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11話

家に帰って、ニコをベッドに寝かしても、起きることはなかった。
朝も先に起きていたし、買い物中もはしゃいでいたから疲れたのだろう。
室内遊具は、一緒に作ることにしたので、一先ず取り出しはしたが隅にそっと置いておいた。

「そういえば和菓子作ったことなかったかも」

ふと思い立って、和菓子のレシピを思い出してみる。
おやつと言ったらケーキやクッキーが先に思いつくが、和菓子もいろいろある。
洋菓子はパティシエール(当時は見習いだったが)の従姉に教わったが、和菓子は祖母だ。
こっちも色々覚えている。簡単なものなら団子辺りか。しかし急なので材料がない。
他に何かないかと考えて、一つ思い浮かぶ。

「あ、どら焼き!」

和菓子で一番最初に覚えたものを、なぜ忘れていたのだろうか。
これなら材料もそろっている。ないのは餡だが、こちらは問題ない。
早速作ることにした。

「えーっと、卵と砂糖を混ぜて…」

お菓子を作るには珍しいみりんをはちみつと一緒に入れる。
水溶きした重曹を加えてから小麦粉を入れ、一度そのまま置く。生地を休ませるためだ。
その間に粒あんを用意する。任意加工の出番だ。そんなに多くはいらない。
粒あんを用意し終わったら生地に戻る。また水を加えて混ぜて、焼くだけだ。
パンケーキと同様の焼き方をしていく。妖精にも食べやすいように少し小さめに。
片側は焦げないようにけれどしっかり焼いて、反対側は火が通れば生地の出来上がりだ。

途中で作った粒あんを挟んで置いていく。
すべて挟み終わったところで、目を覚ましたニコが下りてきた。
目が合うと嬉しそうに駆け寄ってきてギューッと抱き着いてくる。

「マーマ!」
「おはよう。よく眠れた?」
「うん!」
「ちょうどおやつ出来たところだよ。食べようか」

ニコに牛乳を用意して、自分はどうしようと悩む。
どら焼きにはお茶というのは祖父母の影響があるのだが、コーヒーや牛乳にもあう。
どちらも捨てがたい。ということで、間をとってカフェオレにした。気温高いのでアイスカフェオレだ。

「みんなーおやつだよー」
「はーい!」
「やったー!」
「なになにー?」

ユキと遊んでいた子たち(半数はお手伝い)が集まってくる。
ユキにもおやつをあげてからテーブルについた。

「今日はどら焼きだよ。和菓子は初めてだけど」
「どらやきー!」
「パンケーキじゃないのー?」

確かに、生地だけなら見えなくもないかもしれない。
だが味は全然違う。気に入ってくれるといいのだが。

「おいしー!」
「わー!なにかでてきた!」

みんな気に入ってくれて、キャッキャしながら食べてくれる。
ニコも、粒あんをほっぺにつけながら食べていた。

「あ。ニコ、ついてるよ」

取ろうとしたときには反対側にもついていた。
ハグハグと食べている姿がまたかわいい。


食べ終えて、片付けも済ませた所で、室内遊具に取り掛かった。
買ってきたのは、好みに合わせて形を変えられるタイプなので、組み立て式だ。
プラスチックに似た何かで作られたパイプを繋ぎ、滑り台を取り付けて、ブランコの座る部分をつけるだけで完成する。
作っている間、妖精たちも興味深げに見ていたし、ユキは遊んでくれるのかと思ったのかじゃれついてくる。
ちょっとやりにくかったので、ロズ達一部の要請に引き付けてもらうことにした。


「…よし、これでいいかな」

それからすぐに、遊具が完成した。
ジャングルジム、滑り台、ブランコ。途中で気が付いたが、パイプの繋ぎ方によっては鉄棒だったり短いけどうんていにもなりそうだ。今回はしていないけど、また別の形に作り直してもいいかもしれない。
しかし…

「さすがにちょっと狭くなっちゃったかな…?」

室内遊具を置くことを想定していなかったので、リビングが少し狭くなってしまった。
ユキのキャットタワーも結構な幅をとっている。
狭いところだと自由に遊べないしどうしようかと考えたところで、思いつく。

「あ、そういえばバルコニー全然使ってないや」

最初、家を建てたとき、寝室からも出れるようにバルコニーも作ったのだ。
けれど、今まで使う機会が全くなかったので未だに手つかず。ガランとしたままだ。

「室内じゃなくなっちゃうけど…ニコ、いい?」
「?」

ニコはいまいち、何のことか分かっていないようだ。
一緒に二階へ行き、バルコニーを見せる。
廊下とは扉がついているし、寝室からはガラス扉で仕切っているので行き来しやすい。
それに何より、まだ何も置いていないので広々としている。

「やっぱり遊ぶなら外のほうが気持ちいいよね。どう?ニコ」

場所を移動することに最初は驚いていたけど、特に嫌がることはなく、出して(タブレットに一度仕舞って持ってきた)あげれば、さっそく遊び始めた。
滑り台で滑ってみたり、ジャングルジムのてっぺんまで行くと目線が高くなって嬉しいのかこちらに向かって手を振ってきたり。ブランコは使い方がわからないのかきょとんとしてたけど、背中を押して動かしてあげれば喜んでくれた。


ひとしきり遊んだ後、汗もかいただろうしお風呂に入ることにした。
準備が終わるまでは絵本を見て待っててもらう。
お湯を張ってる間にご飯を仕掛けておいた。


「さ、今日はオムライスだよ」

お風呂から出たら夜ご飯。
少しずつスプーンの使い方に慣れ始めてきたので、小さいが普通の形のオムライスにしてみる。
嬉しそうに食べ始めたと思ったら、一口目でピタリと動きが止まった。

「ニコ?どうしたの?」

顔を覗き込めば少し涙目に。おそらく、苦手な食材があったのだろう。
卵と鶏肉は除外する。残り入れたとしたらニンジン玉ねぎピーマン。子供が嫌いな野菜代表だ。

「ごめんね。嫌いな物入ってたんだね。無理して食べなくていいよ」
「ん-!」

吐き出させようと小皿を口の下に差し出すが、それは嫌がり、なんとか飲み込んだようだ。
嫌なものを頑張って食べたことをほめつつ、何が嫌だったのか探る。
中に入れた食材を3つ取り出せば、クンクンと匂いをかいで、顔をしかめた。

「そっか。ピーマン苦いもんね」

一昨日、フードコートで食べたチキンライスには、確かに入っていなかった。
昨日、カレーに入ってたニンジンと玉ねぎは気にすることなく食べていた。
今日ピーマンを初めて食べたのだろう。知らなかったとはいえ、悪いことをしてしまった。

「ごめんね。作り直してくるから待ってて」

ニコが食べてる間に自分のを作ろうとしていたから、そこからピーマンを除いて作り直す。
今度は入ってないことを伝えてテーブルに置くと、涙で潤ませた目で見上げてきた。ちらりと、食べかけのオムライスに目を向ける。

「こっちはママが食べるから大丈夫だよ。ゆっくりでいいから、ピーマンも食べれるようになろうね」

そう問いかければ、コクリとうなずいて新しいオムライスを食べ始めた。

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