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ナカンコンベでVS その3

 魔女信用金庫の単眼族ポリロナと巨人族のマリライアが床に置いた金貨の布袋を見つめながら、ポルテントチーネは、その顔に明らかに動揺した表情を浮かべていました。
 その様子からして、僕達が5億円/僕が元いた世界換算分の金貨を出してきたことが完全に想定外だったようです。
 ポルテントチーネは、先程金貨を取り出した男達へ視線を向けると、
「ほら、もっとお出し!」
 そう言いました。で、それを受けた男達は慌てた様子で魔法袋の中からさらに金貨の詰まった布袋を取り出していきます。
 
 ドン ドン ドン
 
 3袋追加して合計6袋。つまり6億円/僕が元いた世界換算分の金貨ってことですね。
 これで、ポルテントチーネは僕達……といいますか、スアが取り出した金貨よりも1億円/僕が元いた世界換算分多く金貨を出したことになります。
「あ、でも、これなら僕が準備した金貨を足せば……」
 そう呟きながら、僕は自分の腰についている魔法袋へ手を伸ばしました。
 すると、その手をスアがそっと握りました。
 で、スアは僕の方を見ながら笑顔を浮かべながら頷いています。
 それを合図に、スアの布袋の後方で仁王立ちしていたポリロナとマリライアの2人が
「魔女信用金庫の単眼族ポリロナと」
「同じく巨人族のマリライア」
「「さらに追加いたしますわよ」
 2人してポージングを決めながら、腰の魔法袋から金貨の詰まった布袋をさらに追加していきました。

 ドン ドン ドン ドン

 一気に4袋。
 これで、こちらは総額9億円/僕が元いた世界換算分の金貨を出したことになります。
 対するポルテントチーネの前にあるのは6億円/僕が元いた世界換算分の金貨です。
 ポルテントチーネは、努めて冷静を装おうとしているようですが、その口に咥えているキセルの先がワナワナと震えているのが手に取るようにわかります。
 で、それに気付いたポルテントチーネは、
「えぇい、くそぅ!」
 そう言うと、キセルを床にたたきつけました。
「ほらお前達、予備の金貨をお出し!」
「え? あ、あれもですか?」
「いいから早く!」
 声を荒げるポルテントチーネ。
 その眼前で、男達はどこかおどおどしたような仕草をしています。
「いいから、ほら!」
 さらに即され、男達はポケットの中にしまっていた別の魔法袋を取り出すと、その中から新たな布袋を取りだし始めました。

 ドン ドン ドン ドン

 置かれた布袋は4つ。
 つまりこれでポルテントチーネは10億円/僕が元いた世界換算分の金貨を出してきたことになります。
「す、スアさん?」
 そのあまりにも、な、展開を前にして、僕は目が回りそうな感覚に襲われていました。
 そんな僕の横で、スアは相変わらず微笑み続けています。
 そんなスアの横には、ずポージングを決め続けながらスアの新たな指示を待ち続けているポリロナとマリライアがいます。
 すると、そのポリロナとマリライアがいきなり歩き出しました。
「あらあらあら、この布袋はいただけませんねぇ」
「ちょっと中を確認させてもらってもよろしいかしら?」
 ポリロナとマリライアは、そう言いながらポルテントチーネの金貨の布袋へ歩み寄っていきます。
 ちょうど、最後に追加されたばかりの4袋に向かってまっすぐ向かっています。
「ちょ!? い、いきなり何を言い出すのかしらねぇ、この女達は……」
 ポルテントチーネは、何故か慌てた様子で金貨の布袋とポリロナとマリライアの間に立ち塞がりました。
「え?……な、何がどうしたんだ?」
 僕は、その光景を見つめながら首をひねりました。
 そんな僕の眼前で、ポリロナとマリライアは新たなポージングを決めながら
「その布袋、中には偽金貨が混じっていますね?」
「男達が布袋を持った際、明らかに先程よりも軽そうに持っていましたわよ」
 そう言い、ポルテントチーネの後方の布袋をビシッと指さしました。

 ……ポリロナとマリライアはそう言ってますけど……正直なところ、僕にはそんな風にはまったく見えませんでした。
 僕の横にいるドンタコスゥコも同様らしく、しきりに首をひねっています。

 ですが、ポルテントチーネは違いました。
 ポリロナとマリライアの眼前で、ポルテントチーネは腕組みをしたまま仁王立ち状態なのですが、金貨の布袋に手を伸ばそうとしているポリロナとマリライアを懸命にけん制し続けています。
 明らかにおかしいです。
 明らかに挙動不審です。

