バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

みんなで休日 その3

 ナカンコンベ中央広場の一角で行われていたのはロジクワールドサーカスっていう見世物でした。
 規模こそ小さいものの、ライオン風の魔獣の火の輪くぐりや、でっかいゴーレムの玉乗り、タテガミライオン風の魔獣のダンスなどが、まるで流れるように次々と披露されていきます。
 女の子が吹いているオカリナ風の笛の陽気な音色がみんなの動作にマッチしていて、見る者をワクワクさせてもいます、はい。
「へぇ、この世界にもサーカスがあったんだ」
 僕は、子供達と一緒になって目を輝かせていました。
 すると、スアが僕の小脇をツンツンとつついてきまして、
「……ううん……ないよ。私も初めて……見た」
 そう言いました。
「え? そうなの?」
 そう聞き返した僕に、スアは再度コクコクと頷きました。
 ちょっと不思議に思いはしたものの、次々に目の前で展開されていく魔獣と人の芸の数々を見ていると、そんなことはどうでもいいや、と思えてしまうから不思議です、はい。

 全部の演目が終わり参加者全員が集合して頭を下げると、サーカスの集団を取り囲んでいた群衆から一斉に拍手が沸き起こりました。
 同時に、布袋を持った女の子~さっきまでオカリナ風の笛を吹いていた女の子ですね~が、群衆の前を笑顔で歩き始めました。
 すると、感動している群衆達が、その布袋の中にお金を投げ入れ始めました。
 当然、僕達も楽しませていただいたお礼に金貨を1枚入れました。
「ありがとうございます。また見に来てくださいね」
 笑顔で頭を下げる女の子に、パラナミオ達は
「はい!またぜひ見に来たいです!」
 そう言いながら、みんな一斉に頭を下げ返していました。

 その後、公園内で販売されていた果物を串に刺した食べ物を皆で食べながら、僕達は公園内をのんびり散策して回りました。
 この光景を見ていると、来週に迫っている花祭りのことをつい思い出してしまいます。
 花祭りでは、各都市の出店が主催都市の中央広場を中心に集結して軒を連ねます。
 その屋台を目当てに、たくさんの人達が集まってくるわけです。
 今までは移動手段が荷馬車か徒歩しかありませんでしたけど、今年は各都市を結ぶ魔道船が就航していますので、このナカンコンベ中央広場に負けないくらいの人が集まってくれるはずです。
 それにこのナカンコンベも、花祭りの会場になるブラコンベと魔道船で結ばれるわけですし、今ここにいる皆さんをぜひともブラコンベにお招きしたいと思ったりした次第です。

 そんな事を考えた僕は、中央広場を出る前に先程のロジクワールドサーカスの荷馬車の方へと歩いていきました。
 今は休憩中らしく、サーカス団員の皆さんはみんな荷馬車の中で休んでいました。
「あのぉ、ちょっとよろしいですか?」
 僕がそう声を掛けると、さっきピエロをしながら司会進行もしていた男の人が歩み寄ってきました。
「はいはい、ロジクワールドサーカスに何かご用ですか?」
「初めまして。僕はこのナカンコンベのずっと東にありますガタコンベって街の領主代行でコンビニおもてなしって店の店長でもありますタクラって言うんですけど……」
 僕は簡単な挨拶を交わすと、本題を切り出しました。
 よかったら花祭りに参加してもらえないか、と。
 荷馬車の移動は、就航予定の魔道船で優先的に行わせてもらうことを告げると、そのピエロの男は
「マジ? 魔道船って、あそこのタワーのてっぺんにくっついてる奴だよな? うわ、あれに優先的に乗せてもらえるのかよ!」
 そう言いながら、なんか妙に感動している様子でした。
 で、そのピエロの男が、このロジクワールドサーカスの団長のロジクさんだったわけで、
「あぁ、このロジクワールドサーカス、ぜひともお邪魔させてもらうぜ、その花祭りってのにさ」
 そう言って、僕の申し出を快諾してくれました。
 すると、この話を近くで聞いていたらしい、絵を描いていた人や音楽を披露していた皆さんも僕の近くへと寄ってきまして、
「あの、その花祭りって僕でも参加出来るんですか?」
「よかったら私もぜひ参加させていただきたいですわ。ひょっとしたら仲間がいるかもしれませんし~」
 そう申し出てこられました。
 それらの方々に、
「明日にでもコンビニおもてなし5号店の方で参加申し込み用紙を配布しますので、皆さん是非ともよろしくお願いします」
 笑顔でそう声をかけていきました。

