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 珠雨が起きたのは朝の六時半だった。なんとなく気まずいと思いながらも着替えをして一階に降りてゆくと、店の片隅で禅一がノートパソコンを開いて作業していた。
 コーヒーが傍らに置いてあり、愛用の電子タバコを吸い、何やら考えながら打ち込んでいる。

「お、はようございます。お仕事ですか? 早いですね」
「ああ珠雨……もうそんな時間か。ごめん朝ごはん用意してないや。ちょっと気分転換に仕事してたら朝になっちゃって」
「えっ」

 どことなく不機嫌な感じがする。夜中妙な気配を察知したので、氷彩と何かしていたと思うのだが、もしかして寝ていないのだろうか。

「禅一さん、どうかしたんですか?」
「え、どうかって……何故?」

 掛けていた眼鏡を少し持ち上げて、表情を切り替える。眠そうではあるが、いつもの禅一に戻っていた。

「さっき険しい顔、してたから」
「ごめん、そんなだった? 少しね……自己嫌悪してただけだよ。とりあえず一旦仕事はやめようかな。僕は朝の準備するから、珠雨は氷彩さん起こしておいで」

 言いながらも、大きなあくびをしている。
 パソコンを閉じて立ち上がると、禅一は朝食の準備をする為にヒトエの厨房に立った。二階にもキッチンはあるが、大抵ここで作ってしまうのであまり意味はない。

「母を起こしてきます、ね」

 昨夜布団を敷いた控室に行くと、既に氷彩は起きていた。布団はたたまれ、端にまとめられている。

「おはよ珠雨。ママこれからお風呂借りてくるね」
「禅一さんとは別れたんじゃ?」

 知らないふりをしようかとも思ったが、つい嫌味を口にしてしまう。朝からなんだかつやつやしている氷彩が、禅一と対照的だった。禅一の不機嫌は、氷彩と関係しているに違いない。

「えっなに珠雨、なんか怒ってる?」
「禅一さん、自己嫌悪とか言ってたけど。なんかした?」
「え、なんだろう……ママは浅見にエステして貰っただけだよ?」

 氷彩は心当たりがなさそうに、明後日の方を向く。
「エステって?」
「女性ホルモンがいっぱい出ちゃうエステ。めちゃくちゃ気持ち良いんだよ」
「なんか卑猥に聞こえるんだけど……」
「気のせい気のせい。さっお風呂もらおーっと」

 意味深に微笑んだ氷彩は、珠雨をその場に置いてきぼりにして、その場を去った。深く突っ込んで聞くのはどうかと思い、もう放っておくことにした。
 それよりも今日は、やることがある。
 天気はあまり良くないが、予定通りに行動する。その為の準備も万端だった。

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