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【引継ぎの儀式】

「じい、話は分かった。しかしここは治療所という名の自然治癒待機所だ。俺は恐らくあと三日は動けないだろう。」
この世界では待つか回復魔法を使えばHPが自然治癒する。それゆえ医者はなく、治療所という名の自然治癒待機所のみがある。自分のHPもステータスメガネがないとリアルタイムには分からないが、勇者学校のHPテストでマックス値が分かる。そして自然治癒までにかかる時間は肌感覚だ。

「何をおっしゃいますカラードさま。あなた様はすぐ家に戻り、ご主人様の葬儀を執り行わなければなりませんぞ?」
セバスチャンはそう言って、「さあ」と促すようにこちらを見る。
「しかし……。」
同じことをもう一度言おうとした俺の事を遮るように、
「【回復術《ヒーリング》!】」
セバスチャンはそう叫ぶ。
途端に緑色のオーラが俺を包んで、消えていった。眼を大きく開いてセバスチャンの方を見る。
「じい、これは?」
俺の疑問に答えるようにセバスチャンはこう言った。
「わたくし、若かりし頃は魔法学校で学んでおりましたので。」
「じい、最初からそれを使ってくれ!」
俺はツッコんだ。しかし、
「さあカラードさま、行きますぞ。」
セバスチャンはそう言うや否や、俺を急かすだけであった。

それから三日。俺は父の通夜と葬式、そしてそれに参加する縁者たちの応対に走り回った。その際、皆が皆心配そうに「こいつで大丈夫か?」というような目をして覗くのである。俺はその度にセバスチャンの言葉を疑った。しかし、これまでの経験上でセバスチャンが嘘を言ったことはただの一度もない。セバスチャンの言葉に嘘はないはずである。

「カラードさま。先代の葬式と埋葬も終わりました。さあ、【勇者引継ぎの儀式】を執り行いましょう。」
葬式が終わり来客が大方帰った後、セバスチャンは二人っきりの部屋で俺にそう言った。
「じい。【引継ぎの儀式】とは具体的に何をどうするのだ?」
未だにセバスチャンの言葉が信じられず、いまいちピンとこない俺はもちろん【引継ぎの儀式】の事もよく分からない。そんな俺を「さも当然」というような目で見つめたセバスチャンは説明を始めた。
「そもそもレンリン様が魔王討伐を成し遂げて帰還した折、レンリン様は魔王を斬った剣を封印しました。そしてその封印されし剣・ボクヨーの民の言う【聖剣】は、広場の石に差さっております。」
「ああ。知っている。しかし勇者学校の級友たちにそそのかされて引き抜こうとした時には抜けなかったぞ。」
おととしの夏だったろうか。勇者学校のクラスメートに引っ張られて来て引き抜かされた。だが【聖剣】はびくともしない。その様子を見ていた彼らは俺のことを嗤った。
「それはまだその時ではなかったからです。魔王も復活していないのに封印が解かれたら迷惑ですから。しかし魔王が復活した今、聖剣は【真の勇者】に引き継がれるのです!」
熱の入った、引き込まれるような説明。セバスチャンの語気に圧されるかの如く、俺は強く頷いてしまった。
「じい、分かった。【聖剣】を引き抜きに行けばいいのだな?」
俺はもう一度セバスチャンに確かめる。セバスチャンは「うん」と言った様子で力強く頷いた。俺も強く頷き、外へ向かった。

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