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第103話 そしてドラゴンスレイヤーへ

 僕とミーアは、ウィンドドラゴンの最期を看取ることになった。あれだけ激しく殺し合った敵だったのだけれど、今は何か物淋しさを感じるのは僕たちの勝手なのだろう。腰を下ろした僕たちの間にしばらくしんみりとした空気が流れた。そんな気持ちを持て余し手元の石を拾っては投げる。それでも
「このまましんみりしている訳にはいかないか。本隊に合流しないとな」
「うん。東に進んでもらったんだよね。でもフェイ大丈夫なの。ブレスと魔法をだいぶ……」
言われて僕は思い出し、自分の身体を確認する。まずはブレスで削られた左腕を……。いや、そもそも魔法を全身に受けて
「なんともないよミーア」
僕自身、納得がいかないのだけれど、身体には何の異常もない。
「これがウィンドドラゴンの言っていた祝福の力、なのかな」
「でもウィンドドラゴンの祝福というにはなんとなく違くない」
僕もこの異常な回復力をウィンドドラゴンの祝福というのは違和感がある。そこで
「ちょっと試してみるかな」
近くの木に向かい手をかざしウィンドドラゴンの魔法をイメージしてみた。そうしたところ何か不可視の力が手から放たれ、ターゲットとした木とその周辺にカマイタチが荒れ狂った。抉れた地面とズタズタに切り刻まれた木々を前に呆然とする僕にミーアがつぶやいた。
「風魔法ね。これだけの威力の魔法って使える魔術師も中々いないと思うけれど」
そう言いながらミーアも左手を伸ばす。僕が狙ったのとは別の木が粉々に砕けた。
「まさかブレスまで吹けるわけじゃないだろうな」
「さすがにブレスまでは……」
言いかけてミーアが黙る。僕がちょっとだけ息を吸い吐き出す。何も起きなかった。ホッとしながらミーアを見ると。何か考えている。
「ひょっとしてイメージをしながら……」
なんとなく不穏な空気を感じ話を変える。
「それよりも本隊と合流しよう。師匠も心配しているだろうし」
手の中の”砂”を放り投げ立ち上がりミーアに手を伸ばす。ミーアの手を握り引き起こした。
「行こう」
僕たちは倒したウィンドドラゴンを魔法の鞄にしまい、ついでに僕はボロボロになった防具の上にいつものフード付きコートを羽織る。後始末を終え僕たちは調査団本隊が向かった方向に歩き出した。
 調査団本隊にはさほど時間を掛けずに追いつくことが出来、師匠と再会を喜び合う。
「2人ともよく生きて戻った」
「師匠もご無事でなによりです」
「ドラゴンは」
師匠の短い問いに
「どうにか」
とだけ僕は答えた。
「新しいドラゴンスレイヤーの誕生だな」
「別に称号なんていらないんですけどね」
あの体験は心と身体の両方にきた。
「ま、別に邪魔になるものでは無いさ」
「その話は、ここまでで。仕事の話をしましょう」
「うん。そうだな。で、どうだ」
「さすがに、このあたりが限度だと思います」
「そうだろうな、ドラゴンが出てくるようではな」
僕は頷きつつ、調査団団長のブルーノさんに水を向ける。
「ブルーノさん。聞いての通り、このあたりが調査の限界だと思います。これ以上奥への調査は危険が大きすぎると判断しますので、この場での調査を最終として帰還します」
「わかった、この地の調査に1日だけくれ。それを最終として帰還しよう」
「では、明日1日を最後の調査日とします」
僕のその言葉が最終決定となった。
 結果として最終日には何も起こらなかった。魔獣との遭遇もドラゴンの襲撃も何も僕の探知範囲にも何も入ってこなかった。護衛としては特にやることがなく時間を持て余すけれど、何もない方が良い。
「では、これをもって帰還します。みなさん疲労してきていると思いますが、気を抜かず調査結果を持ち帰りましょう」
 そこから9日掛けて森を抜け12日後に僕たちはエイリヤに無事帰還した。

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