バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

ゲキオコプンプン丸だよ! その1

 5号店に泣きそうな顔をしながら飛び込んで来たマーリアと一緒に、僕は食堂ピアーグへと駆け込……もうとして、店の入り口のところで思わず立ち往生してしまいました。
「……な、なんだこりゃ?」
 僕の眼前にあるピアーグの玄関なのですが、なんかでっかい壁で覆われてしまっているんです。
 そのため、中に入ることが出来ません。
「……ん?」
 よく見ると、それはただの壁ではありませんでした。
 ゴーレムです。
 ゴーレムの背中です。
 ゴーレムが、店の内部から扉に向かって背中を押し当てて壁代わりにしている感じですね。
 ピアーグの周囲には、早朝営業目当てでやってきてくださっているお客さん達がかなりの数おられるのですが、皆、僕同様にこの壁を前にして困惑しきりといった表情をその顔に浮かべながら遠巻きに眺めています。
 他のお客さん同様に困惑している僕の手を、マーリアが引っ張りました。
 マーリアに連れられて、僕は店のる裏口から店内へと入っていったのですが……
「あん? あんちゃん誰なのさぁ? どっから入って来たのさぁ?」
 そんな僕を目ざとく見つけた1人の女が店内から声をかけてきました。
 その女は、ピアーグの店内のど真ん中にあるテーブルの上に胡座をかいて座っています。
 ダークエルフらしく、褐色の肌で長い耳をしています。
 ……しかし、それ以上に僕の目を釘付けにしたのは、その女の化粧でした。
 明らかに手足よりも黒く塗り固められているその顔には、目の下に真っ白なアイシャドー、唇にはメタリックパープルな口紅がこれでもかってくらい厚塗りされています。頬にはなんか呪術にでも使うんですか?って感じの文様まで書き込みされています。
 で、髪の毛も細かく編み込みされていまして、僕が元いた世界で言うところのコーンロウとか言う髪型に似ています。肩出しヘソ出し腿出し姿でテーブルの上に座っているその女ですが……僕は思わずその女の眼前へと歩み寄りました。
 すると、その周囲を固めていたその女の手下らしいゴブリンが2匹僕の前に立ちはだかりました。
「ようよう兄ちゃん」
「マクローコ姉さんに何か用なのか?」
 そんな事を言っていますが……ちょっと頭にきている僕は、その2匹を無言で押しのけると、ダークエルフの女の前へと到着すると、一言いいました。
「テーブルから降りなさい。そこは物を食べるところであって座る場所ではありません」
「は?」
 僕の言葉に、ダークエルフの女~マクローコとゴブリンが呼んでましたね~その女はきょとんとした表情を浮かべると、しばし後、
「ばっかじゃねぇの、お前ばっかじゃねぇの。何言ってんだよ、ばっかじゃねぇの」
 ゲラゲラ笑いはじめました。
 ですが、
「降りなさい」
 僕は、再度言いました。
 いえね……店内にいる、このマクローコとその手下らしいゴブリン2匹、それに入り口を背中で塞いでいるゴーレムがピアーグの営業を妨害しに来ていることは一目瞭然です。
 ですがそんな中、僕は改めてマクローコへ言いました。 
「いいかい? そこは物を食べる場所だ。座る場所じゃない。今すぐ降りなさい。それから話をしよう」
「はん、やなこった!降ろしたかったら力尽くできな!」
「自分で降りられるでしょう? 今すぐ降りなさい」
「だから嫌だっつってんだろ! わからない奴だなぁ」
 こちらの言葉を素直に聞く相手じゃないのはわかっています。
 ですが、言わずにはいられません。
 このピアーグは、コンビニおもてなしの弁当を作ってくれている関連店ですからね。
 黙って見過ごす訳にはいきません。

 ―30分経過

「いいかい何度でも言うよ、そこは物を食べる場所だ。座る場所じゃない。今すぐ降りなさい」
「だから何度でも言い返してやるよ、やなこってすぅ!」

 ―1時間経過

「いいかい何度でも言うよ、そこは物を食べる場所だ。座る場所じゃない。今すぐ降りなさい」
「……だから嫌だって言ってるじゃんか……しつこいおっさんだなぁ……」

 ―2時間経過

「いいかい何度でも言うよ、そこは物を食べる場所だ。座る場所じゃない。今すぐ降りなさい」
「……な、なんでそうアタシに構うんだよ……ほっとけよ、ほっとけって……」

 ―3時間経過

「いいかい何度でも言うよ、そこは物を食べる場所だ。座る場所じゃない。今すぐ降りなさい」
 何回も、何十回も繰り返しているこの言葉を再度口にした僕。
 その僕の眼前で、マクローコはゆっくりとテーブルから降りました。
「……な、なんでアンタは、こんなアタシにそうやって構うんだよ……おかしいだろ? 罵倒して罵って衛兵でもなんでも呼べばいいじゃんか……なんで……」
 マクローコは、消え入りそうな声でそう言いながらそっぽを向いています。

