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第7話 ギルド

「ギルドマスターのゲーリックだ」
「フェイウェルです」
「ミーアです」
「シルバーファングを持ち込んだというのはお前たちか」
街道の結界近くでフォレストファングの討伐部位を26体分とシルバーファングを持ち込んで報告することがあると言うと、周りが大騒ぎになった。僕たちの受付をしてくれた女性は、慌てて一度ギルドの奥に引っ込んだと思うと、すぐに出てきて応接室に案内してくれた。そして受付嬢を横に控えさせて僕たちの目の前で唸っているのはどうやらギルドマスターらしい。
「はい、僕たちです」
「他のメンバーは、どうした」
「他のメンバーですか」
「そうだ、あれだけの数のフォレストファングとさらにシルバーファングまで狩ったとなれば相当大きなパーティーなのだろう」
「いえ、僕たち二人だけです」
「そんな訳があるものか。フォレストファング26体だけでも死亡者を出さないで討伐するにはAクラス冒険者30~40人は必要だ。さらにシルバーファングまでとなればどれだけの人数が必要か想像もつかん。それをたった二人のパーティーで狩っただと。ありえん」
「結界の中から弓を使いましたから。それに僕たちふたりとも狩人の祝福をいただいていますので」
「何色だ」
「言わないといけませんか。あまり公開したくないのですが」
僕たちが狩人の祝福をいただいていること自体あまり公開したくなかったのだけれど、言わなければ話が進まないため話した。
「ここでの会話は外部に漏らさないことをギルドとして保証しよう。大司教様直々に問いただされても公開しない」
「わかりました」
「あたしは黄です」
ミーアが先に答えた。ギルマスターが息を吞むのがわかった。
「僕は銀です」
”ガタン”横にいた受付嬢さんの手から何かが落ちた。しばらく無言の時間が過ぎる。正気を取り戻したギルドマスターが納得した顔で
「わかった、銀と黄の狩人の祝福持ちが揃っていれば、このくらいは狩れるのは納得できる。それで、街道にこれだけの魔獣が出たんだな」
「そうです、僕らにとっては油断さえしなければ大した危険ではありませんが、戦闘職以外の方には荷が重いでしょう」
「わかった、大司教様に連絡し聖都全体に警報をだしてもらうようにしよう。当然おまえたちの事は伏せるから安心しろ」
そこでギルドマスターはふと何かに気付き僕に聞いてきた
「そういえばフェイウェルと言ったか」
「はい」
「父親の名は、なんという」
「ヴォルウェルと言います。」
「やはりか、そうか彼の忘れ形見か」
「父と知り合いなのですか」
「いや、直接の知り合いではない。話を聞いたことがあるだけだ」
「そうですか。生前の父の話が聞けるかと思ったのですが残念です。他に何かありますか。なければ宿を探したいので失礼したいのですが」
「ああ、聖都に到着したばかりだったな。いい宿がある。紹介状を書こう。少し待ってくれ。料金は心配しなくていいぞ、ギルドで負担しよう。今回の情報料のおまけだと思ってくれ」
そういうとギルドマスターは受付嬢に目配せをした。受付嬢は壁際の棚から何やら皮紙とペンを出しギルドマスターに手渡す。ギルドマスターはサラサラと何やら書き込むとクルクルと丸めてオレに手渡してきた。
「それを持って”夜の羊亭”という宿に行くといい。場所はこのレーアに聞いてくれ。いや、やっぱりレーア案内してやってくれるか」
「わかりました」
そういうとレーアさんは僕たちの方に向き直ると
「聖都ギルドの受付嬢兼ギルドマスターの秘書をやっております。ヴェレリアと申します。気軽にレーアとお呼びください」

