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ゲキオコプンプン丸だよ! その2

 マクローコが反省したというかクローコさんに徹底的に叱られまくっている間に、僕はマクローコからもらったポルテントチップチップス金融との契約書を持って商店街組合へ行きました。
「あぁ、店長さんご苦労様ですです」
 商店街組合の建物に入ると、レトレが笑顔で出迎えてくれました。
「やぁ、レトレ。相変わらず急がしそうだね」
 僕がそう言うと、レトレは急にプゥっと頬を膨らませました。
「そうなんですです。例のポルテントチップ商会の査察がとんでもないことになっているですです」
「とんでもないこと?」
「はいですです。給料のピンハネとか仕入値の踏み倒しとか相当数の問題事項の洗い出しが進んでいるのですですが、違法金貸業に関する案件がどうにも立件出来ないのですです」
「それって、うちのトルソナが被害にあってたあれのことだよね」
「ですです……なのですがですね、どうもポルテントチップ商会は査察に備えて金融に関しては別会社をあらかじめ準備していたようでして関連書類がどこにもないのですですよ」
 そう言うと、レトレはプゥっと頬を膨らませたまま腕組みをしていきました。
 マクローコのことで怒ってたクローコさんといい、そのマクローコ達に説教した僕といい、なんか今日は怒ってる人が多いなぁ……なんて思っていた僕なのですが、
「……まてよ……別会社?」
 あることに気がついた僕は、マクローコから預かってきた契約書を再度見直していきました。
「……あのさレトレ」
「はいですです?」
「そのポルテントチップ商会の別会社って……ひょっとして、このポルテントチップチップス金融じゃないかな?」
 僕はそう言いながら契約書をレトレに手渡しました。
 で、それに目を通したレトレはカッと目を見開きました。
「て、店長さん、これ一体どうやって入手されたのですです!?」
「あぁ、ピアーグにやってきたお客さんが困っててさ、事情を聞いたらこのことで困ってるって話になってね……」
 僕は、あえてマクローコ達がピアーグに嫌がらせに来た事は伏せてそう言いました。
 するとレトレは、
「店長さん!これこそ私達が探していたポルテントチップ商会の金融別会社の存在を証明する事が出来る確固たる証拠ですです! これ、少しこれお借りしてもよろしいですです?」
「あ、あぁ、大丈夫だと思うけど……」
「ありがとうございますます!」
 そう言うが早いか、レトレは組合内へ振り向くと、
「緊急出動!緊急出動!査察案件に有力な手がかりですです!皆すぐに現地に向かうですです!」
 そう言いながら商店街組合の外へと駆け出しました。
 すると、その後に大量の蟻人達が続いていきます。
 あの契約書には、ポルテントチップチップス金融の住所が書かれていましたので、そこを押さえにいったのでしょう。レトレの行動の速さは相変わらずです、はい。

◇◇

 この後、商店街組合に残っていた別の蟻人から、書類を持っていた人は重要参考人になるので身柄を確保させてもらいたいとの申し出を受けました。
「その場合、マク……あ、いや、その重要参考人の人達はどういう扱いを受けることになるんだい?」
「はいですです、取り調べが終了するまで衛兵局の独房に入っていただくことになるですですね。取り調べが済めば解放されるですです」
 それを聞いた僕は少し考え込みました。
 マクローコ達は確かにピアーグに嫌がらせをしてきたけど、それはあくまでもお金の返済に困って仕方なく……だったわけです。それに4号店の店長をしているクローコさんの妹さんだとわかってもいますしね、さすがに独房っていうのは可哀想な気がしました。
「……どうだろう、その重要参考人達の身元引受人に僕がなるっていう条件で、衛兵局の独房行きは免除してもらえたりしないもんだろうか?」
「はぁ……そうですね、それは可能ですが……万が一その重要参考人達が逃走した場合店長さんも罪に問われることになりますですが……」
「あぁ、それは承知の上だからさ」
 そう言った僕は、蟻人と一緒にピアーグに戻りました。

