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いざナカンコンベへ! その1

 ドンタコスゥコ達が出立した翌日、僕は商店街組合へと出向きました。
「あら、店長さんですです」
 そんな僕を、蟻人のエレエがいつもの笑顔で出迎えてくれました。
 とは言いましても、この組合事務所の中にいる時のエレエは顔は僕の方を向いてはいますが、体は終始忙しそうに室内を右往左往しながら一時も仕事の手を休めようとしません。
 それはエレエだけに限らず、組合で働いている蟻人皆同じなんですよね。
 ホント、蟻人って働き者だなぁ、と感心することしきりです。
「店長さん、私に何かご用事ですです?」
「あぁ、そうなんだ。実は魔道船のことでちょっと相談しておきたいことがあってさ」
 そう言って僕はドンタコスゥコから持ち込まれたナカンコンベへの魔道船の就航のことを切り出しました。
「ナカンコンベですです?確かにいいかもしれませんですです」
 僕の話を一通り聞いたエレエはうんうんと頷いています。

 この話には1つ前段階の話があります。
 ブラコンベを中心にして編制されているこの一帯の辺境都市連合は、ブラコンベ以外に、ガタコンベ、ララコンベとルシクコンベ、この他にあと2都市で編制されていたのですが、この2都市が辺境都市から街に格下げになっていたんです。
 以前、王都の方針で『人種の領主を代行でもいいので任命出来ない場合、辺境都市としての認定を取り消す』との通達がパルマ全国土に発布されたんです。
 で、ガタコンベも領主が何年も前にいなくなって以降、ど田舎のため代わりに領主として赴任してくれる人種がいなかったため、ずっと領主不在だったもんですから、急遽人種の僕に白羽の矢が立てられまして、なし崩し的に僕がガタコンベの領主代行に就任したおかげで、ここガタコンベは事なきを得たんです。
 ブラコンベは辺境駐屯地のゴルアが、ララコンベは同じく辺境駐屯地のメルアが領主代行を務めることで、ガタコンベ同様に事なきを得ています。ルシクコンベは亜人のグルマポッポが領主を務めているのですが、この都市は雲の上にある特殊な都市のため、鳥族でないと領主を務めることが困難と王都から特例として認められているんです。
 で、残りの2都市は領主を立てることが出来なかったそうなんですよ。
 そのため、王都からの補助金などもごっそり削られてしまったこの2つの街の人々は、どんどんガタコンベやブラコンベに移住し始めているんです。
 そのため、この2つの街への魔道船の就航が中止になっていまして、他にどこかいい場所がないかなって話になっていたんです。

「魔道船も順調みたいだし、今度オトの街やテトテ集落に航路を拡大する際にナカンコンベへの就航を考えてもいいんじゃないかなと思ってさ」
「そうですです、私もそれには賛成ですです」
 僕の言葉に、エレエも頷いてくれました。
 この後、ナカンコンベに魔道船を停泊させるための乗降タワーを設置する手配を僕の方ですることを申し合わせて、僕は組合を後にしていきました。

◇◇◇

 で、この話を持ち帰った僕は、自室で考えをめぐらせていきました。

 ナカンコンベにあるドンタコスゥコ商会の建物に魔道船の乗降タワーを設置させてもらえば話は簡単です。ドンタコスゥコに乗降タワーの設計図を渡して、その通りのタワーを建物の上に設置してもらえばいいわけですからね。
「でもなぁ……」
 僕は、ここで一つ思案していることがありました。
「……ナカンコンベって街に、コンビニおもてなしの支店を出せないもんだろうか……」
 僕はそんなことを考えていたんです。
 
 今のコンビニおもてなしは、4支店を展開していましてどの店も順調な売り上げを記録しています。
 ですが、正直に言いますと売り上げは上限横ばいといった感じになりつつあるんですよね。
 と、言いますのも、売り上げがいくら好調だと言っても、ブラコンベを中心にした辺境都市連合は田舎なんです、総人口が少ないんですよ。
 イベントなどをすれば売り上げが一時的にグンと伸びることもありますけど、それが終わるとまたいつもの感じに戻っていくわけです。
 それでも、全店黒字経営を続けていますので無理をする必要はないわけです。
 でも、コンビニおもてなしという店を少しでも増やしたいという気持ちもないわけではありません。
 僕が元いた世界で、爺ちゃんが経営していた頃には、結構な数の支店があったコンビニおもてなしですからね。
 そこまで一気に増やそうとは思いませんが、1店ずつ確実に増やして行きたいという気持ちは、コンビニの経営者としてやはり持っているわけです。

