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ドンタコスゥコ商会と魔道船と その2

 おもてなし酒場でいつもの宴会になだれ込もうとした矢先に、魔道船コンビニおもてなし丸を発見したドンタコスゥコなんですが、予想通り僕の元に駆け寄ってきました。
「店長さん、あのコンビニおもてなしのカラーリングをほどこされてですね、コンビニおもてなしの名前の入ってる帆を掲げて空を飛んでるあれってば、ま、ま、ま、魔道船なんですかねぇ?」
「えぇ、そうですよ。こないだから運航を始めたところなんですよ」
 僕は、目を丸くしながら僕の顔を食い入るように見つめているドンタコスゥコに努めて冷静に答えました。
 僕が努めて冷静にしていれば、ドンタコスゥコもすぐに落ちつくんじゃないかと思ったからこの態度をとっていたわけですが……
「で、で、で、で、ですね、あの魔道船はどこまで運航しているのですかねぇ?」
 と、まぁ、一向に落ちつく様子が見えません……まぁ、そんなヤツですけどね、ドンタコスゥコは。
「今のところ、ガタコンベ近隣にあるブラコンベとララコンベの2つの都市を巡って戻ってくるコースを巡回してるんですよ」
 僕がそう答えると、ドンタコスゥコはですね、目を丸くしたまま、今度はその目を輝かせています。
「店長殿、あの魔道船には、馬車を乗せたコンテナがくっついていたように思うのですが、ひょっとして馬車を大量に運搬出来たりするんですかねぇ?」
「あぁ、そういう機能もついてるよ。一度に10台くらいなら運搬可能だし、コンテナを追加すれば最大30台くらいまでなら運搬出来るんじゃないかな?」
「うほ~~~~~~~~~~~~!嬉しい!楽しい!ドンタコスゥコ超感激~~~~~~~~~~~~!」
 僕の言葉を聞いたドンタコスゥコは、妙なダンスを踊りながら笑顔を浮かべています。
 で、そのダンスをひとしきり踊り終えると、ドンタコスゥコは改めて僕ににじり寄ってきました。
「て、て、て、店長殿、あ、あ、あ、あの魔道船をですね、ナカンコンベまで就航してもらうわけにはいかないのですかねぇ?」
「ナカンコンベ?」
 ドンタコスゥコの言うナカンコンベといえば、このガタコンベから馬車で1週間ほどかかるところにある辺境都市で、ドンタコスゥコ商会の本店がある都市です。
 東西南北に向かう街道が集結している場所らしく、この一帯で一番賑わっているブラコンベよりも街の規模も賑わいも倍以上なんだと商店街組合のエレエから聞いたことがあります。
 馬車で1週間なら、魔道船で寄り道なしの最高速で向かえば1時間もあれば行けるんじゃないかな。
 しかし、この賑わっているナカンコンベに魔道船の定期便を就航させるというのは、よく考えてみたら結構いい話な気がしないでもありません。
 ガタコンベ周辺の辺境都市群は、都市とはいってもはるか昔、この一帯が今の何十倍も繁栄しまくっていた時代に認定された物なんです。今の都市の規模だと辺境小都市か、街、場合によっては村に分類されてもおかしくない規模しかありません。で、辺境小都市以下に格下げされてしまうと王都からもらえる補助金が大幅にカットされてしまうため、そうならないために僕が不在の領主の代行を務めたりして、かろうじて辺境都市の地位をかろうじて認めてもらっている状況なんです。
 ですが、本物の辺境都市であるナカンコンベとの間に魔道船の定期便が就航すれば、人の交流が活発になる可能性が高いです。
 そうなれば、ガタコンベの街が今以上に賑わい、住人が増える可能性が無きにしも非ずじゃないかと思えるわけです。
「そうだなぁ……確かに面白そうな話だけど、僕の一存だけでは決められないかな。それに準備しなきゃいけないものもあるし」
「準備とは何がいるのですかねぇ?」
「魔道船を発着させるためのタワーを作らなきゃならないんだよ」
「そのタワーとは、どんな感じの物なのですかねぇ?」
 いつもなら、もうとっくに酒盛りに入っている時間なのですが、今日のドンタコスゥコはそんなことなどお構いなしとばかりに魔道船に関する質問を僕に矢継ぎ早に投げかけてきては、すぐにあれこれ思案していきます。
 おそらく、この魔道船を千載一遇のチャンスと捕らえているのでしょう。
 こういうチャンスを目ざとく見つけ、一度食いついたら絶対離れない……ドンタコスゥコのこういうところは、僕もコンビニおもてなしの店長として少し見習わないといけないなと思う事があるんですよね。
 もっとも、酒癖とか、絶対見習いたくないところも多いドンタコスゥコですけど。