 ピアーグの店内はすでに営業を再開していまして、結構な数のお客さんで賑わっていました。
 で、マクローコ達は店の裏手にいたのですが、クローコさんに徹底的に説教されたらしくすっかりしょげかえっています。マクローコだけでなく、ゴーレムやゴブリン達までもが正座して背中を丸くしています。
 そんなマクローコ達を前にして、クローコさんは頬をプゥッと膨らませたまま、
「ゲキオコプンプン丸だよ!わかってるマクローコちゃん?、クローコ、ゲキオコプンプン丸だよ!」
 って、連呼し続けていました。
 で、そこに割って入った蟻人は、マクローコ達から事情聴取をはじめました。
 マクローコ達から話を聞き、持参してきた調書にそれを書き留めています。
 その光景を横で見ていると、クローコさんが先程までのゲキオコプンプン丸顔から一転して、心配そうな表情を浮かべながら僕の耳元に口を寄せてきました。
「……店長ちゃん……マクローコ達どうなっちゃのかな?……あのね、クローコがいっぱい怒ったしぃ、マクローコちゃんも悪い子じゃないっていうかぁ……そのぉ……衛兵局のぉ独房行きとかはぁマジ勘弁してあげてほしいっていうかぁ……」
 さっきまであんなに怒りまくっていたクローコさんですけど、やっぱり実の妹のことが心配で仕方ない様子です。
 僕は、そんなクローコさんの耳元に口を寄せると、
「大丈夫ですよ、僕が身元を引き受けることにしましたから、衛兵局の独房に行く必要はありませんよ」
 そう言いました。
 すると、それを聞いたクローコさんは僕に抱きついてきまして、
「だから店長ちゃん大好き! クローコ愛してるぅ」
 そう言いながら僕の頬にブチュっとキッスを……
「……あれ?」
 ……しようとしたのですが、その姿が一瞬にして消え去ってしまいました。
 で、先程までクローコさんがいた場所には、転移魔法で移動してきたらしいスアの姿がありました。
 スアは、その頬をプゥっと膨らませながら、
「……私の、だし」
 そう言いました。
 ……ははは、ここにもゲキオコプンプン丸がいました、はい。

 その後、スアの魔法で街の裏を流れている用水にぶち込まれ、濡れネズミになって戻って来たクローコさんも交えた僕達に、マクローコ達の事情聴取を終えた蟻人が説明をしてくれました。
 それによると、マクローコ達がピアーグに嫌がらせをした件は、ナスア達が被害届けを出すつもりがないとのことだったため厳重注意にとどめるとのこと。
 ただ、ポルテントチップ商会の手先になった事実にはかわりないため身柄を拘束する必要があるとのこと。
 本来なら衛兵局の独房で拘束される案件なのですが、今回は特別に僕が身元引受人になることで独房での拘束は免除されるとのこと。
「……では、出頭いただく必要がある際には改めて連絡するですです」
 所定の書類に僕達のサインをもらい終えた蟻人は、そう言うと商店街組合へと戻っていきました。
 それを見送るなり、クローコさんは、
「マクローコってばぁ!店長ちゃんに感謝感激雨あられだよぉ!店長ちゃんのおかげでノット独房なんだよぉ!」
 そう言いながらマクローコ達を一人一人指さしていきました。
 で、事情聴取までされてさらに激しくしょぼくれてしまったマクローコ達は、しゅんとなったままクローコさんの言葉を聞き続けていました。
 
 で、マクローコ達ですが……
 美容室は、書類上はポルテントチップチップス金融に差し押さえられている状態なので使用出来ません。
 住む場所すらない状態だというマクローコ達を、クローコさんが
「みんなクローコの家にくればいいし!クローコがバリ教育するし!」
 そう言いましたので、しばらくの間クローコさんに面倒を見てもらうことにしました。
 マクローコ達には念のため、スアに拘束魔法をかけてもらっています。
 これはマクローコ達の逃亡を心配したわけじゃなくて、マクローコ達にポルテントチップチップス金融の奴らが接触して来た場合に備えたものです。
 スアが拘束魔法をかけておけば、その行動をスアが把握することが出来ますからね。変な連中がマクローコ達に接触してくればすぐにわかるし、すぐに対処出来るってわけです、はい。
 一応僕が身元引受人になっていますから、これくらいはさせてもらっておかないとね。

 その後、クローコさんに散々怒られながら、マクローコ達は転移ドアをくぐって4号店のあるララコンベへと戻っていきました。
「やれやれ、一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなった……かな」
 僕はそう言いながらスアの肩を抱き寄せました。
 すると、その時です。
「て、店長~、そろそろこっちも助けてくれぇ」
 5号店の店内からグリアーナの悲鳴が聞こえて来ました。
 僕が慌てて店内に移動すると、そこにはすごい数のお客さんが入っていまして、まさにすし詰め状態になっています。
「す、すまねぇ店長……ゆ、誘導灯を振り回し過ぎて壊しちまってこの有様だぁ」
 人混みに押しつぶされているグリアーナが、情けない声をあげています。
 ルービアスやジナバレア、トルソナ達も必死にお客さんの応対をしていますが、まったく回っていません。
「こりゃまずい、スア、すぐにアナザーボディをお願い出来るかい?あと、誘導灯の修理を……」
「……任せて、旦那様」
 僕の言葉を聞いたスアは魔法樹の杖を取り出しました。
 同時にその周囲から4体のアナザーボディ達が出現し店内に向かっていきます。
 僕は、そのアナザーボディ達と一緒に店内に向かって駆け出しました。
 さ、ピアーグの案件はとりあえず片付きましたので、今度はこっちです。
 頑張っていきますよ!

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