あれこれあれこれ その2
ナカンコンベから戻った翌日、僕は臨時の店長会議を開くことにしました。
急な通達にもかかわらず、この日の仕事後には、全支店の店長ならびにおもてなし商会のファラさんもしっかり集まってくれています。
で、今日の会議には、コンビニおもてなしに商品を納品してくれている人達にも集まってもらいました。
具体的に言うと……
武具や台所用品、弁当の容器などを大量に製造してくれているルア工房のルア。
スアビールやタクラ酒、パラナミオサイダーや、ウルムナギの養殖などをしてくれているスアの使い魔の森の長、タルトス爺。
ガラス製品を製造してくれているペリクドガラス工房のペリクドさん。
おもてなし診療所のテリブルア。
狩り担当のイエロとセーテン。
ヤルメキススイーツを担当しているヤルメキス。
主にパン製造を担当してくれているテンテンコウ♂。
そして、魔法薬全般を製造してくれているスア。
本店の奥にあります会議室にズラッと集まってくれた皆を前にして、僕はちょっと感動で目がうるっとしてしまいました。
この世界に僕がすっ飛ばされてきてもうすぐ1年が経とうとしています。
そんな僕ですが、ここに集まってくれているみんなの協力、それに暖かい街の人々のおかげでこうしてコンビニおもてなしを経営しながら生きてこれたわけです。
しかも、スアみたいな素敵な奥さんをもらえて、子宝にも恵まれて……
は、いかんいかん。
皆の前で泣き出したらしまりませんからね。
僕は、軽く鼻をすすると、
「え~、今日は急な招集にもかかわらず、こうして集まってくださってありがとうございます。議題としましてはもうわかっていると思いますが、コンビニおもてなし5号店のことを皆さんに相談させていただこうと思っています」
僕がそう言うと、部屋に集まってくれている皆がいきなり立ち上がり一斉に拍手を始めました。
「リョウイチお兄様、おめでとうございます!」
「ナカンコンベに店を出すなんてすごいキ。さすがダーリンキ」
感涙を流している2号店店長のシャルンエッセンスや、満面に笑顔を浮かべて声をあげているセーテンを始め、みんながナカンコンベにオープンすることになった5号店の事を祝福してくれました。
な、なんだよもう……みんなして……ずず……
皆にお礼を述べた僕は、改めて皆にこのことに関して相談をしていきました。
まずは品物の増産についてです。
当然1店舗増えるのですから、そこで扱う品物を増産しなければなりません。
この話題に関して、まず最初に手を上げたのはルアでした。
「弁当箱や、各種入れ物類なら心配しなくてもいいぜ。そっちは今の3倍までなら余裕で作れるからさ。あと武具や台所用品も増産は可能だ。ただ、こっちは新たに職人を雇う必要があるんであれだけど、まぁ、なとかなるだろう」
ルアは、そう言って胸をドンと叩きました。
「ウチのガラス製品も問題ねぇ。今でも結構作り置きしてあるぐらいだしな。もっと買い取ってもらえるんならむしろありがたいぜ」
ペリクドさんもそう言って頷いてくれました。
ファラさんによると、
「アルリズドグ商会から買い取る魚介類の扱いを増やすことも可能ですわ」
とのことだった。
また、おもてなし商会に関連して、テトテ集落店の状況報告もありました。
現在、テトテ集落店ではテトテ集落で収穫された野菜類を中心に買い取りをしているのですが、この春から特にお願いしてある果物を重点的に増産してもらっているんです。
イルチーゴです。
僕が元いた世界でいうところのイチゴです。
このイルチーゴは、土を選ぶらしくガタコンベの周辺ではテトテ集落近辺でしか育たないんです。
なので、イルチーゴ畑を大幅に拡大してもらっていまして、そろそろその第一期収穫時期を迎えそうなのですが、
「イルチーゴは大豊作の見通しらしいですわ」
ファラさんは笑顔でそう付け足ししてくれました。
干し柿もどきなんかも大量生産していますが、これもかなり好評ですしね。
あと、ルシクコンベから仕入れた布を使用して試作を重ねている子供用の服ですが、そろそろ試験販売が出来そうな状態らしいです。なので、これも5号店で販売してみようと思っている次第です。
このイルチーゴの大豊作の報告を受けて、今度はヤルメキスが手を上げました。
「い、い、い、イルチーゴがたくさん手に入るのでしたら、こ、こ、こ、このヤルメキスのスイーツも頑張って増産するでごじゃりまする」
そう言うと、いつものようにその場で土下座するヤルメキス。
別にする必要はないんですけど、緊張すると無意識に土下座する癖が相変わらず抜けないヤルメキスです。
タルトス爺からは、
