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5号店開店 その6

 翌日。
 前日同様、本店の厨房で弁当作成作業を終えた僕は転移ドアをくぐってナカンコンベにある5号店へと移動していきました。
 すでにルアやルア工房の皆がやって来ていて建物の改修作業を開始していたのですが、店の外へ目を向けた僕は思わず目が点になりました。
 壁にある窓という窓からすごい数の人々が覗き込んできているんです。
「あぁ、店長見ての通りだ」
 僕に気がついたルアが苦笑しながら歩み寄って来ました。
「おいおい、まさかとは思うけど……あれって試験販売目当てでやってきてるお客さんなのかい?」
「あぁ、そのまさかさ。さっきから販売はまだかまだかって聞かれまくってるぜ」
 ルアの言葉を聞いた僕は改めて窓の向こうへ視線を向けました。
 そこから見えるだけでも、すでに昨日どころではない数の人々が殺到しているのがわかります。
「うわ……こりゃやばいな……」
 改装中の店内を試験販売に使用出来るのは早くて明日からです。
 かといって、昨日のようにリヤカー屋台を出したとしても、この人数が殺到したのでは順番待ちの行列がとんでもないことになり、街道を封鎖してしまいかねません。
 僕は困惑しながらその行列を見続けていたのですが……
「……ん?」
 よく見ると、その行列の隙間を縫うようにしながら前に出てくる一人の女の姿が見えました。
 小柄で眼鏡のその女の子は、よほど存在感が希薄なのか殺到しているお客さん達にほとんど気付かれていないらしく、その隙間をスイスイと移動していき、やがて店の出入り口前まで到達しました。

 コンコン
「……あのぉ……向かいのドンタコスゥコ商店の者ですぅ……」
「へ? ドンタコスゥコ商会の人!?」
 その女の声を聞いた僕は、慌てて出入り口へと移動していき、その女を店舗内へ入れました。
「ふぅ……たどり着くのが大変でした……」
 妙にローテンションな感じでそう言ったその女。
 そう言えば、先日ドンタコスゥコと店で話をしていたときにお茶を持って来てくれた女の人で間違いありません。
「先日はご挨拶も出来ずに申し訳なく……」
 そう言いながらその女は僕に向かって名刺を差し出しました。
 その名刺には、
『ドンタコスゥコ商会 店舗責任者 ネラミコン』
 と書かれていました。
「ドンタコスゥコ会長は隊商を率いてだいたいどっか旅をしています……だから私がこの店舗の管理を任されてます」
 そう言い、その女~ネラミコンはペコリと頭を下げました。
「あぁ、そうなんですね。ご丁寧にありがとうございます。こちらこそこれからもよろしくお願いします」
 僕もそう言って頭を下げ返しました。
「それでですね、早速ですがご提案」
 そう言うと、ネラミコンは窓の外へ視線を向けました。
「店長さん。昨日のように外で販売をなさるのです?」
「あ~……店舗での販売が明日にならないと出来そうにないので、今日だけはそうするつもりだったんですけど……」
「もしよろしかったら、ウチの店の2階を使いません?」
「ウチの店って……向かいにあるドンタコスゥコ商会の建物2階です?」
「はい。2階は催事場になっていまして大規模な展示即売会などをする際だけ店舗として開放しています。今日はイベントを行っていませんので、試験販売の会場としてお貸しすることが可能です」
 ネラミコンは、相変わらずローテンションなままそう言いました。

◇◇

 僕とネラミコンは、その足でドンタコスゥコ商会へと移動していきました。
「おい店長さん、販売はまだか?」
「待ちくたびれたよ」
 そんな僕に、待たれているお客さん達が一斉に声をかけてきました。
 で、僕はそんな皆さんに苦笑しながら
「あぁすいません、今準備中ですので、もう少しお待ちください」
 何度も頭を下げつつ、そう言葉を返していきました。

