10話
次の日。
ニコが楽しみにしていた遊具を買おうと再びショッピングモールにやってきた。
当然、公園にあるような遊具は買えないけれど、家の中で遊べる滑り台とジャングルジム、ブランコがセットになった小さいものを買った。あとトランポリンにも目をキラキラさせていたので買った。
「帰ったら早速作ろうね」
「うん!」
一晩で短いけれど返事ができるようになったニコは、嬉しそうにそう頷いた。うちの子可愛すぎる。
せっかく(?)だから本屋も寄って、一昨日買った絵本シリーズのセットも追加で買った。絵本も気に入っているから、あって困らないし、少ないと飽きてしまうから。
嬉しそうにピョンピョンしながら歩くニコ。
人がそばを通るときはまだちょっとビクッとなって陰に隠れるけれど、少しだけ平気になった。人込みはまだだめだけど。むしろ、人込みでピョンピョンしなくて良かった。
そんなことをしながら、リックの家へ着いた。まだ店は始めていないようで、店の中はシーンとしていた。
だからか、扉の音が聞こえたらしいリックと、来ていたハロルドが顔を出した。
「あ、ココロさん。お帰りなさい」
「ただいま~」
以前、家でもないのに「お帰り」「ただいま」は変だと申し出たが、色々言い含められた結果そこに落ち着いてしまった。
確かに国家間を行き来しているのだから、国に帰ってきたなら間違いではない。と、思い込まされてしまった節もある。
「その子の買い物?」
「そう。遊び道具が欲しくてね。なかなか良いのがあったよ」
「そっか」
そうココロと話しながら、ハロルドは目線をニコに合わせる。
最初に出会ったのがハロルドだと覚えているのか、初めてリアラに会った時のようにオドオドすることはない。
が、ココロの陰に隠れている。少し緊張しているようだ
「ニコ、大丈夫だよ」
安心させるように抱き上げれば、緊張が解れたのがわかる。
「ニコ?」
「うん、この子の名前。最初の日の夜に夢で、名前が欲しいって。あ、連れてった日はそうでもなかったけど、夢で話ができた後、こっちの言うことは分かるようになってたよ」
「へー。夢でリンクでもしたのかな。能力もそれに関するものかも」
「あ、やっぱりそう思う?」
軽く何があったのかを話せば、ハロルドもそう解釈した。
というより、それ以外理由が思いつかないのだが。
「ホントに懐いたねー。ここに来たばかりの時は警戒心バチバチだったのに」
「確かに。部屋の扉開けるだけでカーテンの陰に隠れてたのに」
確かにそのころのことを考えると、別人と思えるかもしれない。
それに加えて、髪も洗ってさらさらしているし、今日はツインテールにしている。
真新しい黄色のワンピースがとても似合っている。
「あ、もしかしたら」
保護したハロルドや、数日同じ家にいたリックには一切警戒を解かなかったニコが、なぜ一度会っただけのココロに警戒を解いたのか、理由が何となく分かった。
それはあの夢で気づくべきだったのかもしれない。
「何かわかったの?」
「うん。さっき言った夢の中で、一番最初に「ママ」って、呼んだの。だからもしかしたら、本当のお母さんにどこか似てるんじゃないかなって」
今では、ニコの中でココロのことは母親となっている。
いつどこでそう認識したのかは分からないが、だからこそ警戒が薄れたのかもしれない。
「あ、そうそう。簡単にだけど、もう言葉もしゃべれるよ。最初に喋ったのも「ママ」だった」
「え、もう!?まだかかるかと思ってたんだけど」
「うん、私もびっくりした。あ、昨日リアラに見てもらったんだけど…」
「二人とも、立ち話もいいけど、せっかくだから座ったら?ココロさん、ずっと抱っこしてたら疲れますよ」
いつの間にかいなくなっていたリックが、呼びに来る。
そういえば立ったままだったし、ニコを抱いたままだったから腕が少し疲れてきた。
リックに促されるまま、テーブルに着いた。
「少しゆっくりしてって下さい。試作のスイーツあるので。ニコちゃんはジュースが良いかな?」
「あ、ありがとう。ニコ、ジュースでいい?」
「うん!」
「お、いい返事。リック、俺はコーヒーね」
「はいはい」
ハロルドと、途中合流したリックとの会話は盛り上がった。
時間も時間だったのでお昼もご馳走になったところだ。
ニコの話から始まったはずなのに、今はココロの話になっている。
「最初から果樹園はあったし、農園や飼育はスキルでまかなえてるからねー。正直、手持無沙汰ではあったかな」
「あ、もしかしてあれ?ワーカーホリックっていうあの」
「うー、そうじゃないと思いたいけど」
手が空くと何かやれることはないかと探してしまうのは、まだやってしまう。
時間できたから本を読もうと座っても、30分程で別のことが気になってしまってなかなか読み進められなかったりする。
「まぁ、今はニコもいるから、それもなくなってきたけどね。まだ仕事らしい仕事をやってなかったけど、それで良かったとは思ってるよ。お金には困ってないしね」
「そっか。ま、もし探し始めるようだったら一緒に探すから、遠慮なく言っていいよ」
「ありがとう。そうする」
ご飯を食べて少しして、眠くなったニコはココロの隣で小さな寝息を立てている。
念のためソファー席に移動していたので、少し窮屈かもしれないが落ちることなく寝ている。
その小さな頭をなでながら時計を確認すると、だいぶ時間がたっていることに気が付いた。
「あ、かなりお邪魔しちゃってたみたい。そろそろ行くね」
「あぁ、そうだね。帰り、気を付けて」
「クッキーいるから大丈夫。じゃあ、また」
ニコを起こさないようにそっと抱き上げて、二人に別れを告げて帰路へ着く。
その後、ニコが起きたのは自宅のベッドの中だった。