「お待たせしておりました、酒製造プラントの増設の目処が立ちましたからな。今までの5倍は酒を造れるぞい。スアビールもタクラ酒も、それにパラナミオサイダーもじゃ」
そう、報告がありました。
これは、既存店にとってもありがたい話です。
あればあるだけ売れますからね、特にスアビールは。
なので、この報告には僕だけでなく各支店の店長も思わず歓声をあげました。
狩りを担当しているイエロとセーテンも
「狩り場を見直す必要場あるでござるが、まぁそれならいっそナカンコンベ周辺に出張しても良い話でござるしな」
「いくらでも狩ってくるキよ、ダーリン」
2人はそう言って頼もしく笑ってくれました。
2人が狩ってきてくれる魔獣の肉は、コンビニおもてなしの弁当にかかせませんからね。
これで、弁当製造にも支障がなさそうです。
ここまでは順調な報告が続いていたのですが……
ここで、おずおずと手を上げたのが、パンを製造しているテンテンコウ♂でした。
「パンは……これ以上の増産は設備的に無理かもです……」
テンテンコウ♂はそう言うと申し訳なさそうにうなだれていきました。
確かに、テンテンコウ♂の言う通りです。
パンを焼くには釜が必要ですが、コンビニおもてなしの厨房にあるオーブン釜は厨房内に収納するために小型の物になっています。そのため、今現在の店舗のパンを製造するのでギリギリいっぱいってことなんですよ。
ただ、これに関しては僕もわかっていましたので、手は考えてあります。
「テンテンコウ、今度の店舗には地下室があるんだよ。そこにパン製造工房を作ってそこでパンを作れるようにしようと思ってるんだ。それが軌道にのるまではオトの街のラテスさんやヨーコさんにも協力してもらおうと思ってる」
僕がそう言うと、テンテンコウはぱぁっと顔を明るくしていきました。
「それなら、いけますね!」
グッと握り拳を握ったテンテンコウに、僕も笑顔を返していきました。
ただ、パン工房を作るにあたって新たに職人さんを雇うことも検討することにしました。
それ以外にも、
・弁当造り
・店舗の接客担当
これを担当してくれる新たな店員も募集する方向で検討することにした次第です。
なお、弁当製造に関しては、魔王ビナスさんに
「えぇ、今の10倍くらいまでなら問題無くこなせますわ」
と、僕の存在意義が薄れてしまいかねない報告を受けていますので、まぁ大丈夫だとは思いますが、魔王ビナスさんの場合、内縁の旦那さんの仕事にいきなりついて行ってしまう危険性がありますので、その際の保険的な意味でも新たな店員を雇おうと思っている次第です。
ここでスアが手を上げました。
「……薬も問題無い、よ。今の千倍でも万倍でも作る、よ」
スアはそう言うと、気合い満々な表情を浮かべています。
スアの場合、きっと本当にやってしまうでしょう……ただ、在庫の兼ね合いもありますので、そこは様子見しながらよろしくね、と、お願いした次第です。
で、スアの薬に合わせて、テリブルアがやっているおもてなし診療所を5号店にも開店することにしました。
ただ、テリブルアは1人しかいませんので、コンビニおもてなし本店が営業している間はガタコンベの診療所で。本店閉店後は、5号店で開業することにしました。
と、いいますのも、ナカンコンベには風俗街があります。
「そういうのがある街ってさ、夜遅くまでやってる診療所って結構重宝されると思うぜ」
テリブルアのこの意見を採用したわけです。
ちなみに暗黒大魔道士のテリブルアは、すでに死をも超越した存在のため一睡もしなくても大丈夫らしく、5号店閉店後も別の出入り口を設けておいてそこで営業出来るようにする予定にしています。
また、ドンタコスゥコ商会のように卸売りを希望する商会が出て来たり、商品の売り込みがあった際などのために、5号店の中にもおもてなし商会を設置しておき、ファラさんに常勤してもらうことにしました。
ティーケー海岸にある店舗の方に関しては、
「心当たりがあるから、そっちの人員補充は任せてもらってもいいかしら?」
ファラさんがそう申し出てくれたので、お願いすることにした次第です。
このあと、細々したことをあれこれ詰めていき、どうにか大まかな方向性が出来上がったように思います。
「じゃ、早速明日から魔道船の乗降タワーの建築に入るぜ。ついでに建物内の改装もするからさ、図面が出来たら店長、見てくれ」
「わかった。ルア、よろしく頼むね」
「あぁ、任せなって! ナカンコンベの奴らがびっくりするような建物にしてやるからよ!」
ルアは、張り切った様子でそう言いました。
こうして、コンビニおもてなし5号店計画は始動し始めました。