 ネラミコンと一緒にドンタコスゥコ商会の中へと移動。
 店は開店前らしいんだけど、店内ではすでに多くの女性店員達が忙しそうに開店準備を進めていました。
 ドンタコスゥコ商会って、全店員が女性だったんだよな、そういえば。
 僕は店内にある幅広な階段へと案内され、そのまま二階へと上がっていきました。
 階段を上がるなり、そこには広いスペースが広がっていました。
 壁際には展示物を陳列するために使用するらしい棚や机が空の状態で整理整頓された状態で並べられています。
「よかったら、ここで試験販売をしてはいかがでしょう?」
「え?マジですか? 確かにこんだけ広いと助かるけど、ホントにここ借りていいんです?」
「まぁ……ぶっちゃけますと、ウチにとっても美味しいんですよね。そちら目当てのお客様が、当方の一階店内を通って二階に移動し、同様に店内を通ってお帰りになるわけですから」
 あぁ、なるほど。
 コンビニおもてなしの試験販売目当てでやってきたお客さんに、ドンタコスゥコ商会の店内を通って移動してもらうことで、ドンタコスゥコ商会の品物も見てもらい、あわよくば買ってもらおうってことか。
 いわゆるシャワー効果ってやつですね。
「わかりました。ドンタコスゥコ商会さんにもメリットがあるってことなら遠慮無く使用させてください」
 僕がそう言うと、ネラミコンは
「では、本日はよろしくお願いします」
 そう言うと、相変わらずローテンションなまま、頭を下げていきました。 

 その後、僕はすぐにトルソナとグリアーナ、そしてシャルンエッセンスをドンタコスゥコ商会へ呼び寄せ開店準備を始めました。
 こうしてしっかりとした場所で試験販売を出来ることになったわけですし、本番を想定してやってみるのもいいだろうと思った次第です。
 すると、いつの間にか店内に4体のグリッター状の人型が出現し、棚だしや商品陳列を手伝いはじめてくれていました。
 スアが魔法で出現させているアナザーボディ達です。
 僕がシャルンエッセンス達を慌てて呼びに戻ったりしていたので、スアが気を効かせてくれたのでしょう。
 実際、この4体が加わってくれたおかげで試験販売の準備がすごく早く出来ました。

 階段から一階を見てみますと、ネラミコンが中心になって店舗の入り口から催事場へつながっている階段までの間の店内スペースを開けて通路状態にし、その左右にドンタコスゥコ商会の品々を巧みにディスプレイし直している最中でした。
 昨日、僕達が弁当などを販売していたことも把握しているらしく、その一角には休憩スペースが設けられており、無料で飲み物を配布する準備も進められています。で、その周囲にもしっかり商品が並べられているんですよね。
 おそらく、今までに2階でイベントを行った際にも同じ事をやっていたのでしょう。
 ドンタコスゥコ商会の準備も手際よくテキパキと進められていました。

 その後、30分ほどでコンビニおもてなしもドンタコスゥコ商会も準備が整いました。
「では、やりますね」
「では、やりましょう」
 僕とネラミコンは頷き合いました。
 すると、ドンタコスゥコ商会の販売店員らしい、猫耳と兎耳の亜人の女の子達が笑顔で店の出入り口の扉を開け放ちまして
「さぁ、コンビニおもてなしの試験販売ですニャ」
「今日はドンタコスゥコ商会の二階催事場にて開催ですぴょん」
「皆様、こちらへお並びくださいですニャ~」
 笑顔で、華やかな声をあげていきました。
 すると、コンビニおもてなしの店舗前に殺到していたお客さん達が一斉にドンタコスゥコ商会の建物へと移動してきました。
 その大行列を、亜人の店員達は手慣れた様子で列にしていきまして、順番に店内へと移動させていきます。
「あの動き……さすがですわね……これは参考にさせていただきませんと……」
 それを見ていたシャルンエッセンスは、そう言いながら亜人の女の子達の動きをジッと見つめていました。
 とは言いましても、そのお客さん達の目当ては僕達コンビニおもてなしが試験販売を行っている二階催事場ですからね。
 シャルンエッセンスも、その様子を見ている余裕などすぐになくなってしまった次第です、はい。

 こうして、急遽行われたドンタコスゥコ商会の二階催事場を利用しての試験販売は、昨日とは比べものにならないほどスムーズにスタートすることが出来ました。

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