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第1章ー2 ”ルリタテハの踊る巨大爆薬庫”本領発揮

 オレは油断していた。
 一般家庭では”付き合う友達は、よくよく選べ”と教えられるらしい。
 全くもってその通りだと思う。
 トレジャーハンターになる前まで、新開家がオレの周囲をスクリーニングしていたようで、危ないヤツはいなかった。なにせ、周囲で一番危険と仲良しな人物は”ゴウ”であり、ゴウ自身が新開家の息がかかっていたので問題でなかった。
 もう少し世間というのを知る機会があっても良かった。しかしオレの意思とは別次元で、その機会は悉く潰されてきたが・・・。
 腹黒かったり、性格の悪いヤツに対しては用心できる。だが裏表なく、自分の立場も考えず、やりたいように生きているヤツは悪意がない分、用心のしようがない。
 オレはヤツの立場と人気と注目度を舐めていた。だけど仕方ない。いつもはポンコツなのだから・・・。
 現実逃避する余裕はあるが、かかっているのは自分の命。
 もう少し真剣になりたいと思う。だが、周囲の惨状を見るに、テロリストの方に同情を覚えてしまうのだった。
 ルリタテハ王国歴481年1月17日の18時。
 今日は風姫の19回目の誕生日で、彼女が主宰のパーティーの最中だった。
 午前中に王族だけで誕生祝いする慣例があるようで、王族は誰一人として出席していない。王族にとって午後と夜は、行事やパーティーに出席する予定が多く入る。午前中に誕生祝いをする方が、スケジュール調整の負担が少なく済むからだ。
 なおジンも出席しているが、現ロボ神は王族としてカウントされないと考えている。
 王族の中で風姫のみをターゲットとするテロの絶好の機会に、オレは風姫に拒否権のない誘いを受け誕生パーティーに出席している。今回で2回目の誕生パーティー出席になる。
 1回目の誕生パーティーもルリタテハの破壊魔が大活躍した。
 それはそれは見事な活躍だった。
 テロリスト以外の出席者数百名が無傷だったのだから・・・。
 今回の誕生パーティーは盛大だった。
 出席者が千人を超え、テロリストの人数も、ざっと30名はいるからだ。
 オレは3人目を沈め、漸く一息つき、彩香さんに話しかけた。周囲の盛り上がりはクライマックスと言って良い状況なので、警戒は怠らないが・・・。
「なんでオレまで襲われてんだ! 情報操作でもしたんじゃねーのか?」
「分からないですか? 教授というのは、やはり専門バカが多いようですね」
「はあ? 新開家の人間が、テロリストに襲われる覚えなんてないぜ」
 ルリタテハ王族は、ほぼ”君臨すれども統治せず”の状態なのだが、憲法改正にはルリタテハ王家の同意が必要である。その同意とはルリタテハ王一人だけでなく、王族としての総意である。それゆえ、邪魔と思う勢力が一定数いるのだ。
 地下に潜った宗教家にとって、憲法改正による信教の自由は、何としても成し遂げたい悲願である。
 それに対して新開家は、ルリタテハ王国国民に怨恨を抱かれるような事態に陥ったことはない。現時点で尊敬を集めることはあっても、忌避されることはないはず・・・。
「新開家は関係ないですよ。アキトが、王都では風姫派の筆頭と思われているだけですね」
「なんでだ? オレ・・・」
 周囲への警戒が疎かになった瞬間、アキトに割れた皿の鋭い破片が飛んできた。流石に武器の持ち込みは不可能なので、会場にあるものを利用して凶器を作ったのだ。
 隙を窺っていたテロリストが凶器を投げたタイミングは絶妙だったが、スピードと威力が全然足りない。
 アキトは右腕をガードポジションのまま体の内から外へと廻し、ルーラーリングに破片を当て体の外へと弾いた。その凶器を投じた巨漢のテロリストは、アキトへ追撃するため迫りくる。その巨体で自分へと視線を誘導し、アキトの左側から迫る細身のテロリストをアシストしたのだ。
