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賛成派の一同

 それから約三十分後、公開ディベートが始まった。

「……それでは只今より、『江西地区高層ビル建設の是非について』の公開ディベートを始めたいと思います。尚、この模様はwebサイトを通じて、生中継されております。司会進行は私、大江戸城学園高等部生徒会長の万城目安久が務めさせて頂きます。どうぞよろしくお願い致します」

 お白洲一杯に詰めかけた聴衆から拍手が起こる。それが鳴り止んでから、万城目は再び進行をはじめる。

「……さて、このディベートですが、世間一般のそれと変わりありません。流れとしましては、まずそれぞれの立場での立論、そしてそれに対する質疑、所謂反対尋問を行います。さらにそれぞれ反駁(はんばく)、さらに最終弁論……になります。討論の内容を踏まえて、こちらにおわします、第二十五代大江戸幕府征夷大将軍、若下野葵様に勝敗を決めて頂きます……では上様、一言お願い致します」

 万城目の紹介を受け、葵は座席から立ち上がって挨拶しようとした。聴衆が皆頭を下げた。

「あーえっと、皆さんどうぞ頭を上げて下さい……只今御紹介にあずかりました、若下野葵です。責任重大な役割ですが、精一杯やらせて頂きます。よろしくお願い致します」

 そう言って、葵は頭を下げた。聴衆は戸惑いながら拍手を送った。

「……続きまして、今回のディベートの参加者の皆さんを御紹介させて頂きます。まずは建設賛成派の皆さんから……氷戸光ノ丸さん」

「氷戸光ノ丸です。本日はこのような重要な場にお招き頂き、大変光栄に存じます。江戸の町づくりについて実りある話し合いが出来ればと思っております。どうぞよろしくお願い致します」

 にこりと笑って挨拶する光ノ丸に対して、聴衆から好意的な拍手が送られる。

「成程、案外外面が良いってそういうことね……」

 その様子を見ながら葵は小さい声で呟いた。

「では続きまして、本日の会場である北町奉行所の北町奉行、黄葉原北斗さん」

「はい、どうも~黄葉原北斗で~す。今日も言いたいことはガンガン言っちゃっていくんでそこん所ヨロシク!」

「軽っ⁉」

 葵は思わず声を出してしまった。一部の聴衆からは「待ってました!」「北斗さま~」などと、威勢の良い掛け声や黄色い歓声も飛んだ。

「随分と人気があるようだな、妙に場馴れもしている気がする……」

 北斗たちとは反対側の席に座る景元が呟く。南武がその疑問に答える。

「兄上は動画共有サービス『自由恥部』……『ゆうちぶ』で定期的に北町奉行所の情報を発信していますから……それなりの人気放送者、由恥部亜として知られているようです」

「そ、そうなのか……」

「町奉行も色々となさっていますのね……」

 南武と景元の間に座る小霧が半ば感心したように呟く。

「では続いて……伊達仁爽さん」

「はい、『将軍と愉快な仲間たちが学園生活を大いに盛り上げる会』、通称『将愉会』副会長の伊達仁爽です。本日は宜しくお願い致します」

「お、おい、伊達仁が向こう側に座っているぞ、良いのか?」

「ええ、良いんですのよ、あれで」

「し、しかしだな」

 納得行かない様子の景元に痺れを切らし、小霧がその真意を逆隣に座る南武に聴こえないように説明する。

「良いですか? 極端な話、今回は我々の意見はさほどの意味を持ちません。つつがなく、もっともらしい意見を述べていればそれでいいのです。大事なのは世間に対して、『将愉会』という会があるのだなということを広く知らしめること、会の存在感を高めていくことがなによりも肝要なのです!」

「……少しズルい気もするが……まあ、高島津が納得しているのならそれで構わんが……」

「完全に納得しているわけではありませんわ!」

「そうなのか?」

「『将愉会』副会長が何故伊達仁さんなのか、そんなのいつ決めたのですか⁉」

「そ、そんなことか……」

 景元は呆れて会話を打ち切った。続いての人物が紹介された。

「おう! このお江戸の町を愛する者の代表として、大役を仰せつかったぜ! 姓は赤宿! 名は進之助! 人呼んで『火消の進之助』とはオイラのことだ! 今日は町をより良くする話し合いだって聞いてよ! もう居ても立っても居られないって感じでよ! そしたら参加して良いってあの真ん中に座る姉ちゃんがよ! ありがとなぁ~!」

 イスどころか、机に立って自己紹介を始めた進之助に司会の万城目を初め、出演者、聴衆のほとんどが度胆を抜かれた。

「やっぱ、呼ばなきゃよかった……」

 自身に向かって手を振ってくる進之助を適当にあしらいながら葵は軽く頭を抱えた。

「なんでアイツを呼んだんだ?」

「町人の意見も聴くべきだと伊達仁さんが強引に捻じ込んでいらっしゃいましたわ」

「伊達仁が? 何か考えがあってのことか?」

「さあ? そこまでは……」

 景元の疑問にも小霧は完璧に答えられる訳ではなかった。

「まあ、言い方は悪いですけど、要は賑やかしみたいなものでしょう。余り気にしなくても良いかと思いますわ」

「ああ、赤毛の君……いえいえ! 今日は敵同士! 集中しませんと!」

 八千代は両手でバシッと己の両頬を叩き、気を取り直した。ただ、隣に座る南武は進之助を見て一瞬恍惚の表情を浮かべた八千代を見逃さなかった。

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