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第102話 風竜の祝福

 翼を広げたウィンドドラゴンが空に舞い、僕たちの剣は空を切った。およそ50メルドの空、地上であればほんの僅かなその距離が空であれば剣を届かせない。もはやこれまで、一方的な蹂躙を受けるしか……、もし僕たちが戦士や剣士であったならそうだろう、ウィンドドラゴンもきっとそれを狙っている。でも、僕たちは狩人だ。鍛錬と経験から上位の戦士や剣士に勝るとも劣らず剣を扱えるけれど。だからウィンドドラゴンのこの行動は飛び上がったように見えて僕たちの本来の戦いのフィールドに降りてきただけ。だから焦る必要はない。僕は深呼吸をひとつ、そして
「ミーア。これは僕たちの間合いだ。やるよ」
「はい、逃がしません」
僕は漆黒の長弓を、ミーアは白緑の狩弓を手にした。つがえるのはオリハルコンの鏃をもたせた矢。そして何よりウィンドドラゴンは空に逃げて油断している。狙うべきはやはり
「ミーア、目だ」
「うん」
「僕が右、ミーアが左。目を潰したら頭部を下から、そして魔法陣展開してきたら口にぶち込む」
「わかった」
「たかがでっかいトカゲが空を飛んでいるだけだ。やるよ。タイミングはミーアに合わせる」
「はい、いきます」
そして射る。2筋の金色の光が空を彩り、空にいるウィンドドラゴンを襲う。それはウィンドドラゴンにとって想定外の事だったのだろう。だから対処が一瞬遅れた。そしてその一瞬の遅れはウィンドドラゴンが金色の光から逃れる時間を奪うことになる。できたのは目をつぶり、竜の鱗に覆われた瞼で目を守る。それだけだった。これが鉄の鏃の矢だったなら、多少の傷こそ負ったかもしれないけれど、その頑強な瞼は矢を弾けただろう。けれど、今僕とミーアが放ったのは勇者の剣、聖剣にさえ使われるオリハルコンの鏃を使った矢、それに僕たちは祝福の力をのせて放った。いくら頑強な竜の鱗とはいえ瞼程度ではさほどの抵抗もなく貫く。そしてウィングドラゴンはは両の目を失った。そこでウィンドドラゴンは怒りのままに魔法を放とうと顎を開き魔法陣を不用意に展開した。これこそ僕たちの求めたチャンス。僕もミーアもここぞとばかりに矢を射る。金色の光をなびかせ数条のオリハルコンの鏃をもつ矢がウィンドドラゴンの口腔を穿つ。展開されていた魔法陣は消滅し、もはや口を閉じることさえできなくなったウィンドドラゴンが力なく落下してくる。”ドオオオン”大きな地響きと共に地に伏せる竜の身体から何かキラキラしたものが飛び散っているのが見える。僕とミーアは慎重に歩を進め力なく横たわるウィンドドラゴンに近づいた。僕とミーアが剣の間合いに入るとウィンドドラゴンは唐突に声を出した。
「小さく大きな人の子よ」
咄嗟に僕たちは剣を構える。
「慌てることは無い。我はもう戦う事はかなわぬ。お前たちの勝ちだ」
そこにはすでに敵意も戦意も無かった。
「最後に、我を正面から打ち破ったお前たちに持って行ってもらいたいものがある」
「持って行って欲しい物」
僕が訝し気に聞くと。
「何、別に手に持っていくようなものでは無い。しかし、我の存在そのものといえるものだ。受け入れてくれぬか。お前たちなら器として十分だろう」
僕とミーアは少し困惑したものの、死の直前の願いとあればと頷いた。
「受け入れよう」
「あたしも受け入れるわ」
「感謝する」
ウィンドドラゴンの言葉と共に今までキラキラと飛び散っていたものが僕たちに向かってゆっくりと収束してくる。ハッとして身構えたけれど、特に異常はない。ミーアを見ると
「うわあ、綺麗ね」
と喜んでいる。特に熱いとか痛いとかもないので様子を見ていると、集まってきたキラキラしたものがゆっくりと僕たちの中に入ってくる。
「これは、なんだ」
僕が疑問を口にすると
「言っただろう。我の存在そのものだと」
「存在そのものと言われても何のことだか」
「ふふふ、お前たちの言葉では祝福というのだったか。それを受け入れることでお前たちは我の力を身に宿すことになる。我に打ち勝った褒賞だと思って持っていけ。それは濁ることがなければお前たちの子々孫々まで受け継がれるだろう」
そこまで話すと、ウィンドドラゴンは口を閉ざし首を地に降ろした。

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