 で、結局この日、ドンタコスゥコがどうしても乗降タワーを見て見たいというので、転移ドアを使ってブラコンベまで向かい、コンビニおもてなし2号店に併設されたばかりの魔道船乗降タワーを見学してもらいました。
「ほほぉ……これが乗降タワーなんですねぇ……」
 店の前に立っている僕の横で、ドンタコスゥコは感心した様子でそのタワーを見上げていました。
 店の密集地帯の一角にあるコンビニおもてなし2号店ですが、その天井部分から塔がドンと延びていまして、その先端に魔道船が接岸出来る仕組みになっています。
 これは、ララコンベにあります4号店もほぼ同じ作りになっています。
 タワーは極力周囲を日陰にしないように、細い筒状にしてありまして、その中に螺旋階段が設けられています。
「なるほど、このシンプル設計であれば、店舗の屋上に……ふむふむ……」
 ドンタコスゥコは、手帳に何やらあれこれメモをとりながら、熱心にそのタワーを見ていました。

◇◇◇

 で、この後のドンタコスゥコは、
「まぁまぁ店長殿、今日は魔道船のことを肴に飲むのですねぇ」
 そう言って、僕をおもてなし酒場に無理矢理拘留しましてですね、
『ぜひとも就航を!』
『お互いの都市の発展のために!』
『ぶっちゃけ、あれでウチの馬車を運んでくれるとすごく助かるんですねぇ』
 と、まぁ、僕のご機嫌をとりつつ酒盛りをしていったわけです、はい。
 で、
「店長殿、出来ましたらあの魔道船の関係者の方も交えて飲むわけにはいかないんですかねぇ?」
 唐突にそう言い出したドンタコスゥコ。
 なんか、お前狙ってないか? と、一瞬思ってしまいました。
 なんでかって言いますと、つい先程今日の最終便が就航を終えて池に向かって進んで行くのが窓の外に見えたんですよ。
 ただ、お客様対応兼コンビニおもてなし出張所担当の勇者ライアナは、いつも仕事が終わると
「マイラバーの観察に戻らないと!」
 って言いながらすごい勢いで直帰しますので、まず無理です。
 で、魔道船の操縦を行っているメイデンはですね、外からでないと解錠出来ない操舵室の中で操縦をしていまして、メイデンと一緒に暮らしている~監視しているとも言います~ブリリアンが迎えにいって、鍵を解錠し、ブリリアンの住んでいる小屋までつきっきりでメイデンを連行していくわけです、はい。
 なのでまぁ、連行されているところを見つからなければどうにかごまかせるかな……そんな事を僕は考えていたのですが、
「そうですか、あなたがあの魔道船を操縦なさっているメイデンさんと言われるのですね?」
「そうです。朝から晩まで個室に幽閉され、ひたすらこき使われているこの私こそメイデンと申します」
「って、うぉい、ブリリアン! まぁたメイデンが脱走してこんなとこに来てるんだけどぉ!?」
「うわぁ!? 魔道船の中にいないと思ったら!? い、一体どうやってあの中から逃げ出したんだぁ」
 と、まぁ、いつの間にかドンタコスゥコと酒を飲み始めていたメイデンを、ブリリアンと2人がかりで取り押さえにかかった僕だったわけです、はい。

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