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6話

何を作ろうかと考えたところで、1つ気になった。
狐の獣人であるニコに、食べさせてはいけない物は無いのかと。

確かに昨日、預かると決まったときに、アレルギーの類は無いと言われてはいるが。
けれど、それは人に関しての意見であり、獣人として見られたのかどうかは分からない。
ここは一度、#動物の専門家__リアラ__#に診てもらった方がいいだろうか。
そう考えて、今夜は特に問題の無い(狐はイヌ科なのでそこから流用)食材を使ったご飯にした。


食事を終えてからもう一度、今度は別の絵本をせがまれたので、お風呂の準備を済ませてから一冊読んであげる。
その後、お風呂に入って諸々の後片付けをしている間、また絵本を眺めているようだったが。

「あ、ニコもうお眠?」
「ん…マ、マ」

絵本を抱えながらゆっくりとだが船をこぎ始めていた。
声をかければ一度目を開けるが、その目はもうトロンとしている。
甘えるように腕を伸ばしてくるので、寝かせるためにその体を抱き上げれば、キュッと抱き着いてくる。

「ニコ、おねむー?」
「うん、そうみたい。寝かしてくるね」
「もうおやすみなさい?」
「ニコだけね。私はまだ起きてるよ」
「わかったー」

ココロが寝るなら自分たちも、とついてくる妖精達だが、そうじゃないならここで待つようだ。
既に夢の世界に向かったニコをベッドに寝かせ、静かに部屋を後にする。
お昼寝をしているとはいえ、今日はもう起きないだろう。


「あ、そうだリアラに…その前にハロルドに相談した方がいいかな」

一応、ニコはハロルドから預かっているのだから、勝手に他者にその存在を話すのは良くない。
と思って確認をしたが、特に構わないしリアラなら力になってくれるだろうという事で、リアラに連絡を入れることにした。

『はーい。リアラです』
「こんばんはー。夜遅くにごめんなさい。今大丈夫?」
『大丈夫ですよー。何かありました?』
「実は…」

にこやかに受け入れてくれたリアラに、ニコの事を預かることになった経緯を含めて説明した。
最後に食事に関して詳しくみてもらいたいことを伝えると、快く引き受けてくれた。

『じゃあ、明日お待ちしてますね』
「お願いします。あ、明日また、何か作ってこうと思うんだけど、リクエストがあれば今聞いておいてもいい?」
『本当ですか!?うわぁ、この間のパウンドケーキもおいしかったので、また食べたいと思ってたんですー!んーーでも今すぐには思いつかないです』
「それなら、明日の朝までにメッセージ入れておいてもらえば大丈夫だよ」
『分かりました!わー何にしようかなー…』
「ふふ。じゃあまた明日。おやすみなさい」
『はい!おやすみなさい!』

元気なリアラとの会話を終えて、通話を切る。
それでもまだ寝るのには早いので、朝ごはんの準備をすることにした。
しばらく洋食が続いていたので、和食が食べたい気分だ。ニコも気に入ってくれると嬉しいが。
少なくなった出汁を作り、今日買ってきた魚とキノコを使って炊き込みご飯を予約炊飯にかける。

準備を終えればいい時間になっていたので、寝る準備をして寝室に向かう。妖精達やユキも一緒にやってきた。

「ココロおやすみー」
「おやすみー」
「皆、おやすみ」

さぁ寝ようと思って、念のためリアラからメッセージ入っていないかなと確認してみれば、マフィンが良いと入っていた。

「マフィンかー。プレーンも良いけど、色々入れてもいいよね。何にしよう」

ニコを起こさないようにベッドに入る。
モゾモゾと寝返りを打つが、起きることは無かった。
けれどココロが来たことに気が付いたのか、そばに寄ってくる。
その小さな体をそっと抱きしめて、眠りに落ちた。


「ん…」

カーテンの隙間から、外の光が入り込んでくる。
それに気が付いて少しだが目が覚めた。

「…ん?」

起き上がろうとして、小さな違和感に気が付く。
それは久しぶりに感じるものだった。

「あーこれは…」

どれぐらいぶりだろうか。
以前は激務と、偏った食事(主食は栄養ドリンク)、睡眠不足に抱え込んだストレスのせいで不順になっていた。
しかも、来たら来たでまともに起き上がれなくなるほど重くなり、なんとか休暇を取らせてもらっていた。


こちらに来て一ヶ月弱。
のんびりとしながらバランスの取れた食事を摂り、そして規則正しい生活を繰り返したことによって、身体の状態が整ったのだろう。
違和感は感じるが痛みは特に感じていない。難なく起き上がることが出来た。

「ん-。これはありがたいなー。寝込む必要ないなんて」

就職前に戻った状態だ。重くなった理由は分かり切っていたがやはり仕事が影響していたのだ。
そんなことを考えていたが、のんびりしている場合ではなかった。急いで支度を整える。
寝室へ戻れば、ニコも起き上がっていた。

「起きた?おはよう、ニコ」
「マ、マ…おあ…」

おはよう、と言いたいのだろうが、まだしっかり喋れていない。
頑張っているが、まだ一日しか経っていないのだから、急ぐ必要もないだろう。

「ゆっくりでいいよ。覚えちゃえばすぐだからね」
「ん…ママ」

しかし「ママ」とだけ覚えれたのが嬉しいのか、ニコニコとしながら抱き着いてきた。
ニコの支度を整えてからリビングへ向かう。
ユキを迎え入れてから、妖精たちはユキが起きると遊び相手になるために一緒に部屋を出ているようだ。おかげで朝まで起こされることが無いのでありがたい。

「みんな、おはよう。今日もユキの相手ありがとう」
「おはよー」
「ココロー、ニコーおはよー」
「ミーミーミニャー!」
「ん、ご飯ね。待ってて」

早速ご飯の催促である。
お皿にユキのご飯を用意していると、ニコが近くにやってきて袖を引く。
どうかしたのかと様子を見ると、腕を伸ばしてきた。抱っこをおねだりするポーズ…とは少し違う気がする。

「う…い」
「う…?もしかして、ユキ?」
「う…き」

ユキ…と言いたいようだ。そしてその腕はユキのご飯に向いている。

「もしかして、お手伝いしてくれるの?」

コクコクと頷くので、せっかくなのでお願いすることにした。
お皿も小さければ、入っている量も多くないので、ニコが持っても重くないだろう。
渡してあげれば、嬉しそうに受け取って置き場に置きに行く。
落としてはいけないと、ゆっくり歩いている。

「ミーミー!」

ユキが早くしろと催促し始めたところでようやくたどり着き、お皿を下した途端に食べ始めた。
食べてるユキを嬉しそうに眺めるニコ。
その姿を見ながら、朝ごはんの準備に取り掛かった。

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