 アキトは左側の敵に一瞥すらせず、右腕の防御姿勢での上半身の捻りを利用する。アキトは上半身に追随するよう下半身を動かし、迫りくる巨漢のボディーへカウンターの膝蹴りを突き刺した。
「最近、お嬢様との仲も改善されましたし・・・」
 彩香は返答しながら、アキトを左側から襲撃しようとした細身のテロリストを殴り飛ばした。文字通りテロリストは吹き飛んでいた。左拳でテロリストの胸部中央を、細腕で殴ったように見えただけなのに・・・。
「そりゃ、ひでぇー・・・」
 話ながらもアキトは、巨漢テロリストに止めを刺そうと技を連絡させようとする。ボディーが効いたのか、背の高いテロリストの頭の位置が、アキトの顎の所まで下がる。
「誤解だぜっ!」
 左足が床に着いた刹那、右足に体重を移動させ側頭部に右フックを叩き込んだ。アキトはテロリストの意識を完全に刈り取ったのだ。
「お嬢様はエレメンツ学部の理事ですし、アキトは17歳でエレメンツハンター学の教授に就任しましたね。周りからどう見られてるかなんて、考えるまでもないと思いませんか?」
 彩香の方は追い打ちする必要もなかった。・・・というより、生きているのかどうかも怪しい。
「考えたこともなかったぜ」
 2人は呑気に会話を続けながらも、周囲の警戒を続ける。
「少しは自分の周りの人間関係や状況、事態、事件を見つめ考えなさい。専門バカと呼ばれたくなければ・・・」
「ちょっと聞き捨てならねーぜ」
 2人は一般のパーティー参加者から距離をとるよう、少しずつ移動する。
 自分の所為で他人がケガするのは不本意だからだが、自分が風姫一派だと思われているのは、もっと不本意だった。
「そうですか? あまりにも特殊な環境でばかり育ってきて、一般的な事柄には疎すぎですよ。専門領域は広いかもしれませんが、専門バカに変わりないです」
「そこじゃねー。普通に生きてたら事件は起きないぜ」
「自覚がないようなので教えて差し上げます。アキト、あなたはトラブルに愛されていますよ。正確には周囲にいるトラブルメーカー達にですけどね」
 アキトは風姫、ジン、翔太、最後にゴウを見てから呟く。
「方向性の違いで疎遠になる選択肢は・・・ないだろ・・・おあーっと」
 一般の参加者から離れるように動いている。それはトラブルの許へ近づくことを意味していた。
「アキト、行ったぞ」
 ゴウの落ち着いたバリトンボイスが鼓膜に響く、脳内で意味を処理するより早くアキトは動き出した。こんな状況で落ち着いて注意を促せるゴウは、流石に荒事に慣れているだけのことはある。しかし、少しは危機感を伝えて欲しい。
 声の方向からテロリストが2人。なぜか腰高のドリンク給仕ロボットの台上のアームに、絡めとられるように載せられている。アームへはゲストの取りやすいポイントへとドリンクを運び、静止しておくだけの機能で、人が床に落ちないようにする使い方では決してない。
 しかも、給仕ロボットにあるまじき速度で、文字どおり飛んでくる。
 給仕ロボットが慣性の法則を無視するような急停止をみせ、台上のテロリストは慣性の法則に従って勢い良く放り出す。
「ゴウ。もっと緊迫感を伝えてくれ」
 一人はアキトが頭をサッカーボールキックで気絶させ、もう一人は彩香の10センチのヒールが腹に突き刺さり悶絶していた。
「この程度の状況で、どうやったら緊迫感を出せるのやら。少しは周囲を観察すべきだぞ、アキトよ」
 ゴウは話ながらも、いつも使っているサバイバルナイフぐらいの大きさの麺棒を、両手で握っている。しかも、その麺棒はゴウの腰のベルトに何本か挟まっている。
 そういえばパーティーで、手打ち蕎麦が振る舞われる予定だった。そんな趣向のパーティーは今までに出席したことがなかったので、不思議に感じていた。興味にかられパーティー開始前、蕎麦打ち台の一つに足を運んでみたら、麺棒がやけに短かかった。