 僕たちはレーアさんに案内されて”夜の羊亭”に向かっている。それにしてもギルドを出るときの騒ぎには驚いた。
「レーアさんて冒険者に人気なんですね」
「ギルドマスター付きということで少々目立っているだけです。いわれるほどではありません。それにフェイウェル様もミーア様もすぐに引っ張りだこになると思いますよ」
「え、あたしもですか」
突然名前を出されたミーアが驚きの声を上げる。
「あれだけのフォレストファングと同時にシルバーファングをたったお二人で狩ってしまう実力者です。冒険者というものは強い戦力を取り込んでより安全により成果を上げようとするものですから。しかもミーア様のようなかわいらしい女性は男性の多い冒険者の中でパーティーメンバーに欲しがる方は多いと思います」
「でも、あたしはフェイのお嫁さんですよ」
「え、すでにご結婚されているのですか。お付き合いされているとは思いましたが、まだお若いのでご結婚はまだかとおもっておりました」
「あたしたちはほんの2日前に村で結婚式をあげたんです。こちらには本当は結婚の祝福をお願いにきたんですよ」
「そうだったんですか。では明日は教会に行かれるのですね」
「ええ、そのつもりでいます」
ミーアがとても上機嫌だ。僕ときちんとカップルとして見られたのが嬉しいらしい。そんなミーアにレーアさんが言葉を重ねる。
「では、明日日が昇りきらないうちに教会前に行ってみられることをお勧めします」
「何かあるんですか」
「ふふふ、それは行ってみてのお楽しみです」
そんな雑談を交わしながら案内してもらっていると
「こちらが夜の羊亭です。受付までご案内しますね」
そこは村では考えられない立派なたたずまいの宿だった。
「ちょ、レーアさん。本当にここなんですか。僕たちそんなにお金持ってないですよ」
「大丈夫です。今回の滞在中の宿泊費はギルドが負担しますから。聖都の良い宿を堪能してください。それにお二人もすぐにこの宿くらい余裕で泊まれるようになりますよ。さ、こちらです」
入り口を入り受付カウンターでガラス製の呼び鈴をならすレーアさん。あの呼び鈴だけでも買ったら村で4人家族が3か月は暮らせるくらいの値段だろう。そしてすぐに男性が出てきた。宿のご主人だろうか。
「おやヴェレリア様、お久しぶりです。今日はお泊りですか」
「ええ、ただし泊まるのはこちらのお二方です」
「む、ヴェレリア様のご紹介とは言え、大変失礼ですが当宿にお泊りになられるような方には見えませんが」
「フェイウェル様こちらがこの”夜の羊亭”のご主人でラルクさんです。ギルドマスターの紹介状をご提示ください」
レーアさんに言われ僕はギルドマスターから受け取った紹介状をラルクさんに渡す。それを見たラルクさんは目を見張り、わずかに固まった後
「大変失礼しました。フェイウェル様ミーア様。お詫びに最上級のお部屋をご用意させていただきます」
その返事を聞くとレーアさんが
「では、ゆっくりお寛ぎください。あとフォレストファングとシルバーファングの討伐報酬、シルバーファングの素材買取金、そして今回の情報提供報酬は明日昼までに準備できると思いますので、それ以降に一度ギルドにお寄りください」
そう言って戻って行ってしまった。
「お部屋の準備ができましたらお呼びします。それまでこちらでお寛ぎください」
そう言ってラルクさんに案内されたのは豪華なラウンジ。ソファからテーブルから装飾品まで見るからに高級なものが並んでいた。僕たちは少々気後れしたもののソファの隅にちょこんと座る。
「ミーアすごいね。このソファ、ハイワームの糸で編んだファブリックだよ」
「それもだけどフェイ、テーブルもこれトレント、それもエルダー種じゃない」
そうなると僕たちには分からない装飾品もとんでもない高級品じゃないかと思えてくる。まあ、こういう上位魔物素材を使った家具は簡単に傷もつかないのはわかっているけど緊張する。そんなところにラルクさんが戻ってきた。
「フェイウェル様、ミーア様。お部屋の準備が整いました。ご案内させていただきます」
「は、はい。お願いします」
「ふふふ、そんなに緊張されなくてもいいですよ」
「でも、こんな高級品に囲まれたことないものですから」
「そうは言っても、これらなどあなた方が提供された素材かもしれないでしょう」
「それは、素材としてならハイワームだろうとゴールドベアだろうとエルダートレントだろうと狩ったことはありますけどね。こう、家具になっていると違うんですよ」
僕がそう答えると、ラルクさんは苦笑しながら
「それらの上位種を簡単に狩れるかのように言われるフェイウェル様にはご理解しにくいかもしれませんが、それらの素材はそう簡単に手に入るものではないのですよ」
僕たちが狩人ということで話を振ってくれたのだろう、こういうところも高級宿なのかもしれない。
 そして案内された部屋ではミーアがはしゃぎまくった。
「すごーい。フェイ、フワフワのベッドだよ」
「あれ、これは何かしら」
「それはお風呂です。ここに栓をはめて、ここに魔石をはめると地下から水をくみ上げます。そしてこちらに魔石をはめますと湯になります。そしてこちらで体を清めていただいたうえで浸かっていただければ」
「おお、これが風呂ですか。僕も初めて見ました」
と、何もかもが規格外の部屋でつい聞いてしまった。
「このお部屋に泊まると本当はおいくらなんですか」
「そうですね、おふたりですと1泊目は小金貨2枚に大銀貨5枚、2泊目からは1泊小金貨2枚です」
僕とミーアは顔を見合わせて言葉を失った。小金貨2枚に大銀貨5枚といえば4人家族が聖都で1年半は暮らせるくらいの金額だ。おまけと言うには少々大きすぎるのではないだろうか。
「何を驚いておられるのですか。お二人が明日ギルドから受け取る報酬はそんなものではないはずですよ」

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