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第5話

 意識を取り戻してから1ヶ月。骨折の手術は一度に全部は無理とのことで数回に分けてだった。映画で見たようなマスクを付けて眠っている間に終わるのかと思っていたけれどそうではなく脊椎麻酔など部分的な麻酔で全て意識のある状態での手術。身体の深い場所に鈍痛を感じるような手術で我慢は出来るけれどあまり気分のいいものではなく『早く全部終わりたい』そう思わせた。
 ここからは我慢の毎日。幸いなことに右腕と内臓が無事だったので食事だけはどうにか自分で摂れる。1日2回の点滴以外はやることも出来ることもない毎日。ひたすら動けるような状態まで我慢。それでも祥子ねぇが毎日顔を見せてくれるのがせめてもの楽しみだった。
 その日朝の検診で先生の言葉にオレは喜びを隠せない。
「うん、今日レントゲン撮って、状態がよければ車椅子での外出許可を出すよ」
最近では病院内なら電動車椅子で移動していたけれど、
「学校に行けるってことですか」
「あくまでも状態がよければで、病院からの通いだけどね」
 結果は良好。まだ自力で歩くのは無理だけれど、明日から学校に行ける。嬉しさに顔が緩みっぱなしだ。
「瑠宇、具合はどう」
祥子ねぇだ。意識の無いうちから毎日来てくれていたそうで、それを聞いた時には気づいたら頬が濡れていた。
「うん、今日は検査の結果が良くて、明日から学校に行けるよ」
とたんに花が咲いたような笑顔で
「よかったね。少しずつ頑張ろう」
この時の祥子ねぇの顔はきっと一生忘れない。大好きな祥子ねぇがオレのために喜んでくれた素敵な笑顔を。
 翌日から母さんに車で送り迎えをしてもらいながら学校に通い始めた。学校では友人達が
「もう大丈夫なのか」
「困ったら言えよ」
「幼馴染の彼女を助けての怪我だってな。男だな」
等と暖かい言葉や、ちょっとした揶揄う言葉にほっこりしたり照れたりして学校に戻った実感を感じ
「まだ、十分には動けないけど頑張るよ」
と返した。
 最初は、落ちた体力と慣れない車椅子での生活で病院に帰る頃には疲労困憊していたが、その疲れさえ復帰への階段と思えば辛くはなかった。そして祥子ねぇが休み時間となれば教室に来てくれて世話を焼いてくれ心の中に仕舞いこんでいた気持ちが温かみを増してきた。でも、今はまだ言えない。今言ったらオレは卑怯者になる。この気持ちを言葉にするためにも今は我慢して頑張る。

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