 しかし今、理由が判明したぜ。
 武器は持ち込めないからと、ジンとゴウで共謀したに違いない。
 ゴウは、重心、重さ、長さが同じサバイバルナイフを複数所持していて、料理にさえ、そのサバイバルナイフを使用する。実力を十二分に発揮させるには、同じような凶器が必要になる。そこでジンが用意したのだろう。
 どちらが持ちかけた話かは分からないが、両方ともトラブルの為なら、持てる能力を全力で継ぎ込んで準備するタイプだ。しかも王都に来てから、意気投合している場面を良く目にする。多分、悪巧みの感性が魂レベルで一緒なんだろうぜ。
「ふっはっはっははーーー」
 笑い声を聴く限り、ゴウは程よいスリルを愉しんでいるようだった。
 誕生パーティーを愉しみたかったオレとしては、全くもって同意しかねる思考だが・・・。
「全くです。ゴウに同意するのは癪ですが・・・」
 間違った認識でいるゴウと彩香の2人と、この戦闘時に会話を成立させる自信がない。極力関わらない・・・のはムリなので、気にしない方向へとシフトする。
 そうして、ゴウの方向から聴こえてくる笑い声と雄叫びをカットしたオレの耳に、明るい翔太の声と抑揚のない史帆の声が届く。
「そうそう、アキト。もう一台送るからさ。よろしく!」
「よろしく」
 やっぱりテメーらが悪因か。
 不法改造とスピード違反は罰金刑だぜ。
 史帆がセンサー類の数値を10分の1と誤認するよう設定し、有線ケーブルを給仕ロボット内部から引っ張り出し、翔太のルーラーリングと接続していた。給仕ロボットは互いに通信し、最高のサービスができるよう最適配置へと移動する機能がある。翔太のルーラーリングと有線接続した給仕ロボットに最上位権限を与え、史帆は室内の給仕ロボットを自在に操れるようにしたのだ。
 そして特殊人間、翔太のマルチアジャストが室内の全給仕ロボットを支配している。
 つまり、給仕ロボットにあるまじき速度は、史帆がハッキングして、翔太が操縦しているから可能なのだ。
 アキトよりお宝屋と史帆の方が風姫に近い。それゆえ、次から次へとテロリストがお宝屋を襲う。手一杯にならないよう、余裕を持てるようアキトに勝手に、一方的に分業を押しつけているのだ。
 ゴウがテロリストを薙ぎ倒し、止めをアキトと彩香に任せる為、給仕ロボットでテロリストを運ばせている。
「後始末を押し付けやがって、高くつくかんな。翔太っ!」
 二台目の給仕ロボットで苦しんでいたテロリストを行動不能にし、翔太に文句をつけた。
「いやいや、そういうのはパーティーの主催者に言って欲しいかなー」
 尤もな指摘だが、軽い口調に苛立ちを覚え、翔太へと視線を送る。
 千沙のバックステップして、テロリストから逃れる姿が見えた。すると背の高いテロリストが、腹を抱えるように前方へと崩れ落ちた。
 腹を抱えたテロリストは、給仕ロボットの5本のアームで台に積み込まれ、アキトの方へと猛スピードで向かってくる。
「ご、ごめんね。アキトくん。こ、こんど、お礼するからぁ~」
 千沙は一人前のトレジャーハンターであり、ゴウの妹なのだ。護身術ぐらい心得ているし、油断したテロリストに一撃を与えるぐらいはできる。
 怯えたように手を合わせている千沙を人質にしようと、組み付こうとでもしたんだろうな。
 バカなヤツだぜ。
 テロリストが未だに腹を抱えている。
 千沙のポーズから組み付かれる寸前、膝のバネを使い右のショートアッパーを横隔膜へ打ち込んだに違いない。
 まともに喰らったら息できないよな。
 給仕ロボットからオレの前に放り投げられたテロリストは、腹に手を当てている。腹を防護しているともいえる。無防備な顔を踏みつけ、オレはテロリストの意識を奪った。
 既に20名以上のテロリストが、床で身動ぎ一つしていない。

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