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第134話 格

「わぁ。すごい」
早朝ほんの少し前まで眠そうに眼をこすっていたイングリッドとエルンストだったけれど、大聖堂前の広場で夜明けの風景に大興奮だ。
「なつかしいね」
「うん」
まだ英雄と呼ばれるようになる前。結婚したばかりのあの日を思い出し僕とミーアは肩を寄せた。
「あの日もこうして……」
僕が言葉を紡ごうとした唇はミーアの唇でふさがれた。やさしい抱擁にあの時と同じ穏やかな幸せを感じる。そして同時にここにラーハルトがいない悲しさも……。そんな感傷に浸っていると
「パパ、ドーン」
「ママー」
僕にはイングリッドが、ミーアにはエルンストが抱きついてきた。ラーハルトを失った悲しみを僕たちはずっと抱えて生きていくのだろう。でも、それと同時にこの子達との幸せを積み重ねて行くことはきっと大切な事だと信じられる。だから今は笑顔でこの幸せを育てよう。
「素敵だったでしょ」
ミーアが子供達に微笑みかける。
「うん、凄く綺麗だった」
「ここはね、パパとママが結婚した時にギルドで教えてもらった思い出の場所なの」
穏やかなミーアの笑顔にきっとミーアも僕と同じことを想っているのだろうと
「今日は、パパとママの思い出の場所を回ろう」
僕は子供達にそう告げていた。

「今でも使っている弓は、ここで買ったんだよ」
そう言いながら、武器屋の入口をくぐる。相変わらず不愛想な店主がジロリとこちらを見た。
「お久しぶりです。覚えておいででしょうか。15年ほど前にこちらで弓を3張りと剣を見立ててもらった……」
「覚えておる。随分と派手にやったようだな。今では帝国侯爵様か。ま、事情が事情だ時間があいたのは仕方ないな。見せてみろ」
その15年前と同じ対応に僕もミーアもクスリと笑いながら弓を差し出す。
「この15年この弓たちは僕達を守ってくれました。今も現役ですよ」
「剣はどうした」
「すみません、あの時の剣は僕たちについてこれなくなったのでこういう状態です」
魔法の鞄から出した剣は手入れこそしてあるけれど、この10年以上使うことなく魔法の鞄の片隅に入れっぱなしにしていた。そして
「今僕たちが使うのはこういう剣です」
金色の燐光を放つ剣を見せると店主は渋い顔をし
「噂では聞いていたが、これか」
そして、その手に持ち
「なるほど、これはお前たち以外には持つことさえできなかったのではないか」
「何かご存じなのですか」
「使う人間に祝福による格があるように、武器にも格がある。その武器に見合った格が無いと振るう事は出来ないものだ。まあ、俺たちのように鍛冶の祝福があれば持つこと自体は出来るがな」
そして剣を僕たちに返しながら
「残念ながら、こいつらの手入れは俺の手には負えんな。まあ、元々十分に手入れされているようではあるが」

 少しばかりの雑談の後武器屋を辞し、当時を思い出しながらいくつかの店を見て回る。当時のままに営業をしている店、すでに別の店に置き換わってしまっている店等あり時の流れを感じながら聖都を見て回った。

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