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第54話 依頼者と……

 僕とミューはギルドの打ち合わせ室でキャスリーンさんと向かい合っていた。
「で、その依頼者ってのは誰なんですか」
「そ、それは言えん」
「それで依頼者に会えってのは無理ですよ」
「ほ、報酬も上乗せすると言っているのだぞ」
僕は首を振って拒否を示す。
「別に報酬の上乗せが欲しいわけじゃありません。僕たちにも事情があってむやみに有力者と会うわけにはいかないのです」
「しかし、先日は目的次第では会っても良いような言い方をしただろうが」
キャスリーンさんが食い下がってくる。
「僕たちの事を他に話すことの出来ないような内容ならって思っただけですよ。基本的には会いません。これを受け取ってそのまま街を出て行ったことにでもすればいいでしょう」
討伐報酬を指して僕が主張すると。キャスリーンさんは大きく溜息をついて肩を落とした。
「わかった。今回は諦める」
「ご理解いただきありがとうございます。では今日はこれで失礼しますね」
僕が立つとミューも立ち上がり、自然な動作で僕の左腕に腕を絡めてきた。僕がミューに視線を向けるとニコリと笑顔を返してきた。僕も思わずフッと笑顔を返し
「ミュー行こうか」
 ギルドを出ると路地の向こうにどこかで見たことのある馬車があった。僕たちはそっとルートを変え馬車の行く先からずれるように路地裏に身を隠した。聖国で僕たちは数多くの馬車を見てきた。その中のひとつに似ている、いやそっくりだ。あの馬車に乗っているのは誰かまでは分からないけれど、少なくとも聖国の祝賀パーティに招かれる程度には大物ということだ。そして何より、僕たちと面と向かって話したことのある人物がそこにいることを示している。現時点で近づくわけにはいかない。
 僕たちは、急いで宿に戻ると部屋を引き払った。この街最高の宿ということは、その有力者が泊まるのはこの宿で間違いないだろう。このままこの宿に宿泊するわけにはいかない。街中にいるのもリスクがある、かと言って街を出ても外で目立ってしまうことを考慮すれば外に出るのも上策とはいいがたい。そこで街の反対側にあるそこそこのレベルの宿に部屋をとることにした。幸いなことにこのレベルの宿になら10年泊ってもなんともない程度の資金はある。しばらく宿に引きこもっていればいいだろう。
 5日ほど引きこもった朝、僕とミューは宿で朝食をとっていた。そのテーブルの横にふっと誰かが立った。
「久しぶりだな。ハモンド卿、ハモンド夫人」

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