 で

 さすがに1人で考えていてもらちがあかないと考えた僕は、毎週始めに行われていますコンビニおもてなしの店長会議でこのことを皆に相談してみました。
「……というわけで、ナカンコンベに魔道船の航路を延ばすのに合わせてコンビニおもてなしの5号店を出店してみたらどうかと思っているんだけど……みんなはどう思う?」
 本店の奥にあります会議室に集まった各支店の店長並びにおもてなし商会責任者のファラさんを前にして僕はそう切り出しました。
 僕の発言に、真っ先に賛同してくれたのはファラさんでした。
 挙手したファラさんは、
「良いと思いますね。既存店は全て堅調な売り上げを記録し続けていますし、卸売り関連でも堅調な売り上げを維持していますし、支店を増やすまさに好機ではないでしょうか」
 そう言い、頷きました。
 次に挙手したシャルンエッセンスも、
「えぇ、素晴らしいと思いますわ。ナカンコンベはブラコンベの比ではない規模の辺境都市でございますし、ここで成功すればコンビニおもてなしの名前がパルマ全土に知れ渡ることになるはずでございます。ゆくゆくは王都への出店も夢ではないと思いますの。そしてお兄様のお名前もパルマ全土に……あぁ、なんて素敵!」
 そう言いながら、胸の前で両手を合わせながら目を輝かせていました……うん、まぁ僕の名前はどうでもいいんですけどね……
 3号店店長のエレは、木人形だけあって
「私はご主人様のご意向のままに」
 そう言いまして、4号店店長のクローコさんも
「超イケてるじゃん!イケイケアゲアゲだってば、きゃは!」
 そう言いながら、舌出し横ピースした顔を僕に向けています。

 こうして、コンビニおもてなし5号店計画は満場一致で正式に始動することになりました。

◇◇◇

 ……とは言いましても、ナカンコンベまでは馬車で1週間ほどかかります。
 そのため、ナカンコンベのことに詳しい人が今のコンビニおもてなしにはいません。
 エレエも、
「ナカンコンベの商店街組合に紹介状くらいは書けるですですけど、あまり交流はないですです」
 そう言って考え込んでしまいました。
 とりあえず、エレエにはその紹介状を作ってもらうことにしまして、
「そうだな……考えても仕方ない。一度ナカンコンベに行ってみるか」
 僕は、そう決断しました。

 スアも、ナカンコンベに行ったことがないらしく転移魔法を使用することが出来ませんので、行くのには魔法の絨毯を使用することにしました。
 まぁ、一度行ってしまえばスアの転移魔法で転移ドアを作成することが出来ますからね。
 と、言うわけで、僕はとりあえず家族みんなでナカンコンベの観光をかねて行ってみることを計画しました。
 で、この話を子供達と一緒にお風呂に入っている時に伝えたところ、
「ナカンコンベですか!? 初めて聞きます、楽しそうです!」
 湯船につかっている僕の右隣に座っているパラナミオは、そう言うと、笑顔で僕に抱きついてきました。
 すると、僕の左側に座っているリョータも
「パパ! 僕もすごく楽しみです!」
 そう言って。パラナミオ同様に満面に笑みを浮かべながら僕に抱きついてきました。
 すると、ちょうどこのタイミングでお風呂に入ってきたアルトと少女形態のムツキが
『まぁ、ずるいですわ!私もお父様に抱きつきたく!』
「ムツキもするにゃしぃ!」
 アルトは思念波を僕に伝え、ムツキは声をあげながら僕に抱きついてきました。
 確かに広い湯船ですけど、一度に5人入ると~アルトは赤ちゃん形態ですけど~ちょっと狭いかなと思うわけです……が、そんな中、僕の真ん前には、転移してきたらしいスアがちゃっかり座っていたんですよね。
「……ここは譲れない、の」
 スアはそう言うと、僕を見上げてニッコリ微笑みました。
 そんなスアを、抱っこする格好で湯船に浸かっている僕。
 そんな僕に、子供達が抱きついているわけです。
 そんなみんなの笑い声が、風呂の中にこだましていきました。
 うん、この笑い声を聞いていたら、僕もなんか楽しみになってきました。

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