルテントチップ金融から金を借りていたマクローコの借金は全てなかったことになり、今までに支払ったお金も全額返済される見込みになったんだとか。
 合わせて、ポルテントチップ金融に借金の形として取り上げられていたマクローコ美容室の建物の権利も戻ってくる見込みになったんだそうです。
 手続きがあるため、実際にマクローコの手元にその権利が戻るのにはもう少し時間がかかるそうなのですが、これを聞けばマクローコ達は大喜びするはずです。

◇◇
 レトレが商店街組合へ戻っていった後、僕は店の営業へと戻っていきました。

 マクローコに店舗のことを伝えるのは、実際に権利書が返還されてからにするつもりです。
 まぁ、もうその方向で話が進んでいますので、返還されるのはほぼ間違いないとは思うのですが、万が一ということもありますからね……何しろ相手はあのポルテントチーネですから……

 そんな事を考えながら接客をこなしていた僕なのですが、相変わらず5号店はお客様で溢れかえっています。
 この時間帯の弁当やパンの人気は相変わらずでして、今日は早くも両方ともが不足気味になってしまっていました。
「店長さん、ピアーグに行って追加を作ってもらってきますね」
 ライへが慌てた様子で僕にそう言ったのですが、よくみるとライへはレジでお客さん対応の真っ最中でした。
 どう見ても、今すぐに動けそうにありません。
 そこで僕は
「あぁ、いいよ。今回は僕がひとっ走り行ってくるから」
 そう言うと、店の裏手に止めてある電動バイクおもてなし君1号に乗ってピアーグへ向かって出発しました。
 
 役場前を抜けピアーグが近づいて来ました。
 早朝から営業している食堂ピアーグは、今も多くのお客さんで賑わっていまして、店の外には順番待ちをしているお客さんの列が出来ているほどです。
 花祭りの対応などでしばらく来れていなかったのですが、その間にお客さんが戻ってきたようですね。

 ピアーグの裏に回ってコンビニおもてなし君1号を置いた僕は、厨房の脇へと顔を出しました。
 厨房の中ではナスアが笑顔で調理を行っているところでした。
「ナスア店長、朝定食4人前追加です」
「はい、喜んで!」
 オーダーを告げるマーリアの声に、ナスアは笑顔で答えていました。
 僕に気がついたナスアは
「あ、タクラ店長様じゃないですか! どうかなさいましたか?」
「あ、いや……5号店の弁当が少なくなってきたんで追加をお願いしようかと思って来たんだけど、忙しそうだし僕が作ろうか?」
「いえいえ、それには及びません! コンビニおもてなしさんの追加用のお弁当でしたら、もう作ってありますのでお持ち帰りください!」
 ナスアはそう言うと厨房の一角を指さしました。
 そこには、魔法袋がおかれていました。
 中を確認してみると、ナスアが言うように弁当がぎっしりと詰まっています。
「ありがとうナスア。助かるよ」
「いえ、何を仰られますか。助かっているのはこちらですもの。コンビニおもてなしさんのお手伝いをさせていただくようになってからというもの、こうして客足も戻ってまいりました。まだまだこれからですけど、こうしてお客さんにおこしいただけると、すごく励みになります」
 ナスアはそう言うとにっこり笑いました。

 コンビニおもてなしで扱っていますピアーグ特製弁当も好評でして、毎日完売していまして、それもいい宣伝になっているようです。
 それに加えて、コンビニおもてなし君1号でピアーグとコンビニおもてなし5号店を往復するのもいい宣伝になっているみたいですね。
 なんでも、ナスアがこの店を継いで以降では最高の客足を毎日更新しているそうです。

 これだけピアーグが盛り返し始めたとなると、向かいにある高級食堂ポルテントチップも気になっているに違いありません。
 
 ただ、僕としましてはポルテントチップをあまり刺激することなく、今後もピアーグが順調に客足を伸ばしながら繁盛していってくれればな、と思っている次第です、はい。

 レトレから聞いた話で少し憂鬱になっていた僕ですが、ナスアの元気な笑顔のおかげですっかり調子が戻った感じです。
 僕は、魔法袋を受け取ると、コンビニおもてなし君1号に乗ってコンビニおもてなし5号店へと戻って行きました。

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