 ……そう言えば、あの追加の布袋を取り出すとき、男達が明らかに狼狽してましたしね。
 これは、ポリロナとマリライアが言ってることが案外図星なのかもしれません。

 すると、この成り行きをここまで壇上からじっと見つめ続けていた商店街組合のレトレが、おもむろにポルテントチーネの元へと歩み寄っていきました。
「ポルテントチーネさん。念のためにその布袋を確認させていただいてもよろしいですです?」
「え。あ、いや、そ、それは別にかまわないわよ。かまわないんだけど……」
「念のため先に申し上げておきますですです。もし偽金を提示されていた場合、商店街組合の規定によりましてポルテントチップ商会のナカンコンベでの通商許可を永久取り消しとするですですよ」
 レトレはそう言うと、右手を上げました。
 すると、部屋の奥に控えていた衛兵らしい一群がポルテントチーネに向かって歩み寄っていきました。

 その時です。

「あ、あ~……アタシ、急用を思い出したわねぇ。こ、今回の債権買い取りの一件は取り下げさせていただきますわねぇ」
 ポルテントチーネはそう言うが早いか、部下の男達をひっぱたきながら布袋を魔法袋の中に急いで回収させていき、そのまま逃げるように部屋から駆け出していきました。
「……おいおい、マジか?」
 その後ろ姿を見送っていた僕は、思わずそおう呟きました。

◇◇◇

 その後は、蟻人のレトレがすべてを取り仕切りました。
 9億円/僕が元いた世界換算分の金貨を提示した僕達なんですけど、その競争相手であったポルテントチーネが申し出を取り下げ、また他に競争相手がいなかったこともあり債権の買い取り価格は僕達が最初に提示した金貨で大丈夫ということになりました。
 しかも、ポルテントチーネが辞退したことによりポルテントチップ商会の債権は無効扱いになり、その分は支払わなくてもよくなったんです。
 他の18人の債権者の皆さんも、
「いやぁ、どうもあのポルテントチーネは胡散臭かったからなぁ」
「むしろ顔なじみのドンタコスゥコが落としてくれて安心したよ」
 こんな感じで、特にそれに意を唱える人はいませんでした。
 こうして僕達はおよそ5千万円/僕が元いた世界換算分の金貨で今回の債権買い取りを終えることが出来ました。
 ドンタコスゥコによると、
「ポルテントチップ商会の債権を支払わなくて済んだ分、相場より安くすみましたねぇ」
 とのことでした。

 準備したお金で足りることになりましたので、僕は自分が準備していた布袋をレトレへ手渡しました。
 レトレは、それを受け取ると中から代金分の金貨を取り出し、その場で債権者に分配していきました。
 今回、僕達が若干多めに支払ったことで誰も損をしなくてすみました。
 そのおかげで、債権者の皆さんがドンタコスゥコと僕に笑顔で握手を求めてきてくれたんですよね。
「いやぁ、ありがとなお2人さん」
「ホント助かったよ」
 口々に笑顔を浮かべながらそう言われる皆さんに、僕とドンタコスゥコも笑顔を返しながら差し出された手を握り返していきました。
 その後、ドンタコスゥコとレトレが債権受領の手続きを行い、その場でその債権をすぐに僕に譲渡する手続きまで行いきました。
 こうして、僕はドンタコスゥコ商会の真ん前にある建物を無事入手出来ました。
「みんなありがとう。本当に助かったよ」
 僕は、ドンタコスゥコ・ポリロナ・マリライア、そしてスアを交互に見回しながら頭を下げました。
 そんな僕の前で、ポリロナとマリライアは、
「これを機会に」
「店長さんも是非我が魔女信用金庫に口座を開設くださいませ」
 そう言い、ポージングを決めていきました。
「そうだね、前向きに考えさせてもらうよ」
 僕がそう言うと、2人は抱き合いながら飛び上がっていきました。
「し、し、し、新規優良顧客をゲットですよマリライア!」
「こ、こ、こ、こんなに嬉しいことはないのですよ!」
 2人してそう言い合いながら、ポリロナとマリライアは僕の目の前でいきなり踊り出しました。
 でもまぁ、確かにこんな大金を持ち歩くことになるくらいなら、魔女信用金庫にお金を預けておいて必要な時に持って来てもらう方が確かに安心かもしれませんしね。
 僕は、踊り続けている2人を見つめながらそう思っていました。
 
 ……あと、スアが魔女信用金庫にいったいいくら貯金しているのか少し気になりましたけど……それはあくまでもスアの稼いだお金ですしね。僕は、そのことはあえてスアには聴きませんでした。
 
 ただ、スアの機転のおかげで今回の一件が無事終了したわけですし、そのお礼を兼ねて今夜はいつも以上に頑張らせてもらおうと思っています。
 そんなことを考えていると、スアは僕の思考を読み取ったらしく頬を真っ赤に染めながら僕の腕に抱きついて来ました。
「……えへへ」
 そう言うと、スアは嬉しそうに微笑みながら僕を見上げてきました。

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