 結構な数の皆さんに声をかけた僕ですが、ガタコンベの巨木の家に戻ったら早速ガタコンベ商店街組合のエレエのところに花祭り参加申し込み書をもらいに行こうと思っています。
 夏祭りの際には、このナカンコンベ商店街組合とも連携してナカンコンベ商店街組合でもチラシや申し込み書を配布してもらえるようにお願いするのもいいかもしれないなと思ってもいます。

 その後、改めて家族サービスモードに戻った僕は、子供達と手をつなぎながら街道を歩いていきました。
 すると、その一角に大きな教会がありました。
 よく見ると、その教会の横には大きな建物が併設されています。
 その建物の入り口のところには「ナカンコンベ学校」って看板が掲げられていました。
「へぇ……ナカンコンベにも学校があるんだな」
 僕は、そんなことを呟きながら建物を見上げました。
 そこは、今パラナミオが通っているガタコンベ教会の学校の何倍も大きな感じです。
 街の規模が大きいだけに、学校に通う子供の数も多いんでしょうね。
「うわぁ……大きな学校ですねぇ」
 パラナミオや他の子供達も、びっくりした様子でナカンコンベ学校をみつめていました。
 しばらく学校の様子を眺めていた僕達ですが、しばらくすると再び街道を歩き始めました。

 用水路の脇を進んでいくと、商店街の端にさしかかったらしく徐々に店の看板が少なくなってきました。
 代わりに、普通の民家っぽい建物が増えてきた感じですね。
 そんな一角に、ちょっと変わった感じの店が一軒ありました。
『フラブランカ雑貨店』って看板が掲げられているそのお店ですが、結構な数のお客さんが集まっています。
 そんな店の前では、褐色の肌をした女の人が立っていまして、集まっている皆さんと何やら話し込んでいるようです。
 そのお店に少し興味がありましたけど、なんか立て込んでいる様子でしたので僕達はその店を遠巻きに眺めただけで帰ることにしました。
 なんか、帰り際にスアが、
「……あの人、変わった魔法使い、ね」
「え? そうなのかい?」
「……うん、テリブルアと、同じ」
 その時の僕は、そのスアの言葉に「ふ~ん、そうなんだ」って感じで答えて聞き流していたんですけど……
 後でよく考えたら、テリブルアと一緒ってことは、あの女の魔法使いの人……暗黒大魔道士ってことですよね……って思い当たった僕は、思わず唖然としてしまった次第です、はい。
 まぁ、見た感じ、始めて出会った時のテリブルアのように「世界征服よぉ!」とか言って暴れ出しそうな様子はありませんでしたし、そう気にしすぎることもなさそうでしたけど……どうなのかなぁ。

◇◇

 そんなこんなで、街中をぐるっと一周し終えた僕達は、コンビニおもてなし5号店へと戻っていきました。
 すると、店の前には街中へ出発した際よりも多くの皆さんが集まっていまして、皆で揃って魔道船を珍しそうに見上げていました。
 僕は、スアにお願いして子供達を先に店の中へと入れてもらうと、
「皆さん、あの定期魔道船コンビニおもてなし丸はもうじき就航開始です。乗船チケットもコンビニおもてなしにおいて近日発売予定ですのでよろしくお願いします」
 そう、笑顔で話しかけていきました。
 すると、魔道船コンビニおもてなし丸を見上げていた皆さんは、今度は僕の周囲を取り囲んできまして、
「それはいつからだ?」
「早く乗ってみたいわ」
「どこまで行けるんだ?」
 ってな具合で、質問攻めにあった次第です。

 集まっていた皆さんの質問に答え続けていると、1時間近く経ってしまいました。
 ようやく群衆の皆さんから解放された僕は、
「みんなお待たせ」
 ヘロヘロになりながら店内へと戻っていきました。
 その後、すぐに魔道船コンビニおもてなし丸へと乗船した僕達は、ガタコンベへ向かって出港しました。
 眼下では、たくさんの人々が魔道船を見上げていまして、盛んに手を振っています。
 窓から眼下を見下ろしていたパラナミオ達が、笑顔でそんな皆さんに手を振り返しています。
 その様子を、笑顔で見つめていた僕なわけです。

 そんな僕達を乗せた魔道船コンビニおもてなし丸は、一路ガタコンベを目指して出発していきました。

 こんな感じで、ナカンコンベでの休日はあっと言う間に過ぎ去ってしまいました。
「パパ、また遊びに来たいです!」
 笑顔でそう言うパラナミオ。
 リョータ達も、そんなパラナミオの言葉に笑顔で頷いています。
 僕は、そんな子供達に笑顔で頷き返すと、
「うん、またみんなで遊びに来よう」
 そう言いました。
 その一瞬後、子供達は笑顔で僕に抱きついてきました。

しおり