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8話

しばらくして、リアラがいる街に到着した。
あの後も、時々馬車を降りて近くにいた動物を眺めたり、道端の花を眺めたりしていたのでだいぶゆっくりやってきた。特に時間は決めていなかったが、念の為リアラには少し遅くなることを伝えておいた。
道中、やはりお腹を空かせたニコは、オニギリを美味しそうに食べていた。

「こんにちはー」

そんなこんなで、リアラの店へたどり着いた。
初めての場所に、ニコは怖気付いてしまい、街に入って馬車を降りてからはまた抱っこしてきた。

「はーい、いらっしゃいませ~」

奥…と言うより、例のあの空間のようだ…がらパタパタと足音を立ててリアラがやってくる。
降ろしていたニコがビクッとしてココロの後ろに隠れ、足にしがみつく。

「こんにちはー。あ、その子がニコちゃん?」
「そう。ほら、大丈夫だから出ておいで」

頭を撫でながらそう声をかければ、昨日のように顔半を出してオドオドしながらリアラを見上げる。

「グハァッ!!」
「…え?」

不思議な叫び声が聞こえて、同じようにリアラを見上げれば、顔を真っ赤にしてピクピク震え(?)ていた。

「え、えーっと?」
「か、可愛さ抜群ですね!思わずはな…いえ、なんでもないです」

少し興奮気味にそう言って(その勢いにビックリしたニコはまた隠れてしまった)、最後にふーっと息を吐いて落ち着きを取り戻した。

「えー、お見苦しい所をお見せしました。今日は、ニコちゃんの事についてですよね」

取り戻した姿から一変、真面目な表情に、それでもニコを怖がらせないように笑顔を浮かべている。
その姿をチラリと覗いたニコは、安心したのか顔を出てきた。

ソファーに案内されて、ニコを膝の上に乗せて座る。
リアラは別の椅子を持ってきてそれに座った。

「今現在分かっているのは、どこかの世界で生まれ育った、狐の獣人の子、という事でしたよね」
「そうみたい。獣人がやって来ることはゼロではないけれど多くは無くて。それに、こんなに小さな子が来ることは今まで無かったって」

だからこそ、ハロルド達は今後どうするか悩んでいたのだ。

「なるほど…ちょっと見てみますね」

そう言って、リアラは自分のタブレットを取り出して何やら操作をし始めた。
しばらくにらめっこしてから、小さく「なるほど」と呟いた。

「大まかに、経緯が分かりました。どうやら、本来大人の状態でやってくる予定だったようですよ」
「…え?」

予定だったということは、どこかで予定が狂ってしまい、子供となってしまったのだろうか。
それだけだとイマイチ分からないが、リアラはしっかりと説明してくれた。

「私達のあり方は、もちろんご存知ですよね?この子も、本当だったら同じはずでした。けれど、破損が酷かったんでしょうね。小さいこの子魂では補えない程に」

元いた世界(ココロからしたら地球)で死亡した際、生命の女神にその魂を拾われて、望む世界に送られる。
この世界に送られてきても、そのままでは魂が破損したままなので、同様に送られてきた動物の魂でその部分を補う。
だからこそ、元の姿(+ケモ耳)を保てているのだと言う。

ニコも当然、その道を辿ってきたのだろう。この世界にやってきたのは、動物好きという世界の意思の影響だろうか。
そこで誰かの魂を補うはずが補いきれずに、逆にニコの魂を補う形に収まったのではというのが、リアラの見解だ。
身体の基本が獣人であるため、人としての耳は無く、元々の耳がそのを担っていて、ヒゲもその影響だろうと。

そして言葉に関して。
ニコが元々、言葉を持たない種族だったのは予想していた事だった。喉の機能の関係から。
そして魂を補う際に、より人に近い姿(夢の内容軽く話した。今より狐に近い姿だった)と、声を出せるようにいじってくれたのではないかと言う事だった。
と言うのが、リアラの説明を掻い摘んだ情報だった。

「そんな感じですかね。あ、食べ物に関しては、最初に見たっていうお医者さんの見解で間違ってないですよ。もちろん、好き嫌いは別でしょうけど」
「そっか。それなら良かった」

と、少し長めの話を終える。
途中でジットしてるのが嫌になったニコは、隣に座って絵本を捲っている。

「あ、そう言えば、初日の夢の中では普通に喋ってたし、起きたら言われたことは理解するようになってたけど…」
「それは…多分ですけど、私の領分外、ですね」
「やっぱり?」

という事は、世界の加護、からの能力に関係しているのだろうか。
けれど、能力は導き手のお爺さんの力が必要だったはず。まだ会わせていないから、違うはず…。この事に関しては、後日確かめられるだろうか。

「ママ…」
「ん?どうしたの?」

クイッとそでを引っ張ってくる。
何か言いたいことがあるようだ。

「わ!もうママって言えるんですね!」
「まぁ、これだけね。あと、母音程度ならなんとか」

嬉しそうにはしゃいでいるリアラを見て、ニコに視線を戻す。
お腹に手を当てているが…

「あ、もうご飯の時間か!」

そう思えば確かに、ここへ来るまでに時間をかけており、さらに話をしていたから、お昼近くなっていた。
途中でオニギリを食べているが、もちろんそれで足りるはずがない。

「あ!じゃあ一緒に食べ行きません?近くに美味しランチ出すところ有るんですよー!」
「え、でもお店は大丈夫?」
「はい!個人店なので、食べたい時がご飯の時間です!」

なんと羨ま…いや、自分も同じような物だと思いつく。
確かに食べたい時が食事時だ。
フフっと、笑いが漏れる。

「どうかしました?」
「ん?んーちょっとね。思い出し笑い?」
「えー気になります!」

そんな話をしてから、これ以上ニコがお腹を空かせないために、リアラのオススメ店へ向かった。

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