 僕自身、元いた世界でコンビニおもてなしを営業していた頃にはここまでの度胸はありませんでした。
 店の前にヤンキーなお兄さん達がたむろしていても、見て見ぬフリをするのが関の山でしたから……
 ですが、こっちの世界にやってきてコンビニおもてなしを大きくしながら、その責任者として色んなことを経験してきたからでしょうか。
 とにかく、このマクローコ達ととことん話し合わないといけないと思った次第です。
 それには、まず、テーブルから降りてもらい、同じ目線で話をしないと……
 衛兵を呼んで排除してもらうのは簡単です。
 ですが、それではマクローコ達は明日またやってくるでしょう。
 そうならないためにも、まずはしっかり話し合わないと……そう思ったわけなんです。
 ……それに……なんといいますか、このマクローコ……どこか他人に思えないんですよね……姿といい、ダークエルフという種族といい、この化粧といい……なんか僕、このマクローコによく似た人を知っているような気が……
 その時でした。

「マクローコってばぁ!」
 そんな声と同時に、店の入り口を塞いでいたゴーレムが吹っ飛びました。
 店の外からぶん殴られたらしいゴーレムは、宙を舞い、店内に落下しました。
 その扉の向こうには、4号店のララデンテさんとクローコ店長の姿がありました……って、え?なんで?
 困惑している僕に、ララデンテさんがニカッと笑いました。
「スアさんから思念波で連絡があってね、なんでもクローコ店長の身内がタクラ店長の邪魔をしてるからすぐ行けって」

 ……あぁ

 ララデンテさんの言葉を聞いた僕は、ようやく納得しました。
 そうだ、クローコさんだ。
 このマクローコってば、クローコさんにそっくりだったんだ。
 脳内でスッキリボタンを連打している僕の眼前で、クローコさんはマクローコににじりよりながらその胸ぐらを掴んでいます。
 そう言うと、なんか切迫した状況のようですが、クローコさんってば、なんかスキップしながら、かつ、体をクネクネさせながらにじり寄っているもんですから緊張感がかなり削がれているのも事実です。
「マクローコってばぁ、こんなとこでなんてことをしてるのかしらぁ? クローコお姉ちゃんゲキオコだよ!ゲキオコプンプン丸だよ!」
「ちょ……そ、そんなこと言われてもぉ、マクローコ困っちんぐだしぃ……クローコお姉ちゃんの知り合いの店だったなんて知らなかったしぃ……」
 クローコさんとマクローコは、そこまでしなくても良いだろうって程に、身振り手振りを交えながら会話を交わしていました。
 
 で、その姉妹間の話合いの結果わかったのがですね……

 マクローコは、このナカンコンベで美容室を開いていたそうなんですけど、同業他社に押されまくって気がつけば借金だけが雪だるま式に増えていたそうです。で、お金を借りている相手に借金の返済を待ってもらうかわりに、その命令に従ってこういった嫌がらせ行為なんかをしていたんだとか。
 まぁ、その美容室で、このヤマンバメイクや超個性的な髪型ばかり推していたっていいますので……いくらここが僕が元いた世界とは違う異世界だと言っても、そう簡単には流行らないでしょう。
 ……何しろ、この世界でヤマンバメイクをした人に出会ったのって、今僕の目の前にしるクローコさんとマクローコの2人だけですからね。

 で、マクローコ達を店の裏へと連れていった僕達は、そこで改めて話を聞きました。
「しかし、借金の返済を待つ代わりに嫌がらせを命じられたって、なんかすごい話だなぁ」
「……そうなんよぉ……アタシみたいにさぁ、余所から流れて来た奴にはさぁ、まともなとこはお金を貸してくんなくてさぁ……ちょっちやばいとこからお金を借りちゃってさぁ……」
「やばいとこ?」
「うん……ポルテントチップ金融っていってさ……あ、こないだポルテントチップチップス金融って名前変えたんだっけ」
 マクローコの言葉を聞いた僕は、思わず額に手をあてがいながら大きなため息をつきました。

 ……またポルテントチップ絡みかぁ

しおり