バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第71話 間引き

 翌日から騎士団2部隊が僕たちのサポートについてくれることになった。なったのは良いのだけれど。
「何をしているんですか」
目の前にずらりと並んでいるのは、フル装備の騎士団の皆様。
「おふたりを完全サポートする準備です」
僕とミューは頭を抱えた。騎士団のフル装備。つまりはキンキラキンの金属鎧。フルプレートほどではないけれど何か動くたびにガチャガチャとやかましい金属音をまき散らす。それがこれだけ大人数でいたら、それは魔獣に襲い掛かってきてくださいというようなもの。僕もミューも大きなため息をついた。
「ルーカスさん、いや騎士団長を呼んでください」

 ルーカスさんはすぐに来てくれた。
「ルーカスさん、騎士団の皆さんの装備はなんとかなりませんか」
「装備ですか。何かおかしなところがありますか」
どうやら分かっていないらしい。
「あんな金属鎧でガチャガチャやかましい音をさせて森に入ったら余計な魔獣を引き寄せてしまいます。音を出さない装備に変えさせてください」
「え」
「え、って。あ、そうか騎士団は襲われた時の対抗組織だからそこのあたりは周知されてないんですね」
「どういう事でしょうか」
「森の外でなら、あなた方の装備で問題ないのですけど。……」
僕が金属鎧を装備して森に入る危険性を説明すると、ルーカスさんはまっ青になり
「あ、ありがとうございます。うっかりと大変なことになるところでした」
「いえ、まあ余程までは僕とミューで対応できますけど、遠い位置で襲われると間に合わないこともありますので念のためです」
その後、装備を取り換えてきた騎士団の皆に魔獣の間引き方を説明し、森に入っていった。そこからは僕もミューも当然に無言で、時折ハンドサインと目線で打ち合わせをしつつターゲットとなる魔獣を探す。探知も展開しているけれどそれだけに頼るのは危険なので地道に痕跡を探しつつ森の中を探索する。いた。ミューと目を合わせ、さらにハンドサインで狙いを確認する。お互いにうなずき、剣を抜く。オリハルコンの剣は、金色に輝き、その存在を主張する。オリハルコンコートの剣とは明らかに異なる輝きに追従する騎士団も目を奪われているようだ。ターゲットにした魔獣に向かって僕とミューは駆ける。中位魔獣レッド・グリズリー5体の群れだ。僕とミューは左右に展開し群れを挟み撃ちにする。僕が1体目のレッドグリズリーを左手のハンド・アンド・ハーフソードで切り裂く。僕に群れの敵意が集まった瞬間ミューが右手の片手剣で2体目のレッドグリズリーの首を飛ばす。群れがパニックに陥ったのが分かる。それと同時に一旦僕に集まったレッドグリズリーの敵意が分散した。ミューが一旦距離を取ったのを確認して僕が3体目を肩口から袈裟切りに切り裂く。これで一気にレッドグリズリーの敵意が僕に向く。2体のレッドグリズリーが僕に向いたところで僕が左側、ミューが僕から見て右側のレッドグリズリーに切りかかる。今回は、さすがに腕でガードをしてきたけれど上位魔獣も切り裂く今の僕たちは、その腕ごと首を飛ばすことが出来た。レッドグリズリーがどれも立ち上がってこない事を確認して僕とミューは騎士団の元に戻る。
「あ、あのファイ殿」
「あ、ルーカスさん。なんですか」
「ぶしつけな質問よろしいでしょうか」
「魔獣の領域の森の中なので手短におねがいします」
「その、おふたりの持つ剣は、いったいなんなのでしょうか」
やはり騎士ともなれば変わった剣は気になるようで。一言答えたら質問が続くだろうと思われたので
「ん~、今日の狩りが終わったら話せる範囲でお話します」
「ぜ、絶対ですよ。お願いしますね」
「は、はい。話せる範囲でですよ」
ルーカスさんだけじゃなく周りの騎士団員の目も興味津々のようだ。レオポルトさんが忙しくなるかもしれない。それでも1日森の表層のそれもかなり浅い場所を回って魔獣を間引いた。

 僕とミューは今騎士団団長のルーカスさんはじめ騎士団員に囲まれている。
「聞きたいというのはこの剣の事ですよね」
「そう、それ。金色に光る剣。これまで見たことないし、物凄く良さそうに見える。いったい何なのか教えてもらえないだろうか」
ルーカスさんが興奮で顔を真っ赤にして詰め寄ってくる。
「これはオリハルコンの剣です」
辺境伯領領都の鍛冶師が鍛えたものだと説明すると。
「持たせてもらることは出来ないだろうか。丁寧に扱うことは約束するので」
ルーカスさんの目が僕たちの剣から離れない。そこで、
「持つだけですよ」
とオリハルコンのブロードソードを鞘ごとテーブルに置いた。恐る恐る手を伸ばすルーカスさんが妙におかしい。けれど、本当におかしくなったのはルーカスさんが剣を握ってからだった。最初はやや不審な顔が徐々に驚愕に彩られていく。
「持ち上がらない」
それから入れ代わり立ち代わり騎士団員が持とうとするものの誰一人持ち上げることができない。念のためと試してみたミューの片手剣でさえピクリとも動かせる人がいなかった。不思議に思い僕とミューがお互いの剣を持ってみても別に異状なく普通に持つことができる。理由は分からないけれどオリハルコンの剣を持てるのは僕たちだけということが分かった。鍛冶師のレオポルトさんも持っていたので力ではない何かが影響しているのだろう。
 その後12日の間、森での間引きを行っていると、いよいよ森の雰囲気が変わった。
「ルーカスさん、そろそろスタンピードが始まりそうです。森の中でスタンピードに遭遇すると収拾がつかなくなります。間引きはここまでにして森からでましょう」
結局のところスタンピードはこの森での従来のスタンピードの半分以下の規模に収まり周辺への被害も他の街へつながる街道の施設の1部や畑の1部に被害があった程度で大きな混乱もなく収束